新しい人?
ギルドから抜けて出発するために準備を始めるみたいです。
「あのギルドにいた連中しつこすぎ!
ベテル通りまで来て正解よ!」
「ティナ、そんなに怒る必要ないよ
買い物だけして街を離れよう
めんどくさいことになるし」
「絶対そうしよう!
瑠香と忍の強さを知って喧嘩売ってくるやついるから!」
「「すっごい怒ってる
すっごい…本当すっごぉい…」」
「「2人はちょっと真剣になってよ!」」
「「 Yes mom!!」」
瑠香達がいるのは城下町の中でほとんど全てのものが揃うというベテル通り。
アルメリア皇国と言えどいまだに開拓が進んでいる場所が数多あり珍しい鉱石が取れると言って、一攫千金を狙う者たちや、広すぎる国土を生かし地域でしか取れない作物などを街へと卸す商人も何だっている。
その全ての始まりを支援するかのように、道具やテントや寝袋みたいな物が所狭しと陳列されている。
もちろん一般市民に向けた市場も点在し、ひっきりなしに人が移動する通りでもある。
「あれ?
この私たちが最初に見た大通りじゃない?」
「なんか忘れてるような…
あっ、荷物の存在忘れてた」
やってしまったなんて2人は思ってしまった。
城に潜入する際に荷物を城下町から一番近い林の中に埋めて隠したのを今更になって気がついたのだ。
取りに戻らないといけない事をティナ達に伝えて戻ろうと話していた時だ。
「呼び出し魔法を使えばその荷物を召喚できるよ
待っててね」
「「呼び出し魔法?」」
訝しげに見る忍とは反対に興味津々で見つめる瑠香。
2人の反応の違いにニコルがお腹を抱えて笑っているが、まあまあと静止をしてティナが持っていた杖を2度ほど地面に向けて突いた。
ボフン!!
地面に丸い魔法陣ができたと思えば、瑠香のつけていた迷彩柄の背嚢と忍が愛用している黄色の前掛けの鞄が出現した。
おぉっと声を漏らしたがティナは別な意味でおぉっと声を出していた。
土中に埋めていたはずなのだが汚れておらず2人の荷物の上には白い布と手紙が添えられていた。
さっきまで笑い転げていたはずのニコルがその手紙を、怖がるように拾うと3人に変わって代読を始める。
「魔神様からの手紙だよ?
えーっと
(2人の荷物が土の埋まっていたから汚れを落として置いたよ。
中身は触ってないから安心してね。
その白い羽織を持っていってね。
僕たちの政府で2人を客人として迎えた証だよ
買い物もその羽織を持っていたら好きなだけ使えるようになってるよ
無駄遣いは怒るけどねー
道中大変だと思うけど、娘のことをお願いします)
甘やかされるの確定じゃん」
「ありがたく少しだけ使わせてもらいます
ギルドで任務をクリアすれば報酬が少し出るんだし
そっちを頼っていこうと思います」
「「瑠香は倹約家だねー」」
「それはいいけど天幕を買った方がいいんじゃないか?
流石に外でそのまま寝るのは良くないと思うぞ」
そのままという言葉に戸惑いを覚えて小刻みに振り返るように忍を見るティナとニコル。
しまったと言いたげな顔をする瑠香は2人に弁明しようとしたが、話し始める前に何かを察した忍が口を割った。
「瑠香のいる陸自はね
夜の訓練中に小休憩とかで銃が濡れないように自分の体で覆って地面に伏せて寝るんだよ
2人にはそんなことさせないから」
「「何でそんなことしてんのよー!!
テント買いに行くよ瑠香!!」
「ちょっとまぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
2人に首根っこを引きずられ瑠香は抵抗することなくベテル通りの一本筋に入ったエウロパ通りに入って行く。
声をかける前に2人が連れていってしまい、仕方がないと背嚢を背負い前掛けの鞄を胸の金具に取り付けて忍も走り出した。
エウロパ通りの行商達の合間を縫う一行はテントなどの旅に必要な道具を物色していた。
「まずはテント…テント絶対買うからね!」
「どこのお店にしよう…
モルベさんのところにするチャミーさんのところ?」
「あぅあぅ…あそ…こ…あ…そこは?」
首根っこを掴まれ、命絶え絶えな瑠香が指さしたのは、誰にも見向きもされず1人ポツンと地面に座り少し長め風呂敷を引いていくつか小さく折り畳まれた布を売る初老の男性の出店だ。
出店といっても貧相で店で屋根や外壁はなく、隣の商店と商店の間に間借りしている様なもの。
小さな立て看板には、ハット商店と書かれている。
ブーイングを受ける瑠香だが、何かを感じた忍が近寄り店長の目の前で片膝をついた。
「店長殿…そこに置かれている布はいくらですか?」
「んん…あんたら…こんなボロ布を買うのかい?
他の店に行きなぁ…こんな所のボロを買うよりその方がいい」
「我々もお金がないのでね
どうか見せてもらえないだろうか?」
仕方がないなぁと思い腰を上げ空き地で布を広げ天井になる部分の出っ張りを指さしてクイっと上げ魔法の力で持ち上げる。
「瑠香、生きているか?」
「すぶぉぉおぉぅぅー!
生き返ったよ…このテントいいじゃんか!
汚いのは前のオーナーの管理不足」
「ティナ・ニコル、綺麗にしてみればいいことあるぞ?
いざ参る!」
2人は戦慄してしまった。
目の前にいるこの2人は倹約家ではなく貧乏性の類なのだという事に。
2人がテントに突入し、嗚咽を漏らしながらガチャガチャと音を立てて暴れ始める。
テントの中では2人は掃除しているつもりなのだろうが、外にいる人間にとっては乱闘している様にしか聞こえてこない。
「なんてこと
あのテントが見る見るうちに綺麗になっていく。
もしかしてテントにはもともと魔法が刻まれてたの?
とても強い防御魔法みたい」
「持ち主の扱いが悪いから俺っちが困ったんだモンだ
あの2人はどんな連中かわからないが、やるじゃねぇか」
「あんたは…座敷妖精!?」
「何だと!
全体的に俺っちは紫色で丸くて羽がついてるからって、見た目で言ってんのかウルフガング!
俺っちは」
「いっちょ上がりよ!
おいでなすってぇ!!」
ここで何かを言い切ろうとした刹那、埃に塗れ両手に大量の酒瓶を麻袋に入れて2人の人間が顔を出す。
煤だらけの埃まみれだったが2人の顔は達成感に満ち足りており、どうなったのかと店長やティナ達につられ羽のついた生き物も中に入っていく。
「「「「とっっっっても綺麗」」」」
もう疲れたと言って2人はテントの中で突っ伏してしまいしばらく動くことはなかった。
その姿を見た丸く羽のついた妖精はそっと2人のためにタオルケットを引き店長と話をつけてまたティナとニコルの元へと飛んできた。
「俺っちの名前はウルム
あんたらというかこの2人が色々してくれたからな
あんたらの旅に着いていくさ」
なぜ瑠香がこの店を指さし、忍がボロテントを購入しようとしたか、その理由をティナとニコルは察したのだ。
魔法や魔術を知らない2人でも、何かを感じ取りウルムなる妖精の事を仲間に入れたかったのだと。
5人目の仲間が揃った瞬間だ。
新しく座敷妖精なる存在のウルムが加入しました。
何でこんなボロ布と言われるくらいひどいテントだったのでしょう。
しかし手入れをすれば防御魔法が施された紋様が現れるいいテント?だったみたいです。
次回もお願いします




