大空を舞う龍の背中にて
龍生府から出発し、次の目的地として掲げている王凌府に向かう道中です。
「いいねぇ…風が気持ちいい」
「関東一帯なんて排気ガスまみれだからな
肺が浄化されていくよ」
「「「まじで待って…しんどすぎる!
もう歩けない!」」」
「…ありゃ?」
「3人潰れてるじゃないか
どうなってるんだよ第一空挺団!」
「だーかーら!
それは第一挺進聨隊もおかしいんだってば!」
「「「2人の体力がおかしいの!
いい加減に気がついて!」」」
龍生府を出て1日が経った。
今は龍生府を出国し25キロの地点に差し掛かっている。
あらかじめ中央府で買っておいた地図と瑠香が持っていた軍用方位磁針とを見比べながら歩いている最中だ。
これまた魔法でできた地図のため、瑠香の思う地図のイメージに反応して羊皮紙が変化してくれる代物。
今、瑠香の手元にある地図は陸自で使われている地図を小さく変化させたものになる。
「おかしいなぁ、3人がばてないように最短ルートを通っているはずなのに…」
「見間違い?
確認したほうがいいよ」
「「「とりあえず休憩…ぐぇぇ」
「瑠香…3人が沈んだ」
「…面目ないです」
瑠香の方位磁針を見ながら、目標となる物標を地図の中で確認し照らし合わせる。
特別に道がずれていると言うことはなく、自分たちのいる方向や距離は正確だった。
地図の等高線は緩やかな登り坂になっており、後5キロほど歩けば緩やかな下り坂に差し掛かる。
「ここがこうだから…733の548の…うん
道は間違ってないわ…なんでだ?」
「一回水を頭からぶっかけてあげるね
水の精霊ウンディーネ…
我が呼び出しに応じ、財前瑠香の頭の上に」
「精霊さん呼ぶのやめてください
大雨降らせようとしてる?
大休止にするんで許してください」
魔導書を開き、若干の殺意を込めながらティナが精霊魔法を発動しようとした。
これやられるわ…と思った瑠香。
静かに目を閉じたが何も起きないことに気がつき、ゆっくりと目を開けた。
上空を白く美しい翼龍が、瑠香たちの真上から降りてきていたのだ。
「…レイラ・ドラグーン殿!」
「お久しぶりです!
みなさん…顔死んでますけど大丈夫ですか?」
「おっひさぶり…あれ?」
白龍は水蒸気を出しながら人の姿に戻っていくレイラと、その背から飛び降りるように現れたのはメイドのココだ。
出会った頃よりも笑顔はとてつもなく明るいものになっていたが、次第に青ざめていく。
「ティナさん?
瑠香さんの首、しまってますよ?」
「こうでもしないと
この子は私達のしんどさを理解しないんです!」
「水の精霊ウンディーネ
財前瑠香の頭びしょびしょにして…」
「レイラ様…ニコル様がとんでも詠唱使ってますよ?」
「おかしいわね…
私にはウルムさんが逃げられないように頭押さえてるように見える」
「ぐ…ぐるじい」
忍は何事もないかのように遠い空を眺め
自分は関係ありませんけど何か?
をアピールすることとした。
アピールなんてものも意味などなく、怒り狂ったティナからの制裁として何故か忍の頭の上に大量の冷たい水が降り注ぐ。
なんで俺もと言いたかったのだろうが、半狼人間化したニコルがロメロ・プレスなるプロレス技をかけてきたのだ。
もちろんレフェリーはウルム一択だ。
「カウントゥ…1.2.3…忍の負け!」
「聞いてない聞いてない聞いて…ぐぇぇ!」
「おっしゃぁ!」
「「この人たち…狂ってる」
気まぐれプロレスが終わり一区切りついた頃。
瑠香達はレイラの背に乗り一路、王凌府を目指す。
空高く飛ぶために、道は小さく行商や人々は豆粒ほどにしか見えない。
「レイラさん、ありがとうございます
乗せてくださって…かたじけない」
「いいのよ!
向こうまでは相当な距離だし…私たちも色々見てまわりたいもの!」
「「「「「お母さーん!」」」」」
「んもぅこの子達ったら!
忍さんは…お父さんかしらね」
「yes ma’am」
白銀に輝くレイラの背に乗って瑠香達は王凌府まで残り5キロの地点まで来た。
レイラやココの向かう先は王凌府を少し越えたタリタウス山にある百連草という淡いピンク色の花が咲く群生地だそうだ。
その花の甘い匂いがレイラとココは好きでそれを見にいくとココが話す。
「ほんのりと甘い匂いがするお花なのです」
「そうか…私も見てみたいなぁ
時間があれば見にいくかなぁ」
「おれも賛せ」
「「「見に行こう!」」」
忍が声を出す前に3人の娘と息子が声を出す。
そろそろ着くよとレイラの声で我に帰った6人。
和やかな空気だったが、何か良からぬ事を思いついたニコル。
今にも寝そうになる忍を横目で見ながら、これまた休憩しながら魔導書を読むティナに耳打ちをする。
「ねぇ、せっかくだから瑠香が言ってた空挺降下の疑似体験してみたいんだけど…
ティナ…あれ魔法でできる?」
「追体験の事?
任せなさいな!」
ココと談笑する瑠香の手を勝手に握り、魔導書を開くと聞き取れない言語で何を呟くティナ。
また殺されそうな思いをするのかと目を細めて悟りを開こうとしたが、目を開けると青空ではなく機械に覆われた空間が目の前に映し出され、天井には日章旗が掲げられていた。
「なんでCー130の中にいるの?
ティナ…なんでみんな陸自の迷彩服着て
なんで降下傘背負ってるのさぁ」
「やりすぎたわ」
企画したニコルやお前ふざけんじゃねえと言いたげのウルムとは反対に、何故か嬉々と来て今の状況を飲み込む忍。
みんな陸自迷彩に落下傘を背負って胡座を描いて座る。
やってしまったと嘆くティナも落下傘を背負い、訳もわかっていないココは大扉の前で深緑のツナギを来て、深緑のヘルメットを被る。
あらまーと言いながら、レイラはコックピットに座り幻影で生まれた飛行機の操縦桿を握る。
「じゃあ…せっかくだからやるか
みんな腹括っていくぞ!」
「降ぅ下6分前でぇす!」
殺伐とした顔をする瑠香の後ろで、涙目になっているココが声高らかに降下6分前と叫ぶ。
忍と瑠香以外はティナにどこか冷たい視線を送るが、そんな余裕はとっくのとうに消えていた。
「1番機ぃー、行くぞ!」
「「「「おう!?!?」」」」
「行くぞ!」
「「「「おう!」」」」
「行くぞ!!!!」
「「「「おう!!」」」」
「立てぇ!!」
本当の恐怖はここからだった。
安直に追体験魔法を発動させたことにティナは泣きそうになり、1番の原因であるニコルはウルムに恨み節を言われ、妖精のはずのウルムは人の形になり髪は紫にして瞳はコバルトブルーという迷彩服に似つかわしくない姿になっていた。
そんな余裕が一瞬にして消えたのを忍は見逃さない。
またもや瑠香と忍が潰しました。
体力を考えて道を歩いていたはずですが、基準がおかしい2人にとってはティナとニコルにウルムの3人に対する配慮が消えました。
瑠「なんでや?」
ウルム「瑠香がおかしいんだってば!」
レイラの背に乗って王凌府に向かうようですがニコルの思いつきとティナの魔法でウルムとレイラとココは泣きを見る結果になりました。
ティナ・ニコル「…」
次回もお願いします
忍「くぅーてい、らっかぁさん!
くぅーてい、らっかぁさん!!」




