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8/12

 - 妹デート

 そうして時は経ち、週末の土曜日。

 

「…………」


 春之助はダラダラと滝のような汗を流していた。

 

 今は3月。まだ肌寒い季節である。ゆえに暑い訳ではない。

 

 彼が汗を流す理由は……

 

「お兄さま。これ、どうかな?」


 可愛らしいワンピースを掲げる茉理。春之助は「お、おお……」と肯定とも否定とも取れない返事をする。


 春之助はビビッていた。何にビビッているかというと、この場所にである。

 

 茉理に連れられて来た場所。まさかのギンザ的な場所だったのだ。つまり並ぶのは高級店ばかり。女性もののアパレルショップのここも例外ではない。

 

「? お兄さま?」

「あっ、いやっ、何でもないんだ。可愛いんじゃないかな。うん」

「お兄さまもそう思う? ちょっと試着してきますね」


 ワンピースを持って試着室に駆け込む茉理。彼女を接客していた店員と共に。

 

 春之助は考える。一体いくらくらいするのだろうか。いや、高級店とはいっても所詮は服。パ〇コとかマ〇イよりちょこっと高いだけだろう。

 

 だが、念のため。念のため近くにあったシャツを手に取ると……

 

(十万!?)


 春之助の目がぽーんと飛び出す。

  

 十万。ただのシャツに十万。意味が分からない。春之助が持ってる一張羅のスーツ、それも上下のセットでも十万を超える事はないのに。シャツだけで十万。金糸でも編み込まれているのだろうか?

 

(だとすると……)

 

 春之助は予想する。シャツのお値段十万円。ならば他の品物も同じくらいの値段と考えるべき。コートやジャケットなどアウター類に関してはもっと高そうだ。春之助はハラハラとし、洋服棚から距離を取った。汚して弁償とかになっては大ごとだからだ。

 

 というか茉理が持ってったのはいくらくらいなのだろう。何となく十万よりも高そうな気がするが。春之助はあわててサイフをのぞき込む。中身は当然のごとく足りない。遊び代など全部合わせてもせいぜい五万くらいと思っていたのだ。


(うん、流石に無理だ。いくら可愛い妹でも十万は無理)


 春之助は顔を青くした。一般庶民の来る店じゃない。早くこの場所を出なければ。

 

 何故か茉理は普通とばかりに振舞っているが、若いゆえに怖いもの知らずなのだろうか。いや、昔はこういう店を利用していたのかもしれない。育ちのいい振る舞いに、御門小路とかいう仰々しい苗字。没落した金持ちとかそういうのだろう。

 

 ドキドキハラハラと挙動不審になっている春之助。その姿を見た店員が険しい表情になり始める。万引きか何かと怪しんでいるのだろう。新之助はあわててバンザイポーズをとった。私は何もしてませんとばかりに。

 

 そうやって春之助が自らの無罪を主張していると。

 

「お兄さま」

「お、おお、茉理ちゃ……ッ!?」


 ようやく試着室から出てきた茉理。彼女の姿を見た春之助は――

 

(か、かかかか可愛いいいいいいい!!!!)


 春之助の頭がぽーんと沸騰した。


 赤いベレー帽に、ゴシックロリータ風のワンピース姿の茉理。可愛い。可愛すぎる。可愛いと清楚が相まって最高の可愛いを醸し出している。もはや可愛いという言葉しか思い浮かばない。真っ青だった春之助の顔が真っ赤になる。

 

「お兄さま、何で手を上げてるの? うふふ」


 口元に手をやり、上品に笑う茉理。その姿がまた愛らしい。茉理についていた店員が「お似合いですよ。お兄さんもそう思いますよね?」と問いかけてくるが、完全に同意である。春之助はコクコクと頷いた。ぽけーっとした表情のまま。

 



「お買い上げありがとうございます! 合計、二十三万四千円になりまーす♪」


 気がつけば、春之助はレジの前に立っていた。クレジットカードを持って。

 

 隣には「お兄さま、ありがとう!」と満面の笑顔をしている茉理。「うふふ、着て帰っちゃおうかな」なんて可愛らしい事までつぶやいている。

 

 その後も茉理との妹デートは続く。映画に行ったり、おしゃれな店でランチを堪能したり、ちょっとしたアクセサリーを売る店に寄ったり。二人はとても充実した楽しい時間を過ごすのであった。


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