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ビー玉の中の青空  作者: 風叢 華月
【1章】色のない世界
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帰路と暗がり

「さて、立ってるのも疲れたし少し横になろうかな」

 クロは口にするが否や、砂浜にだらりと寝そべった。

「私も疲れたし休憩しようかな」

 シロもクロの隣で同じように横になった。しばらく煤けた空を眺めていたシロだったが、次第に表情が曇りだした。

「そういえば、これだけ疲れてるのに全然お腹がすかないんだけど」

 思い返すとこの世界に来てから一度も何も口にしていなかった。

「この世界だとお腹がすくことはないわよ。娯楽として何か食べることはできるけど、用を足したくなることもないよ」

「……確かにクロの家にお手洗いは無かったね。でもそれじゃあ食べたものってどうなるの?」

 シロが横を向き、クロの表情を確認してみた。すると、クロは苦笑いしながら、肩をすくめていた。

「さあ? どうなってるんだろうね。私もちょっとそれはわからないわ」

「そっか。不思議だなあ」

 シロは再び空を見上げると、二人の間には沈黙が流れていた。二人の耳に届くのは、ザァーザァーと増減する波の音だけだった。

 自然音に身を任せていたシロだったが、温かい陽光と、身体の疲れに包まれ、まどろみの中にゆっくりと落ちて行った。

「……ロ……い、シロ…おーい、シロ起きて―」

 シロがはっと目を覚ますと、自分の顔を覗き込むクロの表情が、視界いっぱいに飛び込んできた。

「あ、起きた。おはようシロ。そろそろ日も傾いてきてるからそろそろ帰らないと」

 クロの言葉に辺りを見回してみると、空が先程よりもずっと黒に近づいていた。

「あ! ごめん寝すぎた。おはようクロ」

 クロは立ち上がると、手を差し伸べ微笑みを浮かべた。

「大丈夫だよ。このくらいの明るさなら、まだ夜になる前に帰れるよ」

 シロはクロの手を取ると立ち上がった。

「それに私もちょっと寝てたし」

 クロは少し頬を灰に染め、指先で柔らかい頬をかいた。

「そっか、それなら一緒だね。似た者同士だ」

 シロがおどけて言うと、クロは少し驚いたような表情を浮かべたが、楽し気な笑みに変遷した。

「そうだね。似た者同士だ」

 二人が笑い合ううちに、影が長く伸びていた。

「そろそろ帰らないと真っ暗になりそうだね。それじゃあ帰ろうか」

「うん。何も見えなくなっちゃったら流石にまずいね」

 どちらともなく手を引くと帰路を駆け出した。

 帰路に咲く草花は濃い灰色に包まれ、判別がつけられなくなっていた。

 空がもうほとんど黒くなって、風景の判別が難しくなるころ、二人は家の扉に手を掛けた。

「危なかったね。もうすぐ何も見えなくなってた」

 クロの笑い声が暗澹とした世界に響いた。

「もう私はほとんど何もわからないや」

 シロは音や触感でしか判断できなくなっており、クロに頼るしかなくなっていた。

「やっぱり慣れないと、この暗さじゃ何するにしても難しいよね」

 クロは戸を開けると、さっさとランタンのもとへ向かい火をつけた。とたんに辺りは白くなり、シロは「うっ」と発し目元を抑えていた。

「ただいま。シロ」

クロが笑みを浮かべると、まだ明るさに慣れない様子のシロも笑みを浮かべた。

「お帰り。クロ」

 そろそろ、シロも慣れたようで、普段通りの笑顔を見せた。

 二人は「ただいま。クロ」「お帰り。シロ」と、あいさつを交わすと、声を上げて笑いあった。


 シロは、それは何気ない、それでも大切な一時のように感じた。

更新遅くなってしまい申し訳ございません。

昨夜は早々に寝落ちてしまいました。

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