第77話 【神術ノ真価】
2042年6月10日19:48。
「お前は誰だ」
僕は、目の前にいる豊野二千花の姿形をした何かに向けてそう問う。
その何かは不敵な笑みを浮かべると、語りだす...。
「なるほど...困ったな......。私には名乗る名がないんだが.........まあ、いいや。では、私のことは統徒...って呼んでくれ...。統一の統に、徒歩の徒ね...。」
「身体を乗っ取っていることは隠さないんだな。」
「だって、君はもうすでに気づいているだろう?デカの時だって、そうだったし...。」
「...何⁉︎」
なぜ奴が...統徒がデカの名を...⁉︎
いや、それより...奴は僕とデカのやりとりを見ていたのか...?
もしかして、奴が...
「お前が、そのデカの言っていたあのお方ってやつなのか...?」
「おお、早いね...。まあ、そうなんだけどね......。話には順序ってものがあるから、そのことは後で...。」
「何...?」
「3冊の書物は見つかったかい?少年...常立一重。」
「それは...⁉︎あのメールの...⁉︎」
僕はあの日...豊野の家に泊まった3月11日を思い出す...。
僕は豊野の家であるメールを読んだ。
内容は、『廃神』になるために3冊の書物を探せ...というものだった。
結局、僕はこの3ヶ月の間、その内容に従わなかった。
でもその頃から僕は、この世界の廃神になることを第一の目標として行動してきた。
渋谷に行ったのも、魔力武闘会を開催したのも、沖縄へ調査に向かったのも、全ては廃神になるためのもの...。
そんな、今の僕を形作ったと言っても過言ではないメール...。
あのメールは奴が...
「どうやら、あのメールに書いた私の指示には従ってくれなかったらしいけど......まあ、それも想定内。」
「ところで、お前は3冊の書物の在処を知っているのか...?」
「知っている......と言うより、その3冊の書物は私が作ったものだからね...。元は存在しなかったものだったんだよ。」
「それじゃあお前は、偽物の書物を餌にして僕を捕えようとしたのか?」
「御名答‼︎...本当は、今より早い段階で君を捕まえられていたはずだったんだけど...君が指示に従わなかったり、他から邪魔が入っちゃったおかげで少し手こずった...。」
「もう、勝った気分か?少し、早いと思うぞ。」
「そう言われても...実際、勝っているからなぁ...。」
「なぜ、そう言い切れる?」
「なぜ...か。クク......ククククク...」
「何を笑っているんだ?」
「いいや...少し、思い出し笑いを...」
奴はそこまで言うと、また静かに笑いだす。
そして、笑いが収まると...
「じゃあ、ちょうどいい。齢解の歴史...『天皇』。その真相を、君に教えよう。」
と奴が言う。
「齢解の歴史⁉︎」
「その様子だと、『天皇』については、既にご存じのようだね...。」
僕は、豊野のイジメを解決した後に重流さんから聞いた内容を思い出す...。
皇居襲撃と天皇殺害......その事件に...僕のまだ知らない真実が...⁉︎
僕がそんなことを考えていると、奴は静かに語る。
「2025年6月...当時、皇居襲撃と天皇殺害を主導した者......それが、私だ。」
「何ッ⁉︎」
「ついでに言うと、実際に皇居へ侵入したのは私の手下のうちのたった3人だ。それでも、警備は3人に勝てなかった...。なぜだと思う?」
奴はいきなり、質問を投げかけてくる。
きっと、あの頃の...重流さんに話を聞いた頃の僕だったら答えられなかっただろう...。
そんなもの、存在しないと思い込んでいたからだ。
でも、今は違う。
今は...僕も、それを持っている。
「魔力......か。」
「その通りだ。侵入した3人はいずれも、魔力による戦闘を行っていた。何もない空間から何かを生み出し、それを攻撃にも回復にも応用できる技術は、当時の日本には存在しなかった...。無論、今も魔術なしでそのような技術を実現をするのは極めて難しい。」
「魔術...いや、魔力がこの世界に与えたものは今となってはもう、人々の当たり前となっている...。」
「魔力とは儚いものさ...。初めは誰もが魅力的に感じるもの......でも、時が過ぎれば皆がそれを道具として扱い始める...。」
「...結局、お前は何が言いたかったんだ?」
「魔力は儚く...人は醜い。...それだけだ。」
「何だと...?」
「...私はね、人間が嫌いなのだよ...。」
次の瞬間、僕の左腕が消し飛ぶ。
これは......奴の攻撃か⁉︎
僕はそれを理解するや否や、右手を奴に向けながら左腕の回復を一瞬で行う。
そして、右手から火の球を撃つ。
攻撃されてからここまで、約2秒...。
「...でも、君は違う。常立一重......そう、常立一重‼︎」
片手で僕の攻撃を防いだ奴は、いきなり僕の名前を連呼しだす...。
なんだこいつ......なんでこいつは僕の名前を...?
「常立一重......。君の名が、常立一重であること......それは、とてつもなく大きな意味を持つ...。」
「大きな...意味...?」
「そうだ......今こそ話そう‼︎君の真実を!」
「僕の......真実...」
僕は奴の言葉を繰り返す。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
2042年6月10日19:48。
「君は、日本神話を知っているかい?」
「日本神話......って、アマテラス...とか、スサノオ...とかのやつか?」
「そうだ......でも、今から私が語るのはその二柱の活躍する少し前の神の話......別天津神と神世七代についてだ。」
「別天津神...神世七代...」
初めて聞くその2つの単語に、なぜか僕は強く興味を惹かれる...。
そして、奴は続けて語り出す...。
「別天津神...それは五柱から成る最初の神々だ。ただ、その神々は全員、身を隠した...とされている。そして、その次に現れたのが神世七代...七組十二柱から成る神々だ。そして、その神世七代のうちの一代目の神の名は...」
奴は無駄に間をあけてから、その名を言う。
「国之常立神...だ。」
「常立......」
「気づいたか...常立一重。そう、君は特別なんだ。君は神に選ばれ、その名を与えられた。」
「選ばれたって......何に...?」
僕は混乱しながら、奴にそう問う。
今はただ、そうすることしかできないのだ...。
でも、そんな僕にも容赦なく奴は真実を押し付ける...。
「君は、クニノトコタチの身体・力・魂を受け継ぐ人間として選ばれたんだ。」
「そんな......じゃあ、僕の中に...神が...?」
「そうさ......実際、君は何度か見てきただろう?赤い装束を見に纏った者を、夢の中で...。」
「──あっ...ぁぁ......」
その時、僕は思い出してしまう...。
何度か夢の中で出会った、その者を...。
豊野との鍛錬中に気絶した時...そして、魔力武闘会の少し前...。
僕は2度も、クニノトコタチに会っていた...。
あいつは......僕に助言を与えてくれたあれは、神だったのだ。
だから初めて会った時、言葉では表せないような強さを感じたのか...。
僕の中で全てがつながってしまう...。
「常立一重君......。私はね、この時をずっと待っていた...。君が...真に完成する時を‼︎神をも殺す『神術』...それは力の源を知覚した時、初めて真価を発揮するもの...‼︎」
奴がそう言った時、僕の脳内にある言葉が再生される...。
〜「少年...常立一重よ......神術を.........万滅斬を使うんだ...」〜
あいつの...クニノトコタチの声だ...。
その言葉は何度も僕の脳内で繰り返し再生される...。
それに重ねて、奴の...統徒の
「さあ!...常立一重、今こそ神術を使うのだ‼︎真に完成した君の神術を...私に‼︎」
という声が耳に入る。
どうする...?
もう、今の僕はまともな判断ができない......そう、自分でも分かる。
「僕は......我は──ッ‼︎」
その時、すぐ後ろから何かが衝突する音が響く。
僕はすぐに後ろを見て、驚愕する。
――――――――――
2042年6月10日19:48。
「我が名は...モノ。別天津神がひとつ、高御産巣日神だ。」
「コトアマツカミ...?タカミムス...なんとか......?」
時を止められた僕...香角刻四は目の前の白い装束の男を睨みながら、そう呟く。
奴の顔は「弐」と書かれた布で隠されている。
こいつはモノと名乗った......ということは、常立や豊野たちが戦ってきたデカとかノナとかオクタとかの仲間か...?
だが、常立たちから聞いていた情報とはまるで違う...。
こいつは......今までの奴らとは違う‼︎
見た目も...威圧感も...そして、内に秘めている力も...。
僕は隣で同じく時を止められている女性...活田佳奈四をちらと見る。
彼女も、モノを見つめている...。
この時を止める術は攻略できないのか...?
僕がそんなことを考えていると、モノが再び語り出す。
「その魔力...なるほど。一部、彼のものが混じっているようだ...。」
「彼」...って、常立のことか⁉︎
確かに魔力武闘会の後、僕らは彼の魔力を少しだけもらった。
そのおかげで僕らは今、フリゾンでの戦闘を行えている。
こいつは...この短時間でそこまで僕らを分析したのか......⁉︎
「モノ...と言ったか...。お前、目的は何なんだ?」
「目的......か。...私はあのお方より命を受けて、貴様らの足止めに来た。...ただ、案外すんなり行けてしまったな...。」
「...ずいぶんと......」
「...?」
「オレらも...ずいぶんと......舐められたものだなぁ‼︎今だ!...佳奈四‼︎」
僕が彼女にそう呼びかけると、彼女は
「了解‼︎はぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
と叫ぶ。
するとモノの周囲に突然、無数のナイフが出現する...。
そのナイフは現れた瞬間、モノに向かって加速する。
そして、モノの身体に深々と刺さってゆく...。
「見つけた...‼︎この時を止める魔術の攻略法...‼︎」
この時を止める術は僕らの魔力の流れまでは止められない...。
佳奈四はそれに気づいた瞬間からずっと、攻撃の準備をしていた。
そして、それに気づいた僕は会話で時間稼ぎ...。
「なるほど...双神術の意思共有による連携...か。確かに、舐めるような相手ではなかったな...。すまない...。」
奴は無数のナイフに刺されながら、そう詫びる。
こいつ......まだこんな余裕があるのか...⁉︎
それに、時を止める術はまだ発動したまま...。
「...だから、遊びはここまでだ。」
そう言いながら奴は...モノは右手を前に出し、
「時を司る魔術...時操。それは過去・現在・未来だけでなく、空想の時点の再現も行うことができる優れもの...」
指を鳴らす。
「「────ッ!?」」
その瞬間、僕らの体はある方向に向けて急加速する...。
速すぎて、どの方向に飛んでいるかすらわからない...。
そう思った次の瞬間、僕らは何かに衝突する...。
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