第76話 【常立ト豊野(伍)】
第67階層。
視界が一気に明るくなる...。
『ふぅ...これで盲目はおしまいだな...。』
Kaitoが安心したようなため息と共にそう呟く。
僕も同じくため息をつく。
「あとは......僕の実力次第だな...。」
『そうだ...。......できるよな?』
「...できるさ。だって、僕は......廃神になる男だからな‼︎」
僕はそう叫ぶと、目の前にいるボスに向かって突進する。
そして一閃、斬り込む‼︎
目の前にいるボスはその瞬間、真っ二つにわかれる。
「...弱い。まだ、魔物のレベルは120だ...。」
何かがおかしい...。
このまま敵のレベルが上がり続けても、250くらいまでが限度だ...。
どこかで流れが変わるのか...?
僕がそんなことを考えながら次の階層への階段を下りていると、足元の階段が突然、白く光る。
「...これは⁉︎」
『まさか...転移の魔石......⁉︎』
Kaitoがそう驚くと同時に、僕の周囲が白い光で満たされる...。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
第99階層。
僕の周囲を満たしていた白い光が収まると、目の前に今まで見たことのない敵がいた。
なるほど、こいつが...つまり、ここは99階層か......。
転移の魔石によって大体30階層、飛ばされたか...。
転移の魔石...その名の通り、触れた者を一瞬でどこかへ転移させる石だ。
今回は、階段の材料に使われていたのだろう...。
『まるで...僕らが来ることが分かっていたかのようだ......な。』
「何...⁉︎ゲーム運営が僕らの存在に...⁉︎」
『その可能性もなくはないな...。その場合、これは運営側からの挑戦状とも取れる...。』
「...そうかよ!わかった...なら、受けてやろうぜ‼︎その挑戦とやらを...‼︎」
『君ならそう言うと思ったよ...まあ、最初から僕らの目的はこれだからね...。』
「廃神に、なるために......」
僕はそう言いながら、目の前の人型の敵を見つめる...。
すると、その人型の敵もこちらを見つめる。
その人型の敵は、ゲーム内の僕と同じくらいの背丈で、魔物の中では最小だ。
体力は約922京......これを削り切れるのは、あれしかない...。
「......行くぞ‼︎権刀・一天丸!」
権刀...それは、このゲーム内で圧倒的な攻撃力を誇る、刀の最高種のこと。
権刀には全45種類があり、それぞれ名前も効果も異なる。
そして、僕のこの「権刀・一天丸」の効果は...一回の攻撃で自身のデータ量(bit)と同じダメージを相手に確定で与えるというものだ。
僕のデータ量は大体、30GBすなわち...250000000000bitだ。
よって、僕がこの「権刀・一天丸」で一度に与えられるダメージは、2500億だ。
ただしそれでも、奴の922京というバカ体力を削り切るには3000万回以上、攻撃する必要がある...。
流石に3000万回も攻撃するのは面倒だ......
「そこで、こいつの出番だ!」
僕はそう呟きながら平方の魔石を取り出す。
平方の魔石...それは、一定時間、使用した者の与えるダメージを平方...すなわち2乗するというもの。
そう、これを使うことによって、僕の一度に与えられるダメージは2500億から、600垓へと一気に跳ね上がる。
このゲームにおけるカンストが体力と攻撃力で等しければ、僕はこの勝負に勝てる...‼︎
ただひとつ、問題があるとするならば...奴が装備をつけているかだ...。
外見からは何も装備していないように見えるが...
『Hitoe来るぞ‼︎右に跳べ‼︎』
僕はそのKaitoの声を聞いて咄嗟に、右に跳ぶ。
すると、先程まで僕の立っていた場所が地面ごと抉られていた...。
「そんな余裕はない...か。仕方ない......ここは、当たって砕けろの精神で行くぞ!」
僕はそう言いながら、平方の魔石を使用する。
そして、権刀・一天丸を両手で持ち、奴の目の前まで突っ走る...。
一足一刀の間合いに入る。
奴は...目の前の人型の敵は避けようとしない。
それどころか、動く気配すらない...。
勝った‼︎...いける‼︎...廃神に成れる‼︎
......だが、違和感。
どこかがおかしい...。
僕はその違和感を探す...。
そして、僕は...
「嘘.........だろ?」
気づく。
僕の体力が1になっていた...。
細かい値は覚えていないが、5000万くらいはあったはずだ...。
それが、奴との間合いに入った瞬間...。
その時、奴の名前が表示される。
「廃神......か。面白い‼︎超えてやるよ......その強さ!」
そして僕は自身にある効果がついていることに気づく。
そういえば初めの頃、こんな保険をかけていたな...。
火事場の馬鹿力...名前はあんまりかっこよくないが、効果は馬鹿にならない。
体力が1になった時、2種の技の同時使用が可能になる。
技の同時使用......それは、このゲームにおいてどう頑張っても不可能だ。
必ず、時間をあけて発動しなければならない...。
ただ、その不可能を可能にするスキル......火事場の馬鹿力。
これによって、ある問題が解決する。
奴の装備について...考える必要がなくなった‼︎
「ここで終わりだ......我は今、廃神になる──ッ‼︎我が最強をその身でとくと味わえ......」
僕はある2つの技を、同時に発動する。
圧倒的な破壊力で敵を潰す神子...そして、圧倒的な斬撃の量で敵を滅する天滅...その2つを合わせた究極の必殺技...
「──神子天滅!!!!!!!!!!」
僕はそう叫びながら、権刀・一天丸を奴の体に触れさせる。
すると、圧倒的な量と破壊力の斬撃が奴を襲う。
一つの斬撃につき、600垓ダメージ...。
奴の体力は一瞬にしてなくなる。
と同時に、奴の身体はなんの演出もなく消滅する...。
「勝った......んだよな?」
演出がなくてあんまり実感が湧かないが......勝てたんだ。
僕は...廃神に...!
「やったぞ‼︎...Kaito!奴に...勝てたぞ‼︎」
僕はKaitoに向かってそう言う。
だが、彼からの反応がない...。
もしかして、嬉しすぎて言葉に詰まっちゃったか...?
「Kaito、せめて反応ぐらいはしてく......」
「いやー、見事だったよ......//戦王-Hitoe//。」
「何...⁉︎」
背後から声がして、僕は咄嗟に振り返る。
そこには、1人の男プレイヤー...//貪欲者-Airu//がいた。
「お前か...ここ最近、ゲーム内で不正行為を繰り返しているというのは...。」
僕は低い声で、そう言う。
相手の実力がわからない以上、慎重に会話しなければならない...。
「君も...そんなことを言うんだね...。なぜ皆、わからないかなぁ.........これが、必要だということを...」
「必要?」
「これが......このゲームの本性だと!!!!」
次の瞬間、僕の体力が1から0になる。
...なぜ⁉︎
目の前のコイツ...Airuは1ミリも動いていない...。
なのになぜ、僕にダメージを...。
まさか......チート⁉︎
僕はその場で跪き、彼を見つめる。
それと同時に、ゲーム内の僕は指先からゆっくりと崩れ消えてゆく...。
「くそ...ここまで......か。」
僕はそう言い、目を閉じる...。
思えば、ここまでうまく行き過ぎていたのだ...。
全てがうまくいくことなんてない...。
初めから...これが...運命だったのだろう......
「目を覚ませ‼︎Hitoe!お前はまだ死んでない‼︎」
この声は...Kaito?
...いや、きっと幻聴だ。
いやだな......僕は無意識のうちに彼を求めるようになったのか...
「目・を・覚・ま......せ‼︎」
「イテッ...」
僕はKaitoビンタで強制的に目を覚ます。
すると、目の前にKaitoの顔が...
「...って、Kaito⁉︎なんでここに...?」
「まあ、かくかくしかじかあって......状況が状況だからさ...。」
「Kaito...今のじゃ何もわからんぞ...」
「まあ、とりあえず......最高の相棒を助けに来た...ってことだ!」
「Kaito...」
僕は思わず泣きそうになる...が、泣けない。
...というより、
「...リアルの体は⁉︎」
「ああ、Hitoe。今、ゲーム内の君はリアルの君の脳が直接動かしている。操作の無駄を極限まで減らすためにね...。」
「なんで...どうやって......」
「まあ、それについては後で。今、やるべきこと...君は分かるだろう?」
「...フッ......そうだったな。行くぜ、Kaito...。僕ら2人で......」
「「けりをつけてやるぜ‼︎」」
僕らは同時にそう言う。
すると突然、Airuが嗤いだす。
「ククク......フフ...フハハハハハハハ‼︎面白い‼︎己の無力さも知らぬ愚か者ども...貴様らに最強になる資格など......ない‼︎」
次の瞬間、無数の剣が演出なく出現し、その全てがこちらに向かって飛んでくる。
「Kaito!これはどうする...?」
「Hitoe、動くな...。僕を信じるんだ!」
「は...?」
僕のそのセリフの直後、無数の剣は僕らを貫き進んでいく...。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
2038年9月4日13:30。
Airuの声が階層中に響き渡る...。
「フッ...あまりにもあっけないな...。やはり、チートの前ではどんなプレイヤーも.........」
階層は煙で満たされていて、視界が悪い...。
しかし次の瞬間、その煙は謎の風とともに流れていく。
「...何⁉︎」
そこに...僕らが現れる。
//戦王-Hitoe//と//策士-Kaito//...。
「なぜ......なぜ貴様らがッ⁉︎確かに剣が貫いたはず...‼︎」
「チートを以てチートを制する......簡単な話さ...。僕も、チーターだ。」
「貴様も...。いや、これは裏サイトで見つけた最強チートだぞ⁉︎そんなものを防げるチートなど...」
「たかが一般公開チートで、僕のオリジナルチートに勝つ......そんなこと、不可能だ。他人の努力の賜物を平気で乱用する奴に、僕らを超えることなんてできないんだよ。」
Kaitoは煽り口調で、Airuを挑発する。
するとAiruは、その挑発にまんまと乗る...。
「愚か者が............ほざくなああああぁぁぁぁ!!!!」
「無駄だってことになぜ気づかない...。Hitoe、例の技を準備しろ。」
Kaitoはこちらを見てそう言う。
僕はKaitoに非常用に渡された技の効果を思い出す。
「おい...これ、プレイヤーに向けて大丈夫なのか?それに、なんで僕が...」
「プレイヤーのリアルの身体に直接危害を加えるような技ではないから安心しろ。あと...その技はなぜか、このゲーム内のHitoeを介さないと発動できないんだ...。」
「お前を......信じていいんだよな...?」
「それは君が決めることだ...廃神。」
廃神...か。
そうだ......僕は、廃神...。
僕はAiruに向けてゆっくりと歩く...。
ある距離まで近づくと僕は立ち止まり、足を肩幅に開いて両手を前に出す。
そして.........唱える。
これが、これこそが......
「My...Strongest」
この静かな詠唱の直後、ゲーム内のAiruの体に異変が起こる...。
彼の体の表面が、0と1のみの数字の羅列で覆われたのだ。
「なんだ......なんなんだ...‼︎これは......貴様は...貴様らはッ...‼︎」
次の瞬間、Airuの体が緑色に強く発光する。
「Guaaaaaaaaaaa...‼︎」
光が収まると、そこに彼はいなかった...。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
2038年9月5日6:05。
僕はいつものゲーム内に入る。
そして映ったのは、例の顔。
彼は、僕を見ると
「遅かったな...//廃神-Hitoe//。5分遅れだぞ...。」
といつものように言う。
僕は、
「悪かったな...//神能師-Kaito//。朝はどうしてもだめなんだ...。」
と謝る。
「朝も...だろ?それに、今日呼んだのはそっちじゃないか...。なんで呼んだ方が遅刻するんだ...。」
「だから悪かったって...。」
「...まあ、反省してるならいいか。それで、今日はなんで呼んだんだ?」
「えっと...。ここじゃあ、話しにくいな...。少し、移動しよう。」
「...?...まあ、わかった...。」
こうして僕らは、街の中にある橋の上まで移動する。
橋に着くと、Kaitoはすぐに
「それでHitoe、今日は何の用だ?」
と聞いてくる。
「...」
僕は思わず、黙り込んでしまう。
なかなか、言う勇気が湧かない...。
否定されてしまうかもしれないという恐怖......いや、それ以上の何かが僕がそれを言うことを邪魔する...。
「Hitoe。」
「えっ...⁉︎...ああ、すまない。なかなか、言えなくて...。」
「緊張するな、Hitoe。君のいうことなら、僕はなんでも受け入れるよ...。だって、君のおかげで僕も五種の越格を獲得できたのだからな...。」
Kaitoはそう、優しく言う。
そう...彼はあの裏ダンジョン攻略の後、そのあまりの技術力の高さから、特別に五種の越格『神能師』を与えられた。
ゲームのハッカーなのにも関わらず......だ。
当然、僕はそんなこと気にしていない。
実力のある人が認められるのは当然のことだ。
ただ、周囲のプレイヤーにはそれを気に入らないのもいるらしい...。
僕はそんな彼を...
「なあ、Kaito。僕らは五種の越格を手に入れたわけだが.........こ、これからも...一緒に活動してくれないか?」
僕は勇気を振り絞ってなんとかそれを伝える...。
「...ッハ......ハハ...。なんだ、そんなことか...。」
「だめ......か?」
「ダメなわけないだろ......むしろ、大歓迎だ!それに、君ならそうすると思ったよ...。」
「そうか......そうだな...。」
僕は思わず涙を流す。
あの時...裏ダンジョン内の時とは違い、今度はしっかりリアルで泣けた...。
「それじゃあ...」
「これからも...」
「「よろしく‼︎」」
僕らはそう言い、グータッチする...。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
2038年9月5日...放課後。
僕は豊野によって学校の校舎裏に呼び出される。
用件はわからないが、僕はとりあえず行くことにした。
またイジメられた...とかじゃないといいんだが......。
そんなことを考えながら校舎裏に着いて数分...
「あっ、おまたせ‼︎」
彼女が来た。
彼女の顔はあの頃...いじめられていた頃とはまるで違う...。
美しい......素直にそう思った...。
「ごめんね...待たせちゃって......。」
「いや、全然...。それより、最近はどう?その......イジメとか...」
「ないよ......驚くほどね...。」
「そうか...よかった。」
「あの!!...ありがとう、常立君。」
「...どうしたんだ?いきなり...」
「いままで...言えてなかったからさ......。きっと私、常立君がいなかったら今頃......」
彼女はそう言いながら、俯く。
そしてすぐに、顔を上げて
「だから、本当にありがとう!」
と言いながら満面の笑みを浮かべる...
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
2042年6月10日19:48。
中華街跡地内の善隣門......僕と彼女は今、そこにいる。
僕の目の前にいる彼女は、あの頃と同じく、満面の笑みを浮かべている...。
ただ、それは違う...。
その満面の笑みはあの頃とは全く...。
彼女が彼女ではなくなった......そう結論付けるのにあまり時間はかからなかった...。
そして、僕は問う...
「お前は誰だ」
...と。
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