第67話 【手遅レニナル前ニ】
2042年6月10日19:50。
「クソッ...!なんであいつがいなくなるんだ...‼︎」
現在、東京で...いや、日本で唯一安全を保証できる町...その中央にある城の最上階の部屋で僕...河谷灯也はそう叫ぶ。
今からちょうど21時間前、僕は豊野二千花の部屋に彼女がいないことに気づいた。
彼女はその強さから廃神様に町に残るように特別に決められた。
彼女はそれほど強い。
特に彼女は、神術という神をも殺せるほどの術も使える数少ない人間だ。
町の平和は彼女に懸かっていたと言っても過言ではない。
なのに...彼女は消えてしまった...。
僕がこうして頭を抱えていると突然、部屋の扉が開けられる。
僕はその音で下に向けていた顔を上げる。
僕の視線の先には、息を切らして膝に手をついている1人の少年がいた。
一見、幼く見えるが僕と同じ高一の16歳。
黒髪ツーブロックのその少年...五藤富地は息を整えると、喋り出す。
「報告です!関東域内に『白い光の柱』が出現!」
『白い光の柱』......僕はその単語を耳にして、絶望を覚える。
今から1週間ほど前にも、それは現れた。
その時は、廃神様が対処してなんとか町民の全滅を防げた。
でも、今は違う...。
彼もいなければ、豊野もいない...。
「なんで...こ、こんな時に...」
僕は声を震わしながらそう呟く。
「どうしますか...?」
富地が聞いてくる。
廃神様も豊野もいない今、町民を守るために僕らがすべきこと...。
1週間前の事例から考えるに、白い光の柱は恐らく、出現から少し経ってから例の即死の効果を発揮する...というものだろう。
その詳しい時間はわからないが...まあ、もうそんなのどうでもいい。
「富地、豊野の捜索をしている2人...宇地原三令と須田智三にメールを送れ。」
「はい。内容は?」
「豊野二千花の捜索を中断し、白い光の柱の方へ向かえ...と送ってくれ。僕は廃神様にメールを送る。」
僕はそう言いながらMyパネルを展開する。
そして「メール」という項目を押して、彼へのメッセージを入力しようとする
...が、僕はそこで昨日の23:19に彼に送ったメールに既読マークがついていないことに気づく。
彼はこの20時間半もの間、Myパネルでメール確認を行っていないのか...?
僕の中で不安が広がってゆく。
でも、今は白い光の柱の対処だ。
とりあえず今は、彼にメールだけ送って、僕も現場に向かおう。
こうして僕は廃神様...常立一重に、1通のメールを送る。
内容は...『関東にて白い光の柱、出現』だ...。
――――――――――
2042年6月10日20:59。
僕...常立一重が河谷灯也からのメールの内容を読み終えると、場は沈黙に包まれた。
そんな沈黙を破ったのは天然パーマがよく目立つ男...香角刻四だった。
「なあ...それって本当なのか...?勘違いだったりしないのか...?」
「僕にはわかりません......でも、彼が...灯也がそんな間違えをするとは思えません...。」
僕は彼を思い出す。
そもそも彼は、尊敬の対象である僕に対して、表題だけのメールを送ったことがない。
そのことを踏まえても、これは本当の内容であり、かなり緊急の用件であると考えられる。
こうして俯いて思考を巡らせている僕に、ボブヘアの女...活田佳奈四が優しく喋りかけてくる。
「どうする...?常立君。向こうに戻る?」
僕はさらに思考を巡らせる...。
その中でいくつか、最悪の可能性が浮かんでくる。
僕はそのせいで口を動かせないでいた。
体の所々が小さく震え出す...。
その時、
「一重、さっきから大丈夫?一回落ち着きなよ。」
と言いながら、誰かが僕の後ろからポンと肩を叩く。
僕がすぐに後ろを振り向くと、そこには心配そうな顔で僕を見つめる、黒髪ロングヘアを下ろした少女...石川花がいた。
「私、状況はあんまりわかんないけどさ...急いだほうがいいんじゃない?大切な人が危ないんでしょ?」
彼女はそう言いながら僕の手を握る。
彼女の手が温かく感じられた...いや、僕の手が冷えていたのか...。
僕は巡らせていた思考を少しだけ緩める。
確かに...彼女の言う通りだ。
大切な人が危ない...そんな状況で考えごとなんてしていられない!
「ありがとう...花。すべきことがわかったよ...。」
僕は彼女をまっすぐ見つめながらそう言う。
彼女は僕に見つめられるとわずかに顔を赤らめて黙り込んでしまう。
僕は構わず、また後ろに振り返って、香角先生と活田先生の方を見る。
「行こう。豊野を...そして、町の民を救うために...!」
僕がそう言うと、2人は大きく頷く。
あ...そういえば今、敬語忘れてたな...。
なんだか段々、2人を先生ではなく共に戦う仲間として捉えるようになってきている気がする...。
僕はそんなことを頭の隅で考えながら、2人に移動方法の説明を行う。
「町までの移動は虚面世界...略して虚界での高速移動を用います。これを用いれば、1秒もかからず街にたどり着けるはずです。」
僕は2人にそう説明すると、誰もいない空間に右手を伸ばし、
「虚実融合‼︎」
と唱える。
するとそこに、虚界へと繋がるゲートが開く。
ゲートの奥には、地面が黒く平坦で、他の部分が白い空間が無限に広がっていた。
僕はそのゲートの目の前まで進み、振り返る。
「そういえば、花たちはどうする?一緒に向こうに戻るか?」
僕はふと気になって、彼女にそんな質問をする。
彼女はその質問に対し、首を左右に振りながら
「いいえ、私たちはもう少しここに残るわ。一重たちに着いていってもたぶん、足手纏いになるだけだから...」
と返す。
「そうか...じゃあ、ここでお別れだな...。」
「そうね。」
「寂しくないのか?」
「また必ずどこかで会える...そう信じてるもの。」
「そっか...。」
僕と花がそんな会話をしている最中に先生2人は虚界に入って行った。
そして、僕も虚界に入る。
僕は虚界の中からゲートの向こう側にいる花に向かって、
「じゃあな、花。また、どこかで会おう。」
と言いながら手を振る。
彼女は僕に手を振り返しながら、
「うん!またね。」
とだけ言う。
僕はゲートをゆっくり閉じる。
その間、僕と花が何か話すことはなかった。
僕らはただ、手を振り合っていた。
でも最後...ゲートが閉じる直前に、花が流した涙を僕は見逃さなかった。
彼女は...石川花はやっぱり素直じゃない。
「またね」...か。
この件が終わったら......また、彼女と会おう...!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
2042年6月10日21:10。
ゲートを通して僕らは虚界から実面世界...実界へ戻る。
僕らが出たのはいつもの城の最上階の部屋だ。
僕らの目の前には、いつも灯也が使っている席に座りながらMyパネルを高速で操作している少年がいた。
五藤富地だ...。
どうやら彼はこちらの存在に気づいていないようだ。
それほどパネルの操作に神経を注いでいるということか...。
僕はなるべく彼を驚かさないように、話しかける。
「なあ、富地──」
とその時、後ろの扉が突然開き、大量の紙を両手に抱えた誰かが駆け込んでくる。
「お兄ちゃん‼︎あったよ...っとうわああぁ⁉︎」
その誰かは何もないところでつまづき、両手に抱えていた紙を床一面にばら撒く...。
小柄な体のその少女は五藤乃々華...五藤富地と双子の関係だ。
言っておくが、彼女は異次元のドジだ。
僕は、
「大丈夫か...?」
と言いながら紙を拾い上げる。
「ありがとう...って一重兄ちゃんたち⁉︎帰ってたの⁉︎」
彼女は僕の顔を見るとそう驚く...。
そしてそれに反応するように富地が、
「何⁉︎一重、帰ってたのか...⁉︎」
と驚く。
なんだその死んだはずの人を見るような目は...。
僕は一度、ため息をつく。
「まさか、僕が死んだと思ってた...?」
僕がそう尋ねると、2人は何度も首を縦に振った。
「勝手に殺すなよ...」と言いたいところだが、我慢する。
きっと、僕のことをそれだけ心配していたのだろう......うん、絶対そうだ!
「一重、なんでこちらのメールを読まなかった?」
「それなんだけど、沖縄の本島に上陸してから、僕らの魔力が制限されていたんだ。それで、メールを読むことができなかったんだ。心配かけて悪かった...。」
「いや、そうだったのなら仕方がない。それより、状況はどの程度理解しているんだ?」
「豊野が失踪したことと、関東のどこかで白い光の柱が出現したこと...今のところはこの2つだ。ところで、灯也はどこにいるんだ?」
「彼は白い光の柱の所へと向かった。そしてたったさっき、彼がその場所を特定し、メールで送ってきた。...今同じやつを送る。」
富地がそう言って少しMyパネルをいじると、僕の方に1通のメールが届く。
2042年6月10日21:12...今から3分前だ。
差出人は灯也で、内容は...『横浜中華街跡地』という表題だけだ。
横浜中華街跡地...僕が小学生の頃に社会科見学として行ったことがある場所だ。
確か、2025年から一気に廃れたんだっけか...。
観光客が激減した結果生まれたのは、ボロボロの建物だけ...か。
観光客が激減した理由は...あれか...。
「僕らもここに向かった方がいいか?」
「もちろんだ。宇地原先輩と須田先輩も向かっている。」
「じゃあ行くか。2人とも...」
僕がそう言いながら振り返ると、そこに先生2人はいなかった。
おまけに乃々華もいない。
「あれっ...?先生たちと乃々華は?」
「3人はたぶん、アレを取りに行った...。」
「アレ...?」
しばらく待っていると、3人が戻ってくる。
先生2人に特に目立った変化はなかった。
ただ、強いて言うなら、2人は謎のマントをつけている。
でも、フリゾンボディスーツにほぼ同化しているし、それほど長くもない。
「そのマントはなんだ?」
「これはボクたちが1日で作り上げた防御系魔道具だよ。この魔道具を身につけていれば、大抵の攻撃を魔力を流さなくても自動で防いでくれるんだ。」
乃々華がさも当たり前のようにそう説明する。
僕はその言葉に驚かずにはいられなかった。
「魔道具...⁉︎それも、1日で⁉︎」
「まあ、一重が驚くのも仕方がない。俺らは元々、弓の調整を毎日やってたから、魔道具もある程度は作れるんだ。」
富地が僕の驚きに返答するように説明する。
なるほど...そういえば、2人は弓使いだったな...。
僕は彼の説明で納得する。
「ねえねえ常立君、私のマント...似合ってる?」
僕の目の前で活田先生が一回転しながらそう聞いてくる。
「はい、すっごく似合ってますよ。」
僕は素直にそう言う。
すると、横から
「なあ、オレも似合ってるか...?」
と香角先生が恥ずかしそうに聞いてくる。
彼は恥ずかしがると、一人称が「僕」から「オレ」に変わってしまうのか...。
僕はそんなことを頭の隅で考えながら
「香角先生も似合ってますよ。」
と言う。
実際、2人ともよく似合っている...いや、乃々華たちが絶対に似合うように作ったのか...?
僕がそんなくだらないことばかり考えていると、富地が
「一重、少しいいか?」
と言って、部屋の外へ歩きだす。
僕は慌ててそれについていく。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
2042年6月10日21:22。
城内のとある部屋に入る。
部屋の中は鍛冶屋のようだ。
壁にいくつもの剣や盾が立てかけてある。
「こんな部屋があったのか...」
この城は僕が作ったものだが、どの部屋がどのように使われているかまでは知らなかった。
部屋が多すぎるんだよなぁ......僕が作ったんだけど。
もしかしたら、埃まみれの部屋とかもあったりして...。
富地は壁に立てかけられている数本の剣のうち、一本を手に取り、
「一重...これを...」
と言いながら、僕に渡す。
剣か...。
剣だったら、フリゾンソードで十分なんだけど...。
僕がそう言おうとした瞬間、
「これはただの剣ではない。」
と富地が僕の心を読んだかのように解説を始める。
「この剣は、魔力を一切吸収しない。つまり、この剣の中に魔力を通すことはできない。」
「...まさか⁉︎」
「そう、これは一重の神術のために作った剣。魔力を一切吸収しないことによって、放出する魔力量を減らすことができる。」
「なるほど...確かに、フリゾンソードでは放出した魔力をかなり吸われたからな...。この剣なら...もしかしたら...。」
僕は剣を何度か振り、虚実融合で虚界に送り込む。
「ありがとう...富地。向こうで使ってみるよ。」
「ああ、頼んだ。...城門で先生2人が待っている。なるべく早く中華街跡地に向かった方がいいだろう...。」
「そうだな。じゃあ、また...」
「ああ、また...」
僕らは、それだけ言って別れる。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
2042年6月10日21:28。
僕は先生2人が待っている城門に着く。
門のずっと先に白い光の柱が見える...。
「さてと...急ぎましょう!」
「「ああ!」」
僕らはフリゾンの質量操作による飛行で中華街跡地へ向かった。
早くしなければ...
手遅れになる前に──ッ‼︎
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