騎士達の円環
城下町を抜けて王凌府の本山へと向かいます。
城下町をゆっくりとルベルト副団長の案内で歩く5人。
街並みはどこか北欧の様なカラフルな建物が多く、瑠香にはその全てが新鮮に見えていてどこか懐かしさの様なものを覚えていた。
「綺麗な街並みだなぁ」
「瑠香の故郷にはないの?」
「ないわけじゃないけど、珍しいんだよ
心奪われてしまってね
いいなぁって思ったんだ」
「そっかぁ
でもニコは見てみたいよ?
瑠香や忍が住んでいる日本っていう国」
「抜け駆けしたら許さないよ」
「なんでそこでティナは怒るのかな?」
「みんな私の住む日本においでよ
と言うか千葉においでよ!
東京もおいでよ!
友達呼んでみんなで観光するっしょ!!」
「それって前に言ってた白バイの姉御のこと?
それとももっと違う友達の事?」
「その人もだけど、あたいの友達
前に言ってたオタクだけど清楚系ギャルみたいな子達」
「ティナ、抜け駆け許さんぞよ?」
「ニコもそうやってすぐ怒るー」
女子特有の空気感に男性は皆置いてけぼりを食らっていた。
ルベルト副団長はどう話に切り込めばいいか分からず。
ウルムですらなんとかいつもなら食らいついて行こうとするが何故か今日は突き放されていた。
そして自称みんなのお父さんと言われる忍は、肩を縮めて震えて歩くしかできない。
(((女の子達の結束力怖い!)))
戦々恐々と歩き王凌府の中心に聳え立つ巨城アクルックス城の第一城門に辿り着く。
楽しそうに話していた女子3人だが、ルベルト副団長が歩みを止めたのに気がつき、自分たちも歩みを止めた。
そして驚愕してしまった。
自分たちのいる第一城門から右側に白い甲冑を身につけた騎士が、左側には黒い甲冑を身につけた騎士がずらりと整列している。
「なぁぁにこれぇぇぇ?」
「なぁ忍?
俺っちの目はおかしくなったのか?
頭がおかしくなったのか?」
「ぁぇぇっとぉ
なんかどうなってんの?」
「ティナの言語がめちゃくちゃになった」
「そう言うニコルのしっぽ
ずっと下がってるけど大丈夫?
あれ、瑠香が固まって動かないけど?」
「…」
「大変だ
立ったまま失神してる」
そこから5人の記憶はいきなりブツっと途切る。
気がついた時には、髭を蓄え王冠を冠り金色の甲冑を纏う初老の男がいた。
そう、城主にして王であるメラク・ヘラクオウが高台にある王座に座っていたのだ。
下段には円環を模したテーブルがあり、その椅子には透き通るような白い肌に金髪で緑色の瞳。
白い甲冑に映えるように紅いマントをつけた男が座る。
その反対には、肩幅は広く黒髪で少し日焼けしたような小麦肌。
これまた黒い甲冑を纏い、紅マントをつけた男が座る。
「ようこそ、我が王凌府へ
ちょうど君たちの話をしていたんだよ
一級魔法士のティナ・ウィナー
一級詠唱士のニコル・ヴォルフガング
屋敷妖精のウルム
異国の地より来た財前瑠香
そして…神前忍」
その王の気迫に一気に気圧され、5人は片膝をつき頭を下げた。
こうしないといけないと言うものではない。
純粋にしなければならないと言う脅迫のような物を察知した。
「…ちょっとそれやめてくれる?
僕そんな王様とか嫌なんだけど?
昔からみんなそんなことするから、やめさせてるんだよね」
「「「「「あ…あだぁぁぁぁ!!」」」」」
「がっはっはっは!
ティナさんやニコルさんはともかく
異国の人たちは驚いてずっこけたな!」
「全くもって品がない!
バカが移るから戻ってこいルベルト!」
「…はい」
ルベルトが白い甲冑を纏うリーダーらしい男のもとに歩み寄り、その側で立ち止まって瑠香達を見つめる。
馬鹿にされていると察知した忍だが、反対に座る黒い甲冑を纏うリーダーらしい男が苦笑いを浮かべて申し訳なさそうに5人を見ていた。
「皆、挨拶をしてあげなさい」
「では…俺は黒騎士団団長のミザール・レグルスだ
よろしくな
副団長は今、別件でいないからまた会うことあったら紹介する」
「白騎士団団長のオスカー・ロイルだ
まぁせいぜいこの国を楽しむんだな」
「副団長のマリウス・ルベルトです
中央府のギルドであなた方の記憶を見ていたんです
よろしくお願いします」
この瞬間に瑠香の頭の中を、何かがよぎった。
王を除いた騎士達が囲う円環の卓の中で、この3人の強さの順序とも言えるようなものが。
それを口にしないようにグッと飲み込み、立ち上がったがオスカー・ロイルは席を外しそのままどこかに去ってしまった。
ごめんなさいと謝って後を追うルベルト。
頭を抱えてため息をつくメラク・ヘラクオウとミザールが申し訳なさそうに瑠香達を見ていた。
「いや、すまないな
あいつこの所ずっとあんなんで
メラク王も困ってるんだよ」
「僕も何度か注意してるんだけどねぇ
嫌な気を起こしたらごめんね」
「滅相もありません
このくらいのことで私達は…」
ティナが頭を下げていたが、ウルムの渋い顔によって何か嫌なことが起きつつあるのではとニコルが警戒し始めた。
どこか遠い目で見つめる忍と、心中お察ししますとこれまた渋い顔をする瑠香。
場がシーンと静まり返った時だ。
「そうだ…僕ね、財前さんと神前さん住む国のことを魔神様から教えてもらったんだけど
ちょっと変なお願いをしてもいいかな?」
「それはどのようなことでしょうか?」
「我々にできることなら」
「頼もしいねぇ
僕こう見えても結構、食べるのが好きでねえ」
王というのは美食家が多いのだろうかと、訝しげに見るウルム。
食べるのが好きと聞いた瞬間に、何か食料調達の任務が与えられるのかと考え込むティナとニコル。
そんな疑念は一瞬の言葉ですっ飛んでしまった。
「なめこのお味噌汁っていうの?
食べてみたいんだけど作れる?」
「あー、始まっちまったメラク王の悪いところ
無理なら無視していい…財前さんと神前さん?
ヨダレすごいことなってる!
滝のように流れてる!?」
「「「ぅぇええーー!!!」」」
「もちろん作りますよ!
目玉焼きと炊き立てのご飯で優勝していくこととするわね」
「焼き鮭もいるだろう?
目玉焼きじゃなくて卵焼きにしようや
日本人は米と味噌汁
たまんねぇぜ」
メラク王のお願いが、日本人の食欲を駆り立ててしまった。
殺伐とした空気から食欲カウンターへの全振りが始まるのを、メラク王が後悔したがもう遅い。
2人はメイドに付き添われるがまま、厨房へと歩みを進める。
そう調理実習がスタートするのだ。
初めて登場しました。
王凌府の王にして城主であるメラク王。
そして黒騎士団と白騎士団の長が現れました。
豪快気質のミザール黒騎士団長と、いけすかないオスカー白騎士団のが現れます。
何やら嫌な予感がありますが、メラク王のなめこの味噌汁を調理しないといけません。
嫌な予感は払拭されるのでしょうか?
メラク王のなめこの味噌汁は完成するのでしょうか?
次回もお楽しみ




