第74話 【常立ト豊野(参)】
2038年9月1日...放課後。
学校の理科室...そこで僕はスマホをいじっていた。
「裏ダンジョン発見、すぐに来い......か。無茶言うな...。」
Kaitoからのメールを眺めながら、ため息混じりでそう呟く。
その時、理科室の扉が開く。
来たか......。
僕はゆっくりとそちらに目をやる。
「約束通り来たわ......常立一重。」
そこには、気まずそうに棒立ちしている愛原唯がいた。
彼女が、豊野へのイジメの主犯......だったな。
「約束通り、1人で来たのか...」
「当たり前じゃない...!それより、何の用?」
彼女は焦るようにそう問う。
「何の用...?本気で言っているのか......?わかるだろう...僕が君をここに呼んだ理由くらい...」
僕は感情を込めず、そう話す。
感情を抑えきれずに会話をすること...
それは、この時と空間においては敗北を意味する。
感情をむき出しにせず、相手を確実に追い込む...それが僕の最終目的だ。
「愛原、単刀直入に言おう......豊野二千花へのイジメをやめろ。そうすれば、もう僕が口出しすることは何もない。」
「...いいわ。」
「ずいぶんとすんなり受け入れるんだな...。てっきり、断り続けるのかと思っ...」
「ただし、ただやめるだけだったらつまらないわ...。何か、対価がないと...。」
愛原は表では絶対に見せないようなニヤけ顔でそう言う。
「対価...か。望みは聞いてやろう。」
「そうね......。私たちは、刺激に飢えているのよ。」
「刺激...。」
「そうだ、二千花へのイジメをやめる代わりに、常立君をイジメれば......」
「...」
「もしそれが嫌なら、二千花へのイジメの件は諦めることね...。まあこんなの、答えは決まっているようなものだけど...」
「...豊野二千花をイジメれば、僕は容赦なく行動させてもらう。」
「容赦なく...?それで脅してるつもり?」
彼女は僕を馬鹿にするようにそう言う。
「君が僕の言葉をどう捉えようとも構わない。ただ、今の僕は目的のためならなんでもする...。」
「なんでそんなことが言えるのかしら...。」
「全てを......失ったからだ。」
「え...?」
愛原は言葉を止める。
そしてここから僕は彼女を、一気に追い込む。
「親が、殺された...。親戚は皆、僕を見捨てた...。僕は1人で、生きることになった...。」
「...」
「頼れる人も......愛すべき人も......僕を愛する人も......全部、失った。僕にはもうこれ以上、失うものは残っていない。」
「でも!それが何で......」
「僕が犯罪を犯しても、誰も僕のために叱らない......叱ってくれない。僕が犯罪者になっても、誰も僕のために悲しまない......悲しんでくれない。」
「そんな...こと......」
「僕が犯罪を犯したら、周囲はただ、僕をマニュアル通りに、無機質に裁く......だから、僕の心が傷つくことなどない。」
「...」
「ゆえに、僕は心に一切の傷を負うことなく、君らを殺すこともできる......ということだ。」
「......だったら、あんたが動く前に教師に伝えれば...‼︎」
「その時は、豊野へのイジメについても伝えなければな......」
「...」
終わりだな...。
中学生の心というものは案外脆い。
まあ、まだ一年生...というのもあるかもしれないが......。
「...わかったわ。二千花へのイジメは止める...。これで、いいわよね?」
「ああ、それでいい。それと、今日この場所で僕が話した内容は他言無用だ。もちろん、君が話したことも外に出さない。」
「......わかったわ。」
「よし、じゃあもう帰ってもいいぞ。」
「言われなくても、そうさせてもらうわ!」
彼女は強気でそう言いながら、理科室から出ていく。
でも、僕は扉を開閉する彼女の手がわずかに震えているのを見逃さなかった...。
これで、問題は解決だな。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
2038年9月3日...夜。
今日は天ヶ原中学校に通い始めてから初めての土曜日...。
ようやく休みだ‼︎...と思っていたのだが...
「いやーお疲れ様!常立君。」
最悪だ...。
僕は今、豊野重流に半ば強制的に焼肉に連れてこられている...。
こんなつもりじゃなかったのに...‼︎
本当だったら...僕は今...‼︎
そんな気持ちを心に秘めながら、僕は席に座る。
僕らが案内されたのは完全な個室......事前に彼が予約していたのかもしれない。
これがもし、他人に話を聞かれないためだとしたら、今日の話題は...
「イジメの件ですか...?」
「え?...ああ、まあちょっと待って...。ゆっくり話そうよ。」
「はぁ.........わかりました。」
僕は大袈裟にため息をついてそう言うが、彼は気にせず
「そう来なくっちゃ...!」
と言う。
まあ、これで彼と会うのがたぶんmaybeおそらく最後だと思えば楽...かな?
僕はこうして気を保ちながら彼との2人焼肉に臨むのだった...。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
一通り肉を注文し終えると、豊野重流が
「それで、どうだい?最近は...。」
と聞いてくる。
「最近...というと、学校生活ですか?」
「それもそうだけど...ほら、家では1人だろう...?」
「まあ、そうですけど...。」
「寂しかったりはしない?」
「寂しくない...と言えば嘘ですが、生活に不自由はありませんよ。」
「そうか...やっぱり君も、寂しいんだな...」
彼は同情するようにそう優しく言う。
その時、僕の中の何かに異変が起こる。
「...正直、何度も死にたいって思いました。両親を失い...親戚から見放され...赤の他人が仮の親になる...。目を瞑る度に両親の姿が頭をよぎり、死んででも会いたい...って思っちゃうんです...。」
「常立君...。」
「正直、僕が死んでも誰も悲しまないじゃないですか。正直、僕が何をしても誰もそれを気にかけないじゃないですか。正直、僕が努力して生きても誰も褒めてくれないじゃないですか。」
「常立君...‼︎」
「僕を無視するこんな世界で苦しむくらいなら......僕は、生まれなかった方が良かった......‼︎」
「いい加減にしなさい‼︎」
僕が全てを吐き出すと、豊野重流はそう怒鳴る。
僕はそのあまりの威圧感に驚いてしまう...。
個室内が一気に静かになる...。
「...あっ、ごめん常立君。いきなり怒鳴っちゃって...」
「いや、僕の方も...少し言い過ぎちゃいました...」
僕らはそれだけ言って黙り込む...。
その時、個室の扉が開いて肉が運ばれてきた...。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
しばらく僕らは、無言で肉を焼いていた...。
しかし突然、
「そろそろ、伝えるべきかな...。」
と豊野重流が言う。
「伝えるって...何をですか?」
「『齢解の歴史』...だ。」
「齢解の歴史...?」
「そう、年齢が18歳に達するまで教えることを禁じられている歴史のことだ。学校の授業内はもちろん、日常生活の会話においても、それにまつわる情報を教えてはならない。」
「そんなものがこの国に...。」
「昔はなかったんだけどね......。生きづらくなったよ...この世界は。」
彼は嘆くようにそう口に出す。
「それで、その齢解の歴史が一体、どうしたんですか?」
「ああ、そうだった!君にそのうちのひとつを教えようと思ってね...。齢解の歴史......『天皇』についてね。」
「テン...ノウ...?」
「そう、天皇だ。ちなみに常立君、この国に王は...」
「いません......小学校ではそう習いました。」
「そうだね、でもそれは真っ赤な嘘だ。この国に王はいる...というよりいたの方が正しいかな。」
「この国にも...王が⁉︎」
「そして、その王こそが『天皇』...だ。ちなみに、神話の中で天皇は神の子孫...とされている。」
「神の子孫......なんかかっこいいですね...。」
「だろう?でも2025年...天皇に関係するある事件が国内で起こった。」
彼は急に真面目な声と顔になり、ゆっくりと語る。
「2025年...謎の団体により、天皇のいる皇居が襲撃された...。そして、天皇はそいつらに殺害されてしまう...。」
「国の王なのに......警備が甘かったのですか...?」
「いや、警備は国内で最高水準のものだった...。それでも、突破されてしまった理由は相手にある。」
「相手...というと、襲撃者ですか?」
「そうだ。警備によると、襲撃者は人間を超越した能力を有していたらしい...。まあ、それが本当かはわからないが...。」
「2025年...僕が生まれた時にそんなことが...。」
「実際、君を産むのに君の両親はとても苦労していたよ...。」
「そう......ですか...。」
個室内では、肉を焼く音だけが響いている...。
「それに、君の両親以外にも君を産むために動いてくれた人はたくさんいる。...人っていうのは簡単に死ねてしまう。でも、人が生まれるというのはそう簡単ではないんだ。」
彼は僕の目をまっすぐ見て、優しく喋ってくれる。
「多くの人の助け......それがなければ人の子は生まれない。君もそうだ...常立一重君。」
僕の頬を何かが流れ落ちてゆく...。
「だからあまり、生まれなければよかった...とか言わないようにな...。特に、直接支えた人の前ではね...。」
彼は意味深にそう言う。
その時、僕の中である仮説が生まれる。
もし、これが本当なら...全てが...。
「もしかして...あなたも......」
「やっぱり気づくか......流石、彼の子だな...。」
「重流さんは...僕の父と知り合いだったんですか...⁉︎」
「まあ...ちょっとね......。」
全てが繋がった...。
彼は僕の父と知り合いだった......だから、孤立した僕の法律上の親になり...自身の家に近い横浜に僕を住ませ...イジメの解決によって自身の娘と僕の関係を作り出そうとした...。
「全て理解したようだね...。いやー、久々にこんなに頭使ったよ...。でも、全部うまく行ったようだから良かったよ...。」
「...もしかして、イジメが解決したことも...⁉︎」
「自分の娘だからね......少しの変化も気づけなきゃ...。」
僕は、彼を...重流さんを見誤っていたようだ...。
彼は...すごい。
彼が今までとは比べ物にならないほど、輝いて見える...。
「さあ、話も一段落ついたし、今はとにかく焼肉を楽しもう‼︎」
「そうですね......重流さん!」
それから僕らは、とにかく焼肉を楽しんだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
2038年9月3日...深夜。
僕と重流さんは横浜駅にて、別れようとしていた。
「今日は、ありがとうございました‼︎なんだか...色々と変われた気がします。」
「それは良かったよ...。私も、今日は関係とか気にせず純粋に楽しめたよ...。こちらこそ、ありがとう。」
彼はそこまで言うと、僕に背を向けて
「それじゃあ、またね。」
と言う。
僕はそれに対して、
「はい!また...」
と返す。
彼は駅の改札を通り、さらに奥に行こうとする。
が、彼は何かを思い出したように立ち止まり、こちらを見て
「夜道を歩く時は気をつけるんだよ...。まだ、君の両親を殺した奴がいるかもしれないから...。」
と言う。
確かに、犯人が次狙うとしたら...僕か。
「わかりました!気をつけます‼︎」
僕はそう、彼に届くように言う。
帰りは気をつけよう...。
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