2人の契約
日本は寒いですが闘技場は熱々みたいですね。
「この契約を結べば、契約主は受領者の能力をいくらでも使うことができる
強い受領者を配下に置けば、その分の能力が契約主に渡る
でもね…でもね」
「契約主の受けた戦闘中の傷とか全て、受領者が引き受けてしまうのよ」
「ってことはイシスが契約主として、レイラさんは…まずいぞ
2人に伝えねぇと、取り返しのつかねぇ事になる!」
真実を知ってしまったがその思いが通じることは、この現状ではあり得ないのだ。
観客の声援が3人の声をかき消してしまい、届かない思いに2人は気がつかなかった。
だと思っていた時期が、ティナ達にもありました。
ティナの異変を感じ取った忍が、イシスと龍を見比べて勘付いたのだ。
いかなる魔法が跋扈するこのアルメリアという国で、己の身を守るための捨て駒になる魔法のようなものをかけられているのではないかと。
「やっぱり俺はあんなクソ坊主が嫌いだ
俺の息子なら思いっきり引っ叩いて、家の周りを首根っこ掴んで引き摺り回してから、納屋に閉じ込めるわ」
「バイオレンスお父ちゃんで草
気持ちは分からんではないけどね」
「バイオレンス…横文字がわからんよ?
あと龍の正体だが、もしかするとレイラ様さんなのではないか?
あの人のつけていた銀色の…ぶれすれっとっていうが左の手首にあるだろ?」
「気がつかなかった…よく見てたね!」
「まあな
いつも女性の変化を見るように、菊乃に躾けられたんだよ」
「…ひいおばあちゃん強すぎるンゴ」
「にちゃんねらーみたいな喋り方やめなさい」
土煙が晴れ地面に降り立ち、本格的にイシス達の猛攻が始まると観客達が騒ぎ立てていたが、闘技場内を見ても2人の姿はなく不審に思って龍達は地面に足をつける。
ざわつく観客達だったが次第に逃げ出したのではないかと、口々に言い始めていた。
そんな観客達の言葉はイシスの耳にも届き、鼻で笑っていたが途端に顔を青ざめさせた。
見慣れない砲を構える2人が、射程内だと言わんばかりに砲身を向けていた。
「お前ら射線に立つなよ?
調定済みなんだよこっちは
…てぇ!」
「まさかこんな所で迫を撃つなんてねぇ
てぇ!」
瑠香の入れた砲弾は勢いよく放物線を描き、ひゅうと風切 音がなった瞬間、龍は防御魔法を展開させていた。
何重にも重ねられた魔法でできた金色の壁だが、完全に展開仕切って安心したと思った瞬間だ。
龍…いや、レイラに向けられた爆風と破片が身体中を襲い次に受けた攻撃を翼で己の体をガードするだけで手一杯になっていた。
「何やってんだよ!
ふざけ…がぁぁ!」
「俺らの目論見通りになったな
レイラさんに当てた攻撃は、あのクソ坊主にも反動で当たってやがる
身代わりなんてそんな真似は俺がさせねぇ…
許せるわけねぇだろうが!」
「…いや、身代わりになってるべ
あの魔法は例え魔法をかけた相手に対して攻撃して、術をかけた本人が負傷しても怪我を負った身代わりが術者の分の怪我を被るみたい…」
「嘘だろ?
じゃあ俺たちがやった攻撃は、例えレイラさんに向けて攻撃したとしても、クソ坊主が同じ威力の攻撃を魔法のしっぺ返しで受けようが、全部レイラさんに帰って来るのか?」
「「…あーーーー」」
この魔法…否、契約の正体に近づきつつある2人。
ティナ達がいる観客席を見れば、その正体に気がついたのだと安堵した反面、呪いのように相手を縛る力の強さに恐怖する様子が伺えた。
だがその3人ですら再び顔を引き攣らせてしまう。
観客がイシスやレイラを応援する一方、対面する瑠香達を見ていた観客は黙りこくって席を立とうとする人間が現れ始めていた。
「そんな、逃げることないだろ?」
「忍さんの今の顔…半端なく怖いよ?」
「そういう瑠香もだ…あいつは許さねぇ」
「お前らなんだそんなに…俺たちの力が怖くないのか!」
「「別に?
お前のその余裕たっぷりな理由がよくわかったから」」
ふざけるなぁあぁ!!!
そう叫んだと思えば地面がぐらりと揺れ始め、鼓膜が破れるのではないかと思うくらいに咆哮が空気を弾く。
レイラは何かを察し止めようとしたのだろうが、イシスの口元からはチリチリと赤い閃光が見え始めていた。
「大地を燃やす竜の息吹よ…
我が炎の化身達よ、悪きもの達に正義を持って吹き晒し燃やし尽くせよ!
炎龍業炎!!」
高出力の炎の中に熱線のような光線が目に入るよう。
イヤイヤながら、レイラが吐いた炎のように見えていた。
中央部と龍生府の間で勇者らしい一行と戦った時以上にイシスの吐く焔は轟々と音を立てて瑠香達に迫ってくると忍は苦い顔して笑うしかない。
高速で動くものほどゆっくり動くように見えていた。
歓声の中にティナの悲鳴らしいものが聞こえて来る。
だが忍や瑠香は何も感じていない。
イシスのレイラに対する態度に対する怒り。
歓声の中に混じる侮蔑のような声。
それら全て無音になって、2人の呼吸が合さったかのようにお互いの存在だけが手に取るようにわかっていた。
「忍さん…グスタフ撃ってみたくない?
今ならできるよ?」
「戦前生まれの俺には…貸してください!
そういう瑠香には、銃擲弾筒を貸してやろう」
「えー!?
それは…お願いします」
「まぁ冗談だよ
時に聞こうか、我が未来の末裔よ
俺と共に闘う意思はあるか?」
「あるよ
そういう忍さんはどうなの?
未来の挺進兵について来てくれる?」
「言わずもがなだよ
それ以外に何がある?」
互いに笑い合い、瑠香はヘルメットをしのぶは頭に巻いた布を縛り直してヘルメットを被る。
2人の意思は完璧に一つになっていた。
「「さぁ、意思ある者よ俺に続け!」」
レイラとイシスの間に不平等契約が成り立っているのを、忍は見つけたようです。
洞察力の賜物なのか、それとも何か別のことが起因しているのか…。
レイラとイシスの契約である、主従契約は最低です。
契約者が被契約者の能力を全て思うがままに使う。
契約者が怪我を負ってもその怪我は、被契約者が受ける。
被契約者が怪我をした反動で、一時的に契約者側に一部ダメージが入っても倍になって被契約者に返ってくる。
旨み全くなしですわ!
そりゃ忍や瑠香が怒るのです。
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