第68話 【中華街ノ門】
2042年6月10日21:43。
「これは...なんだ...?」
横浜中華街跡地...その北東に位置する朝陽門にたどり着いた僕と先生たちは唖然とする。
僕らの目の前には、沖縄でも見たあの嫌なモノが広がっていた。
僕らが敏感に反応するその嫌なモノとは...結界だ。
僕らの目の前には今、白く濁って中が見れない結界が展開されていたのだ。
「また、これですか...」
僕はため息をつきながら、結界をよく観察する。
さすがに、沖縄の時のように無闇に手を突っ込む...という過ちは犯さない。
やっぱり、人間は学ぶ生き物だからね...。
僕がそんなことを考えながら結界を観察していると、
「常立、どうする?さすがにいきなり突っ込んでったりしないよな...?」
と香角先生が後ろから問いかけてくる。
どうやら彼も、僕と全く同じことを考えていたようだ。
「さすがにそんなことはしません...。今から、この結界の解析をしてみようと思います。とりあえず、結界内で魔力を使えるかどうかの確認を...」
僕がそう言いながら、結界に右手をかざした瞬間、
「敵......魔物よ‼︎」
と活田先生が叫んで魔物の存在を知らせる。
僕はそれを聞いてすぐに後ろを振り返る。
すると僕の目の前では、すでに武器を創って戦闘準備を終わらせた香角先生と活田先生が道路の奥の方を見つめていた。
僕もつられて道路の奥の方を見つめる。
見えないが、何かがこちらに近づいている気がする...。
次の瞬間、僕らの目の前に青い何かが現れる。
それと同時に、香角先生と活田先生のつけているマントが2人と何かの間で大きく広がり、その何かの動きを止める。
これは、乃々華たちが作った防御系魔道具...まさか、こんなにも早く役立つとは...。
マントが縮むと、そこには1匹の青龍がいた。
「え、また龍⁉︎」
僕は思わずそう驚いてしまう。
しかし、僕の前に立つ2人は全く驚かない...。
むしろ、口元だけ笑っている。
まるで、再び強者と戦えることを喜ぶように...。
「なるほど...では、その青龍はお二方にお任せします。僕が結界を解析する時間を稼いでください。」
「いや、一重...今のオレたちなら、コイツを倒せるぜ...。なあ、そうだろ?」
「ええ、私たちなら余裕よ。1匹の龍ごとき...」
僕のお願いに対して2人は、自分たちでハードルを上げる。
これが死亡フラグにならないといいんだが...
「では、お任せします。」
僕はそう言って結界と向き合い、解析を始める。
それと同時に、僕の背後で2人の先生と青龍による戦闘が始まる。
――――――――――
2042年6月10日20:42。
「はぁ...もう、めんどくさいな...。」
横浜中華街跡地の西にある延平門の真下で、僕...河谷灯也はため息混じりでそう呟く。
僕の目の前には1頭の虎がいる。
しかもこいつはただの虎ではない......
「白虎......か。フッ...無駄なところでこだわるんだな...。」
四神相応...という言葉を聞いたことがある。
東に青龍、西に白虎、南に朱雀、北に玄武を配置してその中の都市を守ると言うものだ。
確か、この横浜中華街にもその考え方が取り入れられていたはずだ。
北東の朝陽門には青龍、西の延平門には白虎、南東の朱雀門には朱雀、北西の玄武門には玄武...
「ここ延平門に白虎がいるということは、おそらく他の門も......となると、こいつらとの戦闘を避けるのは...」
僕がそう独り言を喋っていると、白虎が不機嫌そうに低いうなり声を上げる。
僕はそれを見ながら微笑する...。
「無理そうだな。」
僕がそう言い切るのと同時に、白虎がこちらに向けてとてつもない速さで走ってくる。
僕はそれを冷静に確認すると、掌を上に向けた状態で左腕を前に向かって伸ばす。
白虎は僕を押さえるために、走ってくる勢いで跳ぼうと足を少し曲げる。
あの足が伸び切れば、白虎は跳んで僕を押さえることに成功する......でも、
「ほら、大人しくしなさい...ワンちゃん。」
と僕が言いながらある魔術を使用すると、白虎はその場で崩れ落ちる。
白虎の体は、まるで放り捨てられた人形のように乱れた姿勢で床に伏せている。
僕が白虎に使用した魔術は微風と風だ。
僕は廃神様から...常立一重から魔力を授かってから、この2つの魔術を究め続けてきた...。
理由の1つには、僕が風属性魔術の使用に長けていたからというのもある...。
実際、僕の風属性のステータスは初期でLv.890だった。
とは言っても、属性ステータスは大体、頑張ればカンストも難しくはない...ってくらいだから、Lv.890はそれほどすごくない。
1番大事なのは、このLv.890が初期値だったということだ。
現段階で、属性ステータスの初期値については何もわかっていない。
ただ、僕の風属性のステータスの初期値が他属性のステータスのものと桁違いな理由は必ずあるはず...。
もし、それが単なる運だとしても...僕と風属性魔術にはなんらかの縁がある......そう感じた。
だから僕は、風属性魔術を...中でも、基礎の基礎となる微風と風を究めた。
この2つの魔術でできることは少ない...。
せいぜいできて、空気を移動させるくらいだ。
でも、僕はその空気の移動に注目した。
この世界で、音とは空気の振動によって生まれる。
そして、これは僕の研究でわかったことだが、ある特定の音はそれを聞く者の動きに影響を与えることができる...。
つまり、僕の風属性魔術は他者を操る魔術に変わる!...ということだ。
僕はたったさっき、微風と風で白虎の脳からの命令を遮断させる音の波を発生させた。
だから、白虎は僕の目の前で崩れ落ちたのだ。
「ふぅ...危なかった...。」
僕は深呼吸しながらそう言う。
危なかった...本当に危なかった。
実は僕、この魔術を魔物相手に使ったことがなかったのだ。
今までの研究対象は小動物か自分自身だった...。
一回だけ、実験で自分の右腕が真っ赤になって動かなくなった時は焦ったなぁ...。
結局、回復魔術で治せたからよかったけど...。
僕は白虎を睨む。
そして、作り出したフリゾンソードをその首に向かって容赦なく振り下ろす...。
白虎の血が飛び散ることはなく、離れた頭部と胴体がそれぞれ砂のような粒子になるだけだった...。
僕はそれを確認すると、結界と向かい合うように立つ。
「結界...何が起こるかわからない......あまりやりたくないが、ここは堅実に解析と行こうか...。」
僕はそう言いながら、左手を結界に当てて解析を開始する。
結界の解析が行えるのは、僕と廃神様くらいだ。
この間、町の結界の件で宇地原先輩と須田先輩から聞いて初めて僕はそのことを知った。
どうやら、結界を展開するには、緻密な魔力操作と高度な知識が必要だそうだ。
でも、僕は結界を勘で扱っているから、その気持ちがわからなかった。
魔力の分岐とその衝突とか...魔力周回の簡易化とか...僕はそんな知識を持っていなかった。
僕はただ、勘だけで結界を展開していた。
でもある日、僕はあることに気づいた。
彼と...結界を確実な技術と知識で扱っている廃神様と比べて僕の方が、結界の展開・解析時間が圧倒的に長いということに...。
彼は、結界の技術と知識を全て習得していたのだ。
「はぁ......。んなこと考えても無駄か。」
僕の平均解析時間は30分...。
この結界はおそらく、20分くらいで終わるだろう。
きっと、彼だったらこのくらい...3分で......。
それより、彼は無事なのだろうか...。
僕は彼を案じながら、結界の解析を続ける。
――――――――――
2042年6月10日21:06。
僕...宇地原三令と須田智三は中華街北西の玄武門に辿り着く。
「まったく...『豊野を捜せ!』の次は『白い光の柱に向かえ!』って...今日は忙しいな。」
僕は門の「街華中」と書かれているのを見つめながら、ため息混じりでそう言う。
「豊野ちゃんと町民が危険なんだからそんなこと言ってられないでしょ?」
隣に立っている須田が僕を睨みながらそう言う。
僕は何も言い返すことができない...。
「それよりさ...私たち、この結界の中に入るの?ヤバそうな臭いがプンプンするんだけど...。」
「僕たちは結界の解析ができないから、入るしかないな...。」
「えぇ...結界の破壊はできないの...⁉︎」
「破壊の仕方は結界によって異なるからな...。そのための解析でもあるし。」
「うそぉ...。」
「ってかお前、『豊野ちゃんのため‼︎』っていうのはどうなったんだ?」
「それとこれは別でしょ?」
「いや同じだよ...」
僕と彼女がそんな会話をしていると、辺りにドスドスと重低音が響く。
僕らはすぐに後ろを振り向き、ゆっくりと迫って来る魔物を目で捉える。
おっきな亀におっきな蛇が巻き付いたような見た目のそれは...
「玄武......ああ、だから...」
僕はそう言いながら玄武門をちらと見る。
そして...
「どうする智三?アレを使うか...?」
と彼女に問う。
彼女は、
「え〜...使うの?うーん...」
と言いながら少し悩み、
「分かったわ...。使いましょう、アレを‼︎」
と言う。
僕らの言うアレ...それは昨日の朝、常立たちが出発した後のことだった...
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
2042年6月9日10:00。
「神術を使えるようになりたい‼︎」
そう言いながら須田が僕の部屋に乗り込んできた...。
「いやお前、神術ってそんな簡単に...」
「とりあえず行くよ‼︎」
「はあ!?」
こうして部屋でゆっくりしていた僕は、彼女と訓練場に行くことになった...。
訓練場に着くと彼女は、
「じゃあ、問題。」
と言う。
「なんだ?」
「私たち魔法陣術師は2人でひとつじゃん?」
「ああ、魔法陣の型を作る堅師...そして、魔法陣に魔力を流す流魔師...が必要だったな。」
「そうよ...じゃあ、型師はどうやって型というものを作っているか分かる?」
「うーん...さっぱりわからん。いつも、無意識にやってるからなぁ...。」
僕は型を作るときの動作を思い出しながら、実際に動いて見る。
しかし、型を作る原理のようなものまでは分からない。
確かに、無から型を作っているということは、なんらかの魔術を使っているはずだが...
「ああもう、お手上げだ!答えは何なんだ?」
僕はついに諦めて、彼女に答えを問う。
彼女はそれを聞いて自信満々の顔で、
「それは......熱よ。」
と言う。
「熱?」
「そう、熱よ。」
「根拠は?」
「あるわ。以前、日本全国の調査をしている最中に、子供ドラゴンとの戦闘で私が火傷を負ったことがあったでしょう?」
「ああ、そんなこともあったな...。でも、あれは子供ドラゴンの攻撃によるものだと...」
「調査の後、私の火傷を負った部分の皮膚を切り取って、常立君に魔力型を確認してもらったの。」
「結果は...?」
「そこに付着した魔力はあなたのものだったわ...。」
「なるほど...その戦闘で型師となったのは僕だから...」
「そう、私たちは熱であの細かい魔法陣の型を作っていたのよ。私たちは、ほとんどの魔術を魔法陣でしか使えなくなった代わりに、緻密で火力の高い熱魔術を扱えるようになった...。」
「んで、それと神術に何の関係が...」
「相変わらず察しが悪いわね...。」
「もうこれは生まれつきのものだから、許せ。」
「はぁ...。」
彼女は深くため息をついて、結論を述べる。
「私たちの神術はおそらく、熱にまつわるもの...それだけは確実に言えるわ。そして...」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
2042年6月10日21:09。
僕らは手を繋ぐ。
そして、僕らは握っていない方の手を玄武に向けてまっすぐ伸ばす。
魔法陣術師である僕らが...2人でそれぞれの役割を果たしていた僕らが......今、2人でひとつの役割を...。
僕が...僕らが、全部.........
「「燃やし尽くしてやる」」
もし、「面白い!」と感じて頂けたら『いいね』や『⭐︎』などで応援してもらえるとありがたいです‼︎




