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四つ巴の決闘(2)




「平和だねぇ」


「そうだねぇ」


「なぁみんな

シンディばあちゃんから、パンプキンタルト貰ったからよ

みんなで食おうぜ!」


「「「「大賛成です、ウルムさん!」」」」




一週間後に控えた決闘喜劇(バトルフロンティア)に向けて、対戦相手達は訓練に勤しむと聞いていたチーム異邦人。

相変わらず、魔神のお願い事である娘の捜索を王凌府(ヘラクシス)で継続中。

街の人々は久しぶりの決闘喜劇(バトルフロンティア)が開かれる事に、どこかお祭りモードになっている。

しかし、どこ吹く風とばかりに協会(ギルド)から出されている低レベルのクエストばかり行っていた。



「うまぁぁぁぁぃ!」




「うん、紅茶とよく合うね

かぼちゃも糖度が高いから、優しいけど濃厚な甘味が良い

タルト生地もサクサクだけど、しっかりバターの風味もしている

かぼちゃの甘味とタルトの甘味が喧嘩してない

こう言うのつくりてぇなぁ!」





「忍が食レポしてる

瑠香はうまいしか言わないし」


「ティナ…ヨダレすごいよ」


「ニコルも滴り落ちてるよ」


「2人とも、ヨダレすごい!

俺っちなんか持ってくるから待っていて」





シンディばあちゃんからの差し入れに、心がポカポカする5人。

庭木の手入れと薬草採取がシンディばあちゃんからのお願いだったが、それ以上に貢献したためにパンプキンタルトをご馳走になってしまう。

アーガス養鶏場に行って外柵の修理と、寝床替えを手伝った報酬で卵を割れば黄身が3つ出るという三重卵(トリプルヨーク)をたくさんもらってしまう。

あまりの多さに困惑して、低姿勢になりすぎる勢いでお礼を言っていた忍。




「こんなにもらっていいのですか?

私たちは大した事はやってませんよ?」



「良いんだよ!

どんなに経験のあるパーティが来ても、半日やりゃへたる

だけどあんたらはすごいぜ

たくさん持っていきな!」


「「「「「ありがとうございます!」」」」」


「今度の決闘喜劇(バトルフロンティア)

頑張れよ」


「「「「「あざっす!」」」」」





そうこうしていたら夜を迎え、宿に戻る。

驚くゴルドゥマスターと宿主のスミフにクエストの報酬を確認してもらい、自室に戻る。

また広間に戻り、夕食を済ませてエントランス横の会議室にゴルドゥとスミフを招待しラム酒を酌み交わす。

目に見える成果をどうやって化けさせるかをみんなで考えていた時に、瑠香が口を開く。



「みんな、作戦会議やるか」


「えむえむかい?

ゴルドゥさん達を呼んだのはそう言うことか」


「「「「えむえむ?」」」」


「何が始まるんだ?」




初めて聞く単語にティナ達はは首を傾げ、互いに顔を見合わせる。

あらかじめ持ってきたであろう、地図には城を中心に第一関所を入り口とした国をすっぽり覆う円形の防壁と街並みが描かれている。

それが意味する事に、忍以外気が付かないでいた。





「今からやるのは、MMっていう作戦会議

マップマニューバっていう、作戦計画だよ

倒す敵の目的と、出端を挫くために何をするか

そして相手の弱点から、絶対に触られたくないところを中心で考えるからね」





マップマニューバー。

地図や地形図を用いて個人やグループなどを表す駒を動かしながら時間経過に沿って行動を確認し、計画すること。

災害発生時の行動の確認などにも用いられる。

だが今回の場合、瑠香はあくまで軍事作戦を行うために使うという。





「今回のクエストで、街の外観とかは地図に反映できた

もちろん白騎士団の動きも全部

向こうは本気だと思うから、それなりに対策しないとね」


「まさか、ずっと私たちのこと」


「ニコル、大正解です!

後で卵蒸しパンあげる!」


「こんな正解は嫌だぁぁあ!」






苦笑いを浮かべながら瑠香が言うにはこうだ。

街を取り囲む防壁は分厚く、その中に白騎士団や黒騎士団。

加えて戦闘魔法団の各事務所のようなものが置かれている。

街の壁にはうっすらと境界線らしい印が施されており、各地区で分かれているのだと言う。

それがわかったところで何もならないが。






「ねぇ瑠香ぁ

今回、白騎士団長のオスカーさんが私たちに決闘を挑んできたのってさ」


「名誉の挽回じゃないかな?

私と忍さんがここにきた時に暴れ散らかしたから

それで怒ったんだと思うよティナ」


「それさ瑠香達の戦闘方法が、アルメリアのやり方と違うから余計に手間取ったんじゃないの?

それで怒ってメンツが潰れたって」


「ねぇ2人とも

ニコ、思ったんだけどさ

そんなに面子がって言うなら、最初から加減しなきゃよかったのにね」





 話が進んでいくうちにゴルドゥマスターやスミフは違和感を感じ始めていた。

これがただの軍事演習前の下準備ではなく、まるで誰かに聞かせているかのように、そして自分たちの置かれている立場が危ういものであると言うことを証明させるために。

 じっとりと汗が伝いそうになるスミフが口を割って入ろうとした瞬間、ニコルやティナは魔法を発動させていた。



「…なんでばれたんだにゃ?」


「あなたがずっとつけていたの

ばれてますよ、白騎士団の密偵さん

猫耳かわいいねぇ!」


「どうすんだよこいつ!

MMって作戦がばれたじゃねえかよ!」


「「「「「ばれてないですよ?」」」」」


「「ええ?!」」






ゴルドゥやスミフは二重の意味で驚いたが、1番に驚いていたのは白騎士団の密偵の方だった。

どこかあっけらかんとしている5人に、どう反応すればいいか分からずにいた。





「黒騎士団の密偵殿

そんなに壁に張り付いていたら疲れるでしょう

卵蒸しパンを食べてくださいな」


「ぇっ…俺のことも気が付いてたの?!!」


「セレーナさんらしいね

私の杖の上に蝶が止まってる」




2人プラス1匹の密偵が雁首揃えた瞬間、瑠香は作りたてのたまご蒸しパンを振る舞いスミフがコーヒーを出す。

困惑する姿を見てゴルドゥは笑いそうになっていたが、次第に密偵の心を掴み解放することを約束していた。





「あたいは白騎士団直属のアサシンのエリー

獣人族の中の猫族だにゃぁ」


「黒騎士団のアサシン、コンボイ

見逃されたのは分からないが…ミザール団長になんて言えば」


「…」




「今回は解放するけど次はないと思ってね!

各団長さんによろしく言っておいてね!

と言うことで今日は解散しまーす

入っと言うことで、閉廷…裁判おしまい!」




最後の最後で瑠香と突拍子もない発言を受け、その場にいる全員が肩透かしを喰らうハメになった。



「気をつけて帰るんだぇー

これでいい?」


「バッチリだよウルム

お父さん感激!」


「忍ってお父さんだったっけ?」



密偵達はもともといた場所に帰って行ったのだろう。

宿の戸を開けてしばらく経つ頃には、気配が完全に消えており、所在を掴むことはできなくなっていた。

作戦会議は結局のところ失敗したのかとゴルドゥやスミフが落胆するが、瑠香達の顔を見た瞬間にビクッと固まる。



「…あんたら、何かしたのか」


「明確な宣戦布告ですよ

何もしないわけがない

密偵さん達には悪いですけど、本気出させてもらいます

今回の決闘喜劇(バトルフロンティア)はなんでもありとセレーナさんから聞いてます」



「忍さんでしたっけ?

一体何をするおつもりで?」


「簡単なことですよスミフさん

売られた喧嘩は買う、正々堂々なんて事はしません

MMは本来そう言うことのために使うのです

行き当たりばったり…騙し討ちです」




とてつもない恐怖と忌避がネットリと絡む気配を覚え、スミフは固唾を飲混ざるを得なかった。

まさかあんなことになるなんて、この場にいた全員以外予想はつかなかった。



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