王凌府(ヘラクシス)
王凌府に到着したみたいです。
ですが、どうやらよからぬことがあったみたいですよ。
四方を標高2500メートル級の高山が連なるでタリタウス山岳連峰と巨大な湖であるアルニラム湖に囲われる国。
王凌府は、かつてヘラクロウという質実剛健を体現した王が国を納めていた。
幾多もの戦闘の末、巨国の一つとなったのだと言う。
小さな族からひいては魔神軍とも闘いあったとも言われる。
歴代の国王はへラクロウを名乗る。
「だからここでは、勇敢な騎士が多く輩出されるの!
騎士だけじゃなくてありとあらゆる戦闘に特化した人がね!
……うげぇ!」
「まあ平たくまとめたら…みんな強いの…
うへぇ!」
「なぁ俺っち達、休もうぜ
体の震えがとまらねぇ」
「降下した時に酔ったんだな
とりあえず宿を押さえて早く休もう
…瑠香、どうした?」
「休むの賛成
こっち向かって嫌な何かを探知した」
「「「「え?」」」」
城下町に入るため、橋を越えて第一関所を通過しようとバテバテの5人組。
関所を越えるため中央府の組合で登録しておいたクラスカードを取り出していた最中だった。
嫌な何かを察知した瑠香は、橋の向こう側に見える街道を嫌なものを見るかのように据えた目で見つめる。
「なんだ…敵か?
そうだと言うんなら」
「忍はすぐ戦闘体制に入るのやめてよー
この足音は…馬?
甲冑の擦れる音もするし、騎士団じゃないかな?」
「ニコルは耳がいいねぇ
お父さんにもその聴力分けてよ」
「一旦は逃げよう
協会組合に一度行ったほうがいい」
瑠香の何処か余裕のない表情に4人全員が固まる。
協会に到着し、自分達の受ける任務やクエストに目を通して足早に目的の宿に入る。
ティナやニコルが部屋に入って、荷下ろしを終えた瞬間に気がついた。
「瑠香の気配がない…どこ行ったの?!」
「忍の匂いもするの
心音だって聞こえるけどぼやけてわからない!」
慌てて人探しの魔法を発動し光の帯を見ながら進むティナ達。
途中でウルムも慌てた様子で忍を探していることを伝えて、宿中を探す羽目になっていた。
冷や汗をかいて探すこと15分。
2人は宿から通りを見渡せる窓から外の様子を伺っていた。
だがその異様な光景にウルムは固まってしまう。
「驚かせないでくれよ
俺っちびびったんだよ
片膝なんてついて…小銃だっけ?
なんで構えてるだ?
なぁ忍、今日の飯はむぐぁはまなたらた!」
「悪いね3人とも
今ここで気配を出すわけにはいかないんだ」
瑠香と忍が小銃なる武器を構えて窓の外をじっと見張り続け、暴れるウルムの口を手で覆う。
「めんどくさいのは2人か」
宿の外には白い甲冑姿の若い男性が2人。
その周りに若い女性が取り囲むようにして、宿の入り口に立ち宿の主人と何か話していた。
何事かとティナが窓を覗こうとするが、瑠香に制止され右手を上下に小さく振り、親指で後ろに来るように合図を送る。
『姿勢を低くして
自分達の姿が見えないように、私の後ろに来て』
と言いたげだった。
「ちょっとどう言うこと?」
「端的に言うね、ティナ
あいつら私たちのこと探してる」
「え?」
「別にこんにちはって言って会ったらいいのに」
「そう思うでしょ?
誰かのお使いなんだろうけど
なんであんなに重武装なんだろうね」
「「「…ぁ!」」」
王凌府と言う国の特性上、騎士や重騎士が街中を歩いているのはおかしな話ではない。
だが、誰かに会うだけで重く機動性に欠ける甲冑をわざわざ着て会いに来るだろうか?
来てくるものかもしれないが、わざわざむき身の剣を主人に向かって突き立てるだろうか?
そう考えた瞬間に、ただの人探しではないと察知した。
「おい…おい!
こっちに来な!」
「…あなたはアルファルド協会長の」
「ゴルドゥだ…
あんたらなんで白騎士団に目ぇつけられた?
とりあえず降りてこい
スミフが相手してるかっらよ」
初老だが、恰幅のある体格に背丈は優に2メートルを超えているだろうゴルドゥが階段を途中まで登って身を乗り出し、手すりの間から瑠香達を手招きする。
階段を降り切って、宿のロビーを抜け協会長室に通される。
「改めて自己紹介だ
俺はゴルドゥ・アルファルド
この協会のマスターだ
弟のスミフはここの上で宿やってる…
あんたらの事は龍生府のマスターから聞いた」
「改めてよろしくお願いします
我々自体、白騎士団に目をつけられる理由がわからないのです
ですが、匿ってくださってありがとうございます」
「いいんだよ…
最近のあいつら、俺は気にくわねぇ
ルベルトさんはいいんだがな…団長がなぁ
そういえば、スミフが帰ってこねぇな」
何かを察したニコルが弾けるように外に飛び出していく。
まずいと思ったティナはいつでも戦闘に備えて、隠していた杖を呼び出しそのまま走り去っていった。
何がどうなっているとゴルドゥが慌て出し、外に出た時だった。
「あんたら、この人に何したんだ?」
「ようやく出てきたか!
我らは白騎士団
オスカー・ロイル団長の雪辱を晴らさせてもらう!」
「スミフ…無事か!」
「ゴルドゥ兄さん…すまない
追い返せなくって
この人たちに助けてもらったんだ」
「そんな事はいいが!
おい白騎士団…なんでこんな事を!」
ゴルドゥの非難が聞こえぬほどに、周りを取り囲む女性の黄色い歓声が響き渡っていく。
まるで悪を匿う敵分子を、己達の手で成敗しようとする様がかっこよく見えたのだ。
当然としてゴルドゥにも、その目が向けられていた。
「ガキの喧嘩じゃねぇぞ!
俺たちを弱い者いじめをして何が
…っおい、あんたら!」
「もぅ頭に来た…狼化してもいいでしょ?」
「この人たちの頭の上に、氷落としてやるわ!」
「俺っちだって精霊だぁ!
仲間の精霊呼んで、羽まみれにしてやる!」
3人が戦闘体制に入っていくが、それをピシャリと止めるくらいに忍がニコニコと笑いながら3人の頭をぽんぽんと撫でる。
そしてだめだよと言いたげに首を横に振って見せた。
「3人が手を出すほどじゃ無いよ?
ところでだ、三下小僧共
お前ら、何をイキってるか知らねぇがすっこめ
なんら罪の無い人間を殴ろうとするなんぞ…」
「状況開始」
3人の怒りを超えて、2人の異常なまでの殺意が場を飲み込む。
怒っているだけじゃ済まされないくらいに。
忍は自分の体の周りから黒いタールのような液体を発現させ、液体を中心に黒色の雷を発現させる。
「やめないか、2人とも!
臣民に無礼を働くとは何事か!」
聞き覚えのある声と、場を制するほどの力強さを纏い白い甲冑に紺色に金字のストライプ線が入ったマントをなびかせて男が颯爽と現れる。
「ゴルドゥさんにスミフさん
我が部下が失礼しました
驚かせて申し訳ありません」
「いや…まぁなぁ
ルベルト副団長さんが来てくれたからなぁ」
「この罰は私の方で必ず…
それと止めてくださってありがとうございます
ティナ・ウィナーさん」
「はっはい!?」
「ニコル・ヴォルフガングさん」
「はい!?」
「ウルムさん」
「へっ…え!?」
「神前忍さん」
「…あぁ」
「財前瑠香さん」
「はい」
「我らの王が皆様にお会いしたいと言っております
ですから私が城まで案内いたします
よろしくお願いします」
どこかで見たことがある様な?
などと詮索する忍。
だがそれ以外の人間は思ってしまった。
青髪のキリッとした顔立ちにスッと伸びる背筋。
白い甲冑がよく似合う好青年であり、騎士であるということに。
「遅くなりました
私はマリウス・ルベルトと申します。
ようこそ王凌府へ」
敵の気配を察知したみたいです。
ですが、今回の相手は白騎士団なる存在です。
忍は下級騎士がスミフに対して無礼を働いたことにカチンと来たみたいです。
それはみんな一緒。
ルベルトが止めたので良かったですが、本気の5人がどれほど恐ろしいか…後々判明します。
今回登場したのは
ゴルドゥとスミフです。
また登場しますのでよろしくお願いします
次回も楽しみに




