第70話 【彼女ノ身体】
2042年6月10日22:12。
部屋の空気が一気に重くなったのを感じる...。
ボク...五藤乃々華は、兄...五藤富地と手を繋ぐ...。
彼と手を繋ぐのは何年ぶりだろうか...。
少し...照れる...
いや、今は目の前のこの男...伊岐七斗についてだ。
黒い袴を着た黒髪の男...。
腰には一本の刀を携えている。
彼の顔にはまだ、余裕が見られる...。
そう、まだ......ね。
神術...それは神々が作った他の神への対抗手段...。
神術が神術たる条件...それは、神以下の存在を殺せること。
神のみが扱うことができる術...というわけではないのだ。
人でも扱うことができる...そう、ボクたちでも...。
「行こう、乃々華。」
兄がそう言う。
ボクたちは向かい合う。
兄の心拍音がボクに伝わってくる......きっと、ボクの心拍音も...。
ボクと兄が...ひとつに...。
心拍数が上がると共に集中力が増してゆく...。
ボクたちは繋いでいない方の手を男...伊岐七斗に向けて伸ばす。
ボクらが、あの男を.........
『『双神術:貫全』』
次の瞬間、何かを貫いた感触がボクたちに伝わる。
しかし、僕たちの視線の先には、黒い袴を着た男が何事もなかったかのように突っ立っている。
彼の右手には一本の刀が......ただの刀ではない。
「驚いた...まさか刀をやられるとは...」
彼はそう呟く。
彼の右手に握られた刀はその刀身の半分以上が欠けていた。
驚いた...ってことは、もともと刀身は欠けていなかったのか...?
ボクたちの神術で刀が欠けた...いや、逆にボクたちの神術が一本の刀によって防がれた...とも考えられる。
「お前、なぜ神術を防げた...⁉︎」
兄が少し動揺しながらそう問う。
確かに、神術を...神をも殺せる術を、刀一本で防げるのはおかしい...。
「目には目を、歯には歯を、神術には神術を...だ。」
「まさかお前──ッ⁉︎」
伊岐の回答を聞くと、兄は何かに気づき伊岐を攻撃しようとする。
でも...
「っんぐぅ⁉︎」
兄の右腕が切り落とされた。
誰が...⁉︎
気づけば、伊岐の隣に1人の女性が立っていた。
長く黒い髪を後ろで結わえたその女性も伊岐と同じ黒い袴を着ている。
彼女の手に握られた刀には血が...兄の血がへばりついている。
兄の腕を切り落としたのは彼女か。
「アンタらの目的はなんなの──⁉︎」
ボクは叫ぶようにそう2人に問う。
すると、伊岐が口を開く。
「言っただろう...俺たちは常立一重に会いに来た...それだけだ。それに...先に手を出したのはそっちの方だろう?」
「...」
ボクは黙り込んでしまう。
確かに、最初に攻撃したのはこちらの方だ。
相手に殺意はなさそうだ...。
「まあでも、ここまでやられたなら仕方がない...。俺らの邪魔をそんなにしたいのなら...いいだろう、やってやるよ。」
伊岐の雰囲気が一気に変わる...。
余裕そうだった彼から、殺意が溢れ出す...。
「邪魔者であるお前らに、力の差を思い知らせてやる。」
彼と...その隣の女性の目が紫色に光る。
これは...神術⁉︎
ボクは何も考えず、少し離れたところで悶え苦しんでいる兄に覆い被さるように飛び込む。
次の瞬間、2人は詠唱する。
『『双神術:...』』
――――――――――
2042年6月10日19:48。
「これは...ブロック?」
結界に入った僕と先生2人は、不自然に浮いているブロックを見つめてしまう。
「魔術...なのか?」
「ええ...でも、あまりにも高度な......」
香角先生と活田先生もそう呟く。
魔術...だとするならば、一体誰が、どうやって、なぜ...このようなことを...。
僕はひたすら考える...でも、僕には見当もつかなかった。
この魔術を使用する人物、方法、理由...全てがわからなかった。
「...とりあえず、状況の確認を行いましょう。」
こうして僕らは結界の効果について調べることにした。
「まずは...あの意味深に浮かんでいるブロックですが、一旦無視しましょう。今のところ、攻撃してくる気配も感じませんし。」
「そうだな...じゃあ、何を調べるんだ?」
「とりあえず、虚実融合を使えるか調べます。これが使えないと、逃げれないですからね...。」
「そうね...逃げれないのは流石にまずいわ...。」
活田先生が何かを思い出すようにそう言う。
きっと、沖縄でのことを思い出しているのだろう...。
確かに、あれはキツかった...。
僕は沖縄での出来事を思い出しながら、虚実融合を使用する。
すると、僕らの目の前にゲートが開く...が、
「ん?なんだこの結界みたいなの...」
ゲートには結界のようなものが張られていた。
僕はそれに手を触れ、さらに奥に進めようとする。
進まない...。
手がゲートの表面で静止してしまう。
「えーと...これはマズイってことでおけ?」
「そうですね...虚実融合が使えないので...」
「また、閉じ込められた...と。」
沈黙が走る。
ここにいる皆が絶望する。
「で、でも...以前とは違って、ここでは魔力が使えます。沖縄のときほど苦労はしないでしょう...。」
僕はなんとか場の空気を戻そうとする。
「あ、そうだ!Myパネルも確認しましょう‼︎何か変化があ......るか...も?」
「どうした常立?」
「2人とも、聞いてください。現在、この結界内では時間が進んでいません。」
「なんだって⁉︎」
「常立君、どういうこと⁉︎」
「Myパネルを開いてもらえると分かると思いますが、時計が表しているのは結界が作成された時刻...2042年6月10日19:48です。これは外界での時刻よりも明らかに遅れています。」
「確かに、1分経っても時計が動かない...。」
「常立君...これは......」
「おそらくこれも、魔術でしょう。もしかしたら、結界で重なっていた2つの魔術はこれらなのかもしれません。」
ブロックを浮かす魔術と外界から時間という面で空間を遮断する魔術...。
どちらも、初めて見る魔術だ...。
一体、この結界内にはどれほどの実力者がいるのだろうか...。
――――――――――
2042年6月10日19:48。
結界内に侵入、と同時に僕らはゲームのような空間に驚く。
空中に浮いた無数のブロック...厨二心をくすぐるような空間だな...。
僕がそんなことを考えながらニヤニヤしていると、智三が
「三令...その...ちょっとキモいわよ...。」
と言う。
僕は構わず、
「じゃあ、行こうか」
と言いながら進み出す。
すると、智三が
「ちょっと待って‼︎」
と言いながら僕の首根っこを引っ張ってくる。
「イテテテテ......どうした?」
「これ見て‼︎」
そう言いながら彼女は僕にMyパネルの画面を見せつけてくる。
画面には現在時刻がでかでかと表示されている。
「時計...?2042年6月10日の...19:48?それがどうしたんだ?」
「ああ、そういえばあなた、察しが悪かったわね。」
「フッ...そろそろ長い付き合いなのだから、覚えてほしいものだ...」
「なんであんたが偉そうにしてるのよ。」
「すみません...」
僕はすぐに謝る。
その速さは光速以上...。
「私たちが結界の中に入ったのは21時よ?」
「あれ...そうだったっけ?」
「もういいわ。とにかく、この結界内は何かがおかしい...それをよく理解した上で進むこと!いい?」
「はい!」
返事の速さもまた、光速以上である...。
――――――――――
2042年6月10日19:48。
時計はもう、使い物にならない...。
「では、行きましょうか。」
僕らはついに準備を整えて、出発する...
とその瞬間、僕の視界が遠ざかる。
「んなっ...これは...⁉︎」
頭が一気に重くなる...が、なんとか耐える。
ここで倒れるのはマズイ...。
その時、どこかから声が聞こえてくる...。
〜「少年...常立一重よ......神術を.........万滅斬を使うんだ...」〜
声はそれだけを伝えて聞こえなくなる。
視界は未だ、遠ざかったままだ。
僕は膝に手を置いて、前屈みになりながら少しだけ休憩する...。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
2042年6月10日19:48。
視界が元に戻る。
そして、頭の重さも改善する。
ふぅ...危なかった...後もう少しで倒れるところだった...。
もし倒れたら2人に迷惑をかけてしまうから、なるべく避けたかったのだ。
「よしっ‼︎では、今度こそ行きましょう‼︎2人......と...も?」
僕が顔を上げると、そこに2人はいなかった。
僕は周囲を見回す。
さっきまでとは異なる場所だ。
三叉路だった道路は、五叉路になっている。
そして、何より...
「善隣門...名称が変わっている...。」
僕は門の柱に書かれた文字を読みながらそう呟く。
何が起こったんだ...?
僕が休憩している間に、一体何が...
「ようやくだね...」
僕の後ろから声が聞こえてくる。
聞き馴染みのある、女性の声...。
でも、なんだか違和感を感じる...。
僕は後ろを振り返り、驚愕する...
「お前は...」
そこには1人の女性がいた。
女性は、
「ようやく出会えたね、廃神...常立一重。私はずっと、君を求めていたんだよ...。」
と不敵に微笑みながらそう言う。
「何をしているんだよ...」
僕の視線の先には...
「豊野二千花‼︎」
彼女の身体があった。
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