第2話. 可愛いらしい妹(?)との日々
株式会社フジシロ。春之助が務める会社の名前である。
そのフジシロが入居しているオフィスビルの一角、営業部のフロアにて。
「~♪」
春之助はるんるんと明るい顔で仕事をしていた。
カタカタとノートパソコンを操作し、昨日作成したデータを表示。顧客への説明資料がそろっている事を再確認。さらにメールをチェックし、優先度をつけて返信をしていく。明るい顔をしながらもしっかりと仕事を進めているようだった。
「よし! 準備オッケー! 課長! 外勤行ってきます!」
「お、おお、行ってらっしゃい」
春之助は立ち上がり、元気よく宣言。課長が少し引き気味な様子でお見送り。るんるんと足取り軽く廊下に出ていく春之助。
「先輩先輩、どうしたんですか? 最近すっごく調子いいみたいですけど」
そこで後輩の美月が近づいてきた。トレードマークのポニーテールを結い、紺色のパンツスーツ姿をした。因みにフルネームは佐倉 美月である。
「確かに。お前とは思えぬ真面目さだが」
続いて話しかけてきたスーツ姿の男、堂本 夏彦。オールバックの黒髪に、春之助と同じくらいの長身。真面目で仕事が出来そうな感じの人物だ。春之助の高校時代からの友人にして会社の同期、そしてこの間後輩の代わりに飲み代をおごらされた人物でもある。
「きっと金のエンゼルでも当たったんすよ。センパイ、単純だし」
ついでに休憩所の方から男の声。サブと呼ばれる男の後輩の声だった。素直な性格で、素直なあまり口が過ぎたり平気でサボったりするちょっぴり困ったちゃんな男。この間春之助に酒をおごらされそうになり、夏彦に助けてもらった者がこの男である。
サブの失礼な言動。普段であればゲンコツの一つでもかましに行っただろう。だが、今の春之助にとってはどうでもよかった。くるり振り向き、美月と夏彦の方を向いてニマーとする。抑えきれない喜びがその表情に表れていた。
その顔を見た二人がビクリとする中。
「フフフ、ナツ君。キミ、可愛い妹はいるかね?」
春之助が謎の問いかけをする。夏彦は「い、妹? いないが」とちょっぴり引きながら答えた。
「そうかそうか。ミツキ、お前はどうだ?」
「ひ、一人いますけど。けど、可愛いって感じじゃないですよ」
いっつも喧嘩するし、なんて答える美月。質問の意図が分からないといった感じで。
そうしてその二人の答えを聞いた春之助は――
「クックックック……。ハッハッハッハ……! ハァーッハッハッハッハ!!
――俺にはいる」
悪者のような三段笑いをし、ビシィッ! と親指で自らを指差した。いきなりの馬鹿笑いに「何だ何だ」と出てくる別フロアの社員たち。
なお、春之助に兄弟がいないのは周知の事実。意味不明な発言に夏彦は呆れたような顔をし、美月は「先輩、ついに頭が……」と可哀そうなモノを見る目を向けるのであった。