アルメリア皇国へようこそ
魔神の頼みでルーシーアストライオス捜索を受理し出発する。
でもその前にやらなきゃ行けないことがあるのです。
魔神への対決と思いきや、瑠香と忍が能力を買われ娘であるルーシー・アストライオス救助要請を受理し、出発に向けて城下町へと下っていた。
アルメリア皇国は日本の国土とあまり変わらない。
一番大きな自治州で北海道ほどの大きさ。
一番小さくても香川県ほどになる。
それでも大きいものは大きいのだ。
北へ登れば日本アルプスの様な、高山帯がそびえ立ち南へ降れば青々とした海が広がる。
気候は一年を通して温暖だが、冬場は温暖な気候など消え去りオーロラが見えるほどに空気がいてつく。
「魔神様から地図はもらいましたから、案内は私たちに任せてよ!」
とティナやニコルは言うものだ。
ここは現地人に任せた方がいいと、瑠香と忍は認識している。
今2人が向かうのは組合だ。
このギルドでは、冒険家や商人や宿屋など数多有る職業の加入に、ファイターや魔法使いといった個人のスキルを登録する。
つまりここで登録しておかないと何も進まないシステムだになっている。
「そう言えばなんで、2人は魔神様のお願い事を託されたの?」
「隠密性が自軍のアサシンよりすごかったんだって
居室のバルコニーでくつろいでいたら、外が騒がしい事に気がついて降下して来たのを知ったって言われたんだ」
「後は庭園での騎士との決闘だとさ
あの騎士団長は、防御用の結界が張っていたとしても、破れるくらい炎を剣に纏わせて俺たちを斬って燃やしてやろうとしたんだと」
「それを見てしまった魔神様がカチキレたけど、その前に制圧した私たちを見て何か感じたんだって」
「「すごい」」
ティナとニコルが驚くのも無理はなかった。
最初の敵であるロイル騎士団長は、アルメリアの中でも優れている騎士団の一角の白騎士団の軍団を率いる隊長だ。
その隊長を2度も制圧したのだから魔神も心底驚いた。
さらに瑠香が城内での戦闘中に見つけたてんとう虫は、背中に水晶を乗せて2人の戦闘をアルメリア皇国中に見せる役割をしていた。
つまりドローンを迎撃した忍も探知した瑠香も戦闘能力が特筆しているが故に、魔神が誰かに願いを託す気持ちいつもより倍プッシュしてしまった。
らしい
「そんなこともあるんだねぇ
2人とも組合についたよ!」
ニコルが指差すところに目線を合わせた瑠香達。
異世界アニメで見たままの景色がそこにある。
石造の外壁に重厚感のある木製のドア。
壁の一部の鉄の棒の下には小さな円形の木の板が金具に吊り下げられている。
そこにあるのは中央府組合会館と書かれている。
重厚感のあるドアを開けると受付の女性や、来訪者が一斉に瑠香達に視線を移す。
楽しそうにしていた会話も一気にぴたりと止まり、舐め回すように異邦の者を見入っていた。
「あんまり歓迎されてないかな?」
「というよりも物珍しいんだろうよ瑠香」
心配そうに見つめるティナやニコルに促され苦笑いを浮かべながら受付に歩みを進める。
端正な顔立ちにロングストレートの金髪に深い緑色の瞳。
白いシャツに青いスカートを履き、落ち着いた茶色のエプロンを着る受付嬢に声をかけた。
「あの…すいません
登録作業をしたいのですが、こちらでよろしいですか?」
「…あっ貴方達は、魔神様の!
はい、もちろんです!
こちらでギルドの登録を行います!
ではまずは…緑の服の方から、所属パーティはどこでしょう?」
「パーティ?
…陸上自衛隊第一空挺団の第一普通科大隊所属です」
「えっと…陸上自衛隊…第一空挺団っと
第一普通科大隊…ですね?
そちらの男性の方のパーティは?」
聞きなれない言葉に悪戦苦闘し、瑠香専用の登録書の記入を終えてその時だった。
受付嬢の顔が一瞬にして頬を染めたのは。
暑いから頸部の保護布付きのヘルメットを脱ぎ、よく顔を見せるようにしようと帽子に被り直して目線を合わせた瞬間だ。
顔を見て受付嬢の琴線に触れてしまったのだ。
ボソリとイケメンだわっと小さな声を漏らしたのを、瑠香やニコルにティナの3人は聞き逃さなかった。
「ぱーてぃ?
よくわかりませんが…
まぁ第一挺進連隊所属です」
「わかりました!
ではお二人のクラスはいかがにいたしましょう?」
「俺のくらす…ってなんだ?」
「えーっとつまり、戦闘職種の事なのかな?」
「わからないという事であれば、クラス判別用の水晶をお持ちいたします」
受付嬢は一度、バックヤードへと向い数分ほどした頃に木箱を持って現れた。
箱から赤いマットと一緒に水晶玉を取り出すと受付用とカウンターへ置き、紙と羽ペンを用意した。
「それではまず瑠香様からお願いします
どちらの手でも構いません
水晶の前に手をかざして、魔力を込める様なイメージでやってみてください」
「魔力か…魔法使えないからわからんけど」
ぐっと目を閉じて、自身の気というものか何かを注ぐように水晶玉に手をかざす。
数秒もせぬうちに周りの人間がどよめきだし歓声のようなものが上がる。
皆口々にあんたはすごいなんて言い始めていた。
気になって目を開ければ、部屋中を覆い尽くすように快晴の空が広がり一機の飛行機が轟音を立てて飛んでくる。
その後視点は飛行機の中へと変わり、飛行機の後部ハッチから身を出して空へとダイブしていた。
「高高度降下低高度開傘…フリーフォール
そんなのがこの水晶から映されているの?」
「すごい…すごいよ!
瑠香ってこんな事ができるの!?
雲より高いところから飛んでるなんて!」
「ティナ見てよ!
瑠香が背負ってる鞄から何か出て来てる!
空を舞ってるみたい…かっこいい!」
瑠香の記憶から見た空挺降下に、瑠香自身も興奮しそのまま自然と手を水晶から離してしまった。
しーんっと静まり返る部屋から皆の視線が水晶に向かう。
ほんのりと青白く光る水晶にギルドの受付嬢も感嘆を漏らしていた。
その隣で壁にもたれ拍手をしながら瑠香に近づく初老の男がいた。
おそらくギルドマスターなのだろう。
受付嬢と同じ服の色であり、腕には山吹色のバンダナを巻いている。
「お嬢さん、すごいじゃないか
うちのギルドにはいない…陸上自衛隊だっけか?
おっかないもんだなぁ
クラスはファイターなんだが雷の性質を持ってやがる
他にはいないねぇ!
ところでそっちのお兄さんはどうだい?
お…おい、お兄さん?」
水晶を訝しげにまじまじと見つめる忍。
何かを察知したのだろう。
驚いたかのように目を見開き、何かを躊躇したがそっと水晶に手をかざす。
先程青白く光っていたが、光は途端に消えぐるぐると黒く濁り始めていく。
それを察したのか、かざしていた手を下ろし申し訳なかったと水晶に誤ったのだ。
「俺にこれは不要だ
俺は瑠香と同じふぁいたーで構いませんか?」
「あぁそれは構わないが?
珍しい
この国ができて以来、こんな風になった事はねぇ
今までの記録で初めてかもしれんな
あんた…何もんだ?」
ただの兵隊ですよとポツンと呟いて悲しそうに目線を落とす。
ギルドマスターや訪れていた客は皆、忍の特性を聞こうと群がっていたが1人だけ顔を曇らせそっと水晶に手をかざし魔法を唱えた。
それを見て驚きながら申し訳ないと瑠香は謝り、その表情を見つめニコルも近寄る。
「ティナ…さっきの魔法は?」
「回復魔法の一つだよ
この水晶の精霊が怖がっていたから、落ち着かせてあげたくて
ねぇ、ひとつ聞きたいの
水晶を含めた石の精霊は、どの精霊に比べて心が強いの
その精霊が怖がっていたのよ
だから教えて…忍は何者なの?」
「え?」
「私も…ニコも聞きたいの
忍が手をかざした時に、物凄くひどい音が聞こえて来たの
聞き覚えがないひどい音が」
「…ここでは教えられない
彼の過去は私も知っているからこそ言えないんだ
周りの人が気になっているみたいだけど、組合をでたら話す
辛く重い過去になるけど」
全ての登録を終え、ギルドにいる客が矢継ぎ早に忍に話しかけているのを強引に手を引っ張って街へと走り出していた。
街の中心から少し離れた露店商たちが集う大通りに向かい次の買い物をする前にカフェに寄ろうとした。
忍の手を引いて走るニコルが忍を見た時、どこかくらい顔をしたのを見逃せなかった。
アルメリアの人たち、というよりはあのギルドの中にいた人達が物珍しい瑠香と忍を見て興味を持ったのがきっかけです。
全てのクラスを分かる水晶。
それが瑠香は空挺降下を写しだしファイターとしての素質も見出したのでしょう。
ですが忍はそうもいかなかったのです。
忍の過去を覗き見てしまったが言えに水晶は拒否したのです。
だからこそ忍に対する興味のようなものが尽きなかったのです。
次回もお願いします




