行進開始…あれ?
習志野駐屯地を出てすぐに起きてしまった異変です。
sc…おっと誰か来たようだ。
トラックを降りて午前6時。
今歩いている地点は第三行程、スタート地点である千葉県のある山中から30キロ地点である。
ハイペースと思われていたが、少しペースが遅いと多くの隊員たちが気にかけていた。
理由は眼前に広がる霧である。
天気予報では霧が出るような、急激な気温差や雨などは降ってなどいない。
山の天気は崩れやすいと言われているが、この一週間は天気が荒れるようなことも全くと言っていいほどになかった。
だが、霧は立ち込めて隊員たちの足を止めてしまう。
「妙だ…何度もこの場所で訓練してるけど
こんな風に霧が出るのはおかしすぎる」
『…なんだろうな、このモヤの中に変な感覚を覚えるよ
何者なんだろうね?』
「えっ…」
神前忍の発言により、瑠香の頭の中には某ホラー番組のテーマソングが流れ出す。
何者という一言が恐怖郵便を受信してしまったのだ。
恐怖により震えても、瑠香がいるのは隊列の一番最後。
誰も気が付かず時より後ろを振り返る先輩隊員たちに笑われ隊列が動き出す。
半べそかきながら男達について行くように食らいつく。
しかし体力的には余裕があっても、たった一人の独り言のせいで精神的なHPはマイナスの域に達していた。
「目の前から赤いワンピースを着たお化け出てきたらどうしよう?
どうしてくれるのさぁ!」
『俺悪くないもん』
「おっ、待てぃ!」
後ろにいる忍に声をかけようとした時だ。
もうもうと立つ霧の向こうに、甲冑のようなものが擦れる音と共に聞きなれない言語を話した人が通ったのだ。
最初は何かの見間違いかと思ったが、見るなりに金髪の女性が自分と反方向に歩いていくのだ。
おまけに長い棒状のようなものを腰に吊り下げ、ふわふわと長いコートのような服を着ているのだから見間違いじゃないかと鉄帽の上から頭を叩く。
『まずいことになったぞ瑠香!』
「霧が…原隊が視認できない!」
まるで瑠香や忍がついてきていない事を知らないのか、もやの向こうに隊列は歩みを進める。
何度も声を荒げて呼び止めようとも、隊列は進み気がつけば消えていなくなっていた。
次のチェックポイントまで残り10キロ。
視界が制限され、焦りが募っていく中でいつも頼りにしている方位磁石は言うことを聞かない。
自分も迷子になったとばかりに針がぐるぐると回りだす。
「瑠香、前を見てみろ…
こんな景色が日本であるものか!」
「おいおい冗談だろって?
ここはまるで…異世界じゃねぇべが!」
「唐突な道産子スイッチやめい!」
霧が晴れ、眼前に広がるのは美しい森の向こうに中世ヨーロッパと似た城下町らしきものが見える。
そして城下町の中央にはサグラダファミリアを一回り小さくしたような威厳のある城が鎮座しているのだ。
自分たちの目はおかしくなったのかと、瞬きを何度もする二人。
そして瑠香は気がついてしまったのだ。
もう一つの特異事象の存在に対して。
「忍さん…いつも体が若干透けてたっしょ?
なして…忍さんの身体さ実体なの?」
「…俺の身体が実体化してる?
瑠香触ってみて?」
そう言って触れさせようとした時だ。
近くに敵がいると察知したのは。
迷子になりました。
迷子というか何かに引き寄せられたのかもしれません。
あらゆる異変がここから始まるのです。