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ビー玉の中の青空  作者: 風叢 華月
【1章】色のない世界
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煤けた少女

「私は…誰?」

 少女の口をついて出たのは問いへの答えではなく、自分への問いだった。

「なにそれ?キオクソーシツってやつ?」

 黒いワンピースの少女はその細い腰に華奢な手を当て、いぶかしげな表情を浮かべた。

「わからない…私は誰なの?どこから来たの?」

 少女は瞳に透明な雫を浮かべ、わなわなと震えだした。

「…あー。変な質問して悪かったわね。もう、そんなに震えなくて良いから」

 黒いワンピースの少女はしばらくの間少女の頭をそっと撫でていた。少女の頭を撫でる腕はとても柔らかく、そのほのかな温かさで少女の心を次第に落ち着かせた。

「…ごめんなさい。うろたえてしまって」

 少女は頬を薄紅に染め、少し下のほうに視線を送った。

「気にしないで。でも記憶が無いってのは少し大変だね」

 黒いワンピースを揺らしながら少し困ったような表情を浮かべた。

「そう…ですね。これから、私はどうすればいいんでしょうか?」

 少女も黒いワンピースの少女のように困ったような表情を浮かべた。

「それなら私と一緒に来なよ」

 花開いたようなまぶしい笑顔を黒いワンピースの少女は浮かべた。

「え…でも。…良いんですか?」

「良いって言ってるじゃない」

 黒いワンピースの少女は口もとに小さく笑みを浮かべた。

「あり…がとうございます。これからよろしくお願いします」

「もー。そんなにかしこまらなくてもいいのに」

 少女の低姿勢な態度に苦笑を浮かべた。

「わかりま……わかった。よろしくね」

「そう、それでいいの。こちらこそよろしくね」

少女は岩の上に軽やかに登り、黒いワンピースがその楽しげな動きに呼応してヒラヒラと揺れた。

「これから二人で行動するなら何か呼び名なんかがないと不便よね。…でも、私には名前なんてないのよね。」

「……え?」

 少女は眉をひそめた。

「本当よ。というかこの世界に存在する生き物に、名前なんてほとんど存在しないわ」

「そう……なの?」

「ええ。…まあそんなこと今はどうでもいいわ。それより私の呼び名よ。うーむ……私の服も髪も真っ黒だし『クロ』でいいんじゃないかしら」

「名前…それでいいの?」

 少女は小首を傾げながら訪ねた。

「良いのよ。名前なんて下手に凝ったものをつけようとする必要ないもの」

「そっ…か。わかった。クロさん、改めてこれからよろしくね」

 少女はクロに向かってぺこりと頭を下げた。

「ん。よろしく。……あと、私に敬称なんてつけなくて良いわ」

 クロはしばらくの間ケラケラと笑った。

「……それで?あなたのことは何て呼べばいいの?」

クロは少女に問いかけた。

「なにがいいかな?」

 少女はおもむろに自分の身体に目を遣った。

「え?」

 少女は自分の格好を見て目を見開いた。

「どうしたの?」

 クロが少女にいぶかしげな視線を送った。

「……私、こんな服持ってない」

「あら?そうなの?でもあなたが今着ているじゃない」

 少女の視線の先では、自身の身体を包み込んだ真っ白なワンピースが、そよそよと吹き付ける柔らかな風に揺られていた。

「まあ、今あなたが着ているなら、この世界ではあなたのものなんじゃないかしら?」

「そう…なのかな?」

「きっとそうよ。それにあなたそれ以外に着るものなんてないでしょ?」

「確かに…私これ以外に着るものなんて一つも持ってない」

「ならいいじゃない。そのまま着ていなよ」

「わかった。そうする」

 少女はクロも言葉にうなずいた。

「…それじゃあ、あなたはそんなワンピースを着ているんだし『シロ』でいいんじゃない?」

 クロは小首を傾げながら言った。

「…あなたはクロだし、私もそれでいいかも」

「そっか、それじゃああなたのことはこれからシロって呼ぶわね。…改めて、よろしくねシロ」

 クロはシロに微笑みかけた。

「こちらこそよろしくクロ」

 シロもクロと同じように微笑みかけた。

「…それじゃあ、これからどうしよう?」

 シロはクロに問いかけた。

「うーん。…あなたはこの世界のことを何も知らないのよね?」

「うん。私、この世界のこと何も知らない。この灰色の草も見たことないし、あそこにある黒い木の幹も見たことないわ」

 二人の間を柔らかく吹き抜けた涼風が煤けた草花をそっと揺らした。

「そっか。……それならこの世界を散歩してみる?」

 クロの小さな腕がそっと、シロへ柔らかい手が差し出された。

「うん‼」

 二人はお互いの手をギュッとつかんだ。


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