海岸からの救援要請
海産物大好き系の準備運動です。
「なんだが…すごい侯爵様だったね
アリシアのことすごい罵倒にしていたっていうか」
「先代の侯爵様はそんなことなかったのに
今のジャクソン様はなんだか、クラリス様の方ばかり見ていたよね」
「そういえば忍
さっきから黙りこくったままだけど何かあったのかな?」
アルビレオ城を抜けて、一同はカロリ街へと戻る。
近くの組合に宿を紹介してもらい、海沿いの通りを歩いていた。
ティナとニコルがアリシアの身を案じていたが、忍の挙動がおかしな事に気がつく。
そう、海沿いの市場通りを歩いていた時から挙動がおかしくなったのだ。
この市場は海産物が所狭しと並び、露店には炭焼きで貝が焼かれており辺りかまわず美味しい海鮮の匂いが漂う。
そのせいか、忍は黙りこくってしまい瑠香は何度も息を荒くして不穏な空気を醸し出す。
「…ぬす…どこ?」
「瑠香さん、あの何か言いましたか?」
マリウスが瑠香の聞き取れない言葉に耳を傾けようとした瞬間だ。
目はガンギマリ、口からはだらしなく涎を垂らしそうに口を半開きにする。
ひっと声を漏らし、瑠香の手が震えているのに気がつき手元を見た。
それが間違いだった。
瑠香の手には赤黒い液体の入った瓶の入れ物があり、震えているためか中の液体が撒き散らしそうな勢いで中身が揺れ始める。
それに気がついたウルムが止めようとしたが遅かった。
「ホンビノス貝はどこにあるの!?!?
千葉県民の血がうずく!
もうダメ…もうむり…海星府まじ許せん!」
「俺が我慢していたのに、ホンビノス貝の名前を出しやがって…
蛤はどこで食えるでありますか!」
「「牡蠣のガンガン焼きが食べたいであります!!」」
「「「「食欲ブースターが発動したぁぁぁ!!」」」」
2人は地面に這いつくばったかと思うと、ヘッドスピンをしたりブレイクダンスを踊ったり仕舞いにはウルムに対してお恵み下さいと頭を下げ始める。
堪らず周りを見渡し助けを呼ぼうとしたが、誰も助けになれないとばかりに首を横に振り始めた。
もうダメかもしれないと思ったらウルムは空を眺めて雲を見つめる。
誰もが諦めていた時だ。
「あんたらが異世界から来た旅人達かい?
俺はこの先で宿屋をやってるウォーレンだ
急で悪いけど、俺からの任務だ
海岸の一角を清掃して欲しいんだ
このままじゃ沖の船が帰って来れないだ!」
ウォーレンと名乗った初老の男が指差したのは、白波が海岸に迫り海岸には流木や廃材で作ったであろう浮きや網が流れ着いていた。
沖には船が点在し、海岸に戻れないせいでどうにもできないでいた。
ウォーレンが困り果てている様に頭を何度も掻きむしる。
「街のみんなでなんとかやってるんだが、どうにも人が足りん
このままでは、港に帰れなくなる
頼む…お礼は宿代を半額と海鮮料理…うぉ!」
海鮮料理と聞いた忍と瑠香はゆらりと体を起こして、声に出ない掠れた様な声を上げ始め身体から赤い蒸気をもうもうと立ち込め始める。
いつのまにか瑠香の手にはチェーンソー。
忍の背には大型のガスボンベが二つが背負われ、片手にはチューブのついた長い棒を右手でしっかり握りしめる。
何かを察したウォーレンが、助けを求めてニコル達を見た。
それが間違いだった。
「みんな聞いたね?
これは任務じゃない
困った時は助け合いだよ…あとは言いたい事わかるね?」
ティナが俯きながらゲス顔を浮かべ、1番のマトモ枠のはずのマリウスは剣を抜き刀身に薄く炎を灯す。
そう、このパーティ自体この街に着いた時点で腹ペコであり瑠香が海鮮料理を口にするものなのだから、お腹が空きすぎて半ギレ状態になっていた。
そんな状態でも助けてくれそうなウルムに、ウォーレンが泣きそうな顔で声をかけようとしたが無駄だった。
「このガスバーナーだっけ?
ちゃんと点火するから問題ないぞ?
適当に流木をぶった斬って、仮説コンロにして鍋に魚とか入れようぜ?
美味い飯は俺っちが作ってやるからな!
特に瑠香は暴走すなよ?」
「皆さん準備はよろしいですか?
討伐の時間だオラァァァァァ!!!」
気が狂った様に各々武器を持って走り始めた。
ティナとニコルは浮遊魔法を唱えて木々を動かし、巨大な流木は瑠香とマリウスが切り刻み、ウルムが運び出して薪をくべる。
それを繰り返していくにつれて、時間は夕方になっていき荒れ狂う海は穏やかな夕焼けに染まり海岸のゴミは綺麗になっていた。
「綺麗になってやがる
運河まで綺麗になったから港に船が戻って来れた
助かった…ん?」
ウォーレンが訝しげに5人を見つめた。
準備運動をやっていたかと思うと、忍が現れ棒の先から小さな火種がチロチロと見えていた。
「いぇぇぇぇええ!!
ファイヤァァぃァァァァァァ!!」
忍の叫び声が海岸に響き、沖から戻ってきた漁師達がウォーレンと共に固まって海岸にいる6人組を見守る。
お礼に採れたての魚を持って来ようとしたがどうしようかと困惑する。
そんな姿を遠くから、ウォーレンがいる反対側の建物の影に隠れてアリシアが羨ましそうに血涙を流して見ていた。
(うらやまじぃぃぃぃぃぃ!!)
海産物が食べた過ぎておかしくなった6人。
瑠香はホンビノス貝を、忍は岩牡蠣を求めてました。
ティナやニコルも海産物を求めて海岸清掃に躍起になってます。
マリウスは白騎士団でのストレスを発散させていました。
ウルムは料理することしか考えてません。
ウォーレンや漁師は驚き、アリシアは羨ましかったみたいですね。
次回も楽しみに




