伯爵の息子
伯爵の住むお城まで来て情報収集中のことです。
「やはりそうですか…
魔神様も行方を掴めずという事ですか」
「我々が魔神様の命を受けて行動しております
今までの情報を元に中央府から龍生府までの間で何も…」
「このアルメリア皇国はとてつもなく広大ですから
いかんせん情報は掴めず…ですか
…この皇国では特異事象が起きすぎています
なにか起きるのではないかと思ってしまいます」
城の中に案内されワイズの自室に招かれ、招待客用のテーブルに通された5人組。
会話の中でアルメリア皇国で起きる不審な現象にワイズや妃であるレイラは頭を抱え始めた。
訝しげに窓の外を見て国民に慈悲を向けるワイズに、特異事象と聞かされ不審そうに見つめる忍。
話半分にフレーバーティーを嗜む瑠香やティナ・ニコル。
話の要約を頑張ってやってみたが、難しくて途中で放棄したウルム。
全てがカオスすぎて忍はまたしょっぱい顔をする。
(この子達には難しい話をしすぎたか…
父親として失格だな…キクノに殺される)
「時にワイズ閣下
貴方が懸念されている特異事象というのは、我々のような存在ですか?」
「いえ、貴方達だけではありません
この国の、深淵に触れなければなりませんね
それと…閣下と言うのはお恥ずかしながら…
私達は決していいものではありませんよ?」
含みのある言葉に忍は片眉をぴくりと動かす。
どう言うことかと聞こうとした時に、ティナがポツンと声を漏らし、たまらずティナの方を見た。
それと同時に瑠香の目が蒼く光るのを見逃さなかった。
何かを察知したニコルが自室と廊下を隔てる扉に向かって、一瞬だが唸り声を上げたかと思えばやめておけと言いたげにウルムは体を軽く振っている。
「そんなに長ったらしく話す必要はないと思うぜ
こんな連中、放っておけばいいじゃねぇか」
「なっ…なんて事を言っているんだ
やめないか…イシス!」
「なんだあんたら、魔法使いと聖獣じゃねぇか
だったら2人は魔素を感知できるが
男2人は何も感じねぇけど、今まで感じたことのない波紋を感じたぞ?
座敷妖精…何か知ってるか?」
ここにいる全員が口を開けてこいつやったわと言う顔をする。
ワイズとレイラはお互いに顔を見合わせ、あわてて瑠香に取り繕い申し訳ないと連呼する。
ニコルやティナも無粋なイシスを見て顔を見合わせた後に、瑠香の方を見てどうしようと口にする。
だが瑠香はイシスの方を見て疑問に思っていた何かを察したかのように口を半分開ける。
その疑問の答え合わせはティナの一言で完結した。
「失礼ですが、イシス様
イシス様はレイラさんと何か契約を交わされていますか?
もしかして…」
「だったらなんだ?
それに一級魔法使いと一級詠唱士の2人がこんな雑魚につく?
気にくわねぇ」
「それは魔神様から頼まれて…」
「そうだとしても、お前たちにとってはその男2人は荷物
じゃないのか?
力を有り余らせてるたりしてるだろ魔法使い?
どうなんだ、聖獣?」
あわててワイズやレイラが止めようとするが、捲し立てるように侮辱し続けるイシスに我慢の限界とばかりにウルムが立ち上がったが、瑠香が思い立ったかのようにウルム制止した。
ふざけるなと言いそうになるウルムの口に、出来立てのはちみつスコーンを頬張らせて口をつぐませる。
モゴモゴと何を言っているのかわからないが、それを良しとした瑠香はイシスに向き直った。
「イシス様が仰るように私とそこに座っている神前忍は、生憎なことに魔法は使えません。
魔素を持ち合わせておりませんし、そもそも私たちと貴国の戦闘スタイルは異なります」
「だったらなんだ?
役に立てない2人が…まさかそこにいる2人の荷物持ち役か?
ここに戻る前にあんたらにやられたって言うパーティがいたからどれほど強い連中かと思ったが…なんだ」
「あれはあくまで正当防衛ですよ
こんなふうにされるのは嫌でしょう?」
瑠香に興味を持っていないイシスが、めんどくさそうに瑠香の方を向いた時だ。
椅子に座って茶菓子を美味しそうに食べていた瑠香の姿はなく、己の後ろ側に立ち喉仏を触られたかと思えば、イシスの腰元に吊るしてあった短剣を鞘から抜いた状態で1メートル後方で立っている。
そして本物かどうかと興味津々に切先を右人差し指の腹で、軽く触れているのだ。
なんと言うこと…と呟くレイラに対して、ほぉと声を漏らし感心するイシス。
やっちまったと頭を掻きむしる忍に対して、ワイズはすでに涙目である。
「私は魔法は使えませんが、隔世遺伝のおかげか変わったものが見れるのです
時に聞きますイシス様
あなたはレイラ妃との間で何を交わされたのですか?
私には親子だけの縁とは思えませんよ?」
「面白いじゃねえか!
気に入ったぜ男女…今から決闘を申し込む
魔法使いと聖獣は抜きにしろ
こいつら2人はアルメリアで1番の腕だ
お前ともう1人の男…まとめて潰してやるぜ?」
潰すと言う表現が出た以上、ティナとニコルの2人で瑠香を守ろうと立ち上がりそうになった。
だがそれを止めたのは紛れもなく忍だ、
スコーンを食べ終わったウルムが忍を方を見たが何も言えずに硬直する。
ニコルが何かに気がつき、ビクッと体を振るわせ振り返り忍を見たがウルムと同様に硬直した。
ティナがひぃと声を漏らしながら瑠香を見る。
2人の目はスカイブルーを思わせるように蒼く輝いていた。
だが忍の白目の部分はどす黒く変色し、やがて蒼く輝いていた目は濁ったかのような青色に変わる。
「いいぜ気に入った
お前の名前は?
騎士団か…それとも拳闘士団か?」
「私は財前瑠香
階級は3等陸曹
陸上自衛隊第一空挺団…第一普通科大隊所属」
「変わった騎士団だな
静観しているあんたは?」
「大日本帝国陸軍、第一挺身連隊
いや義烈空挺隊所属、陸軍軍曹の神前忍だ」
名乗り終えたと思った瞬間、2人の持つ空気にその場にいる全員が凍りつく。
普段の朗らかな空気は消え去り、全員が固まっておかなければ自分の首がなくなるのではないかと言うくらいに、イシスに向けられた殺意のボルテージが一気に昂ったと。
「おっかねぇぜ、あんたら
俺はみくびっていた…だが最後に笑うのは俺だ
紳士・淑女の皆様これより私、イシスドラグーンによる決闘喜劇を開始いたします!」
「何を言ってるの…なぁ!?」
空間が捻じ曲がり、気がつけば地面と激突するのではないかと錯覚する。
見渡せばそこは闘技場のような場所…ようなではなく闘技場そのものだ。
「言ったろ…最後に笑うのは俺だと」
「義烈の本気を見せてやる
舐めてくれるなよ…小僧」
何かに気がついた瑠香とティナ。
その違和感の正体はまた今度ですが、相当気に食わなかったのです。
ニコルがイシスに対して唸ったのも、イシスとレイラの間で交わされた何かの影響によるもの。
総合的に見ていた忍が理解して怒ったのだと思います。
次回はバトル開始です




