四つ巴の戦乱(1)
メラク王のお願いを聞き入れたまでは良かったみたいですが、どうやらうまくいかなかったみたいです。
忍の猛攻を掻い潜っていた瑠香が、メラク王の隣に立つティナとオスカー白騎士団長。
オスカー白騎士団長の腕を組むように、深めの赤茶色のロングヘアーと整った顔立ち。
タイトな黒いドレスを纏う女性の4人で話しているのに気がついた。
咄嗟にティナだけではまずいと思ったのだろう。
駆け出してティナの間とメラク王の間に、入っていく。
「あの、うちのティナに何かありましたか?」
「なんだ、緑色の変わった服を着た男
下品が写るから近寄らないでくれ!」
「オスカー様、それは失礼ですよ?
私はセレーネ・プルートと申します
以後お見知り置きを…あなた女の子?!」
「そうです」
セレーナが感嘆の声を上げるのだから、その場にいた全員が王の方へと目線を向ける。
そんな目線など無視するかのように、セレーナは瑠香とティナの頬をたはーっと言いたげに、撫でくりまわす。
被害者の2人は美人に撫でくりまわされ、幸せそうでどこかきっしょい笑顔を見せる。
「ところでメラク王
なぜ臣民でもない、異邦人をこの国…
ひいては皇国中に蔓延しているアレの調査をさせようとするのですか?
我々白騎士団だけでは、到底解決に向かわないと!」
「違うよ
皇国を蝕みつつある謎は、皇女様が行方不明になったと同時に拡大を見せた
異邦人である彼女らが救いならば…あるいは」
「話になりません!
セレーネ戦闘魔法長、この財前なる人間を城外に魔法で飛ばすんだ!」
城外に飛ばすと言った途端、嫌な気配をようやく察知して唸り声と共にニコルがオスカー白騎士団長の前に立とうとする。
ウルムに至ってはふわふわと浮きながら、綺麗にしたばかりのフライパンを持って戦おうとする。
咄嗟に構えて瞬きをした瞬間、灰色と深緑のマダラ模様の背景が目に飛び込んできた。
「な…なんだ、いきなり」
「俺の娘達に手を出すつもりですか?
思い出しましたよ…
貴方、随分と前に城の中で瑠香に雷弾をご馳走になった騎士団長さんじゃないですか
お久しゅうござんす」
「お前は、あの時の!?
…あの時、お前のせいで我々は…我々は!」
オスカーの放つ言葉でその場にいた全員が固まった。
確かに瑠香達が最初にアルメリアで接敵した際にいたのは、オスカー率いる白騎士団。
しかも魔人が見ている前で、大敗を期したのだからいい思いをしていない。
瑠香達が思い出した瞬間、怒りは爆発してしまった。
「我々白騎士団は正式的に、お前達に決闘を挑む!
黒騎士団にもだ!
あの時は戦力が足りていなかったからな
今に見ていろ!」
そういうと、オスカーは庭園を後にし、後ろで控えていた騎士を連れて移動していく。
時より恨み節のようなものをわざと聞こえるように、吐き出す様は見ていて不快でたまらなかった。
「ごめんなさいね
あいつ…一度火がつくとめんどくさいの
私達戦闘魔法団でも、あいつのこと毛嫌いしてるのよ」
「そうだったんですか…」
「そんなに嫌そうな顔しないで、ニコルさん
でも、私もあなた達と戦ってみたいの
決闘というよりも、経験として
ミザール黒騎士団長は?」
頭を抱えて掻きむしるミザールを見ながら、セレーネはニコルの尻尾を撫でくりまわす。
ご満悦な表情を浮かべるニコルとは対照的に、ミザールは苦渋の決断とばかりに縦に首を振るう。
相当苦労してきたのだろう。
眉間の皺が深く掘られていき、半ば呆れながら口を開いた。
「我々黒騎士団も、騎士団の練度向上のために参加する
なお白騎士団には、一切加担しない
またこうなったかぁ」
四つ巴の戦乱が火蓋を切って落とされようとしていた。
メラク王自身も落胆し、セレーネが王を気遣うようにラム酒を魔法で呼び出す。
どうしたものかと頭を抱えている、メラク王やセレーネ。
ため息をついてヨロヨロとへたり込もうとするミザールの心中を察するが、瑠香達は頭の中であるオペレーションのイメージを始めていた。
「後で作戦会議しよう?」
「「「「うん」」」」
苛立ちを覚えて、鉄フライパンを振るウルムの発言にチーム異邦人達は作戦会議を決行する事を唐突に決めながら、焼きトラウトにがっつく。
5人の意思は決まっていた。
正攻法では通じない、騎士のプライドがズタボロになるであろう騙し討ち作戦を思いついてしまったのだから。
「それにしても俺の味噌…」
夕刻になってアクルックス城を出て宿に戻る。
味噌がなくなったことに対して、相当ショックを受けたであろう。
しょげた顔をした忍がトボトボと三姉妹の後ろを追うように歩く。
ごめんなさいと言いたげに忍の頭に乗るウルム。
相変わらずね灰色と深緑のマダラ模様の服を着ており、ティナが不思議そうに振り返って忍を見ていた。
「その服は何の服?
いつもきている服とは全然違うね」
「これの事かい?
これは、迷彩服だよ
瑠香が着ているのとは全く違う
いつもの服は、降下服っていう服なんだ」
それ以上はどこか口どもることがあり、話したくなさそうな雰囲気を醸し出していた。
心配したティナが声をかけようとした時、前を歩いていたニコルがよろけて尻餅をついてしまった。
「イテテテ…
大丈夫、怪我してない?」
「あっ…あの、あの!
ごっごめんなさい!」
「いいよ別に気にしないで!
君が持ってるそのカード、イロアーズカードでしょ!
私も集めてたよ!」
「そっそうなの?
狼のお姉さん」
ぶつかった相手は見た目からして6歳くらいの男の子。
買ったばかりのイロアーズカードと呼ばれる騎士が描かれたカードが地面に散らばっていた。
ニコルが男の子を立たせている間に、残りの人間で散らばったカードを集めて渡す。
「これどうぞ」
「ありがとうございます…お兄さん!」
「ドウイタシマシテ」
瑠香に大ダメージが入った瞬間に笑ってしまう4人。
キョトンとしてい男の子に何でもないよと、笑って答える。
「あの…ほんとうにありがとう
それじゃあ!」
そう言いながら街を駆け抜けていく。
ショックで固まる瑠香を無理やり歩かせて、宿に戻っていくのである。
品がないしか言わないオスカー白騎士団長。
何をしでかすかわからないですし、呆れた言動にキレた忍。
オスカーのことを思い出してニコルの前に立って壁になったようです。
さらに激昂したオスカーはありとあらゆる方向に喧嘩を売ったみたいです。
メラク王も、ミザールもセレーネも頭を抱えてしまいました。
さぁどうなるかな?
最後に出てきた男の子はまた出てきます。




