第65話 【我ガ魔力】
自分より強い相手と戦う時、一般人はどうするか?
武器を使うと言う人が多いだろう。
確かに、ナイフや銃があればどんな相手にも勝てそうだ。
核なら確実に殺れるね!
あとは...逃げると言う選択肢をとる人もいるかもしれない。
逃げることは決して悪いことではない。
それも一つの戦略なのだから...。
え...?
そう言う僕はどうするのかって...?
僕は武器を使わないし、逃げたりもしないよ。
僕が僕より強い相手と戦う時にすること、それは...
「魔術による純粋なバトル...それを楽しむだけだ‼︎」
そう、僕は彼女との...聖人となった石川花との戦いで武器は使わない。
ついでに神術も縛って戦う。
こういう、本気で魔術を使える場面はそれほど多くない。
1回1回を大切にしなきゃだな。
僕はそんなことを考えながら、穴のあいた仮面を捨て、右手の人差し指で聖人を指差す。
すると、指先から小さい風の流れが生まれる。
「まずは、お手並み拝見...ってところかな。僕の魔術にどれだけ耐えれるか...。」
僕はそう呟くと、その指先の風の流れを彼女に向かって一気に伸ばす。
僕が魔力を手に入れて初めて使い、何枚もの建物の壁を貫いた風属性魔術...疾風だ。
初めて使った時とは違って今はより強く、より速く、より静かになっている。
僕の疾風が彼女の目の前まで到達する。
「さて、ダメージはどれくら......」
一瞬、身体中に痛みが走り、視界が真っ黒になる。
しかし、すぐに痛みはおさまり、視界も明るくなる。
そして、僕は気づく。
「条件発動魔術の回復を使ったのか...。ということは、またあの謎の技か...。」
僕は目の前で一切動かない聖人を見ながらそう呟く。
魔人が攻撃した時にも出た謎の技...気づいた時には周囲のあらゆる物に穴があいている...。
「法則性を見つけるのは.........流石に厳しいか。」
僕は1本目の試験管に入ったゼリー状の魔力を飲み込みながら考える。
やはり、基本的な属性魔術じゃ勝てないのかもな...。
でも、後一回だけ試してみるか...。
僕は条件発動魔術を整えながら、次に発動する魔術の準備も行う。
僕はその場で上昇する。
ある程度高くまで上昇すると、僕は右手を空に向けて掲げ広げる。
夜空に輝く星々...それらの光エネルギーに魔力を上乗せすることで放たれる光属性魔術...星光。
これを食らった魔物の体は、その光量に耐えられず、崩壊してしまう。
僕は、掲げた右手を強く握る。
すると、空一面が白い光で埋め尽くされる。
それとほぼ同時に僕の意識が飛ぶ。
すぐに目を覚まし、僕は後方に倒れそうになった体を戻す。
「クソッ...またあの技か...。」
今度は、蘇生と回復の両方を使ったのか...。
彼女の攻撃は強くなっていってる...ってことだな。
でも、これで分かったことがある。
彼女に危害が加えられた時に、例の技が発動する。
これで戦略は2つに絞られた。
彼女の例の技を限界まで使わせて隙を狙うか、技が発動しないように一撃で仕留めるか...その2つしかない!
でも、例の技を限界まで使わせるのは難しい...。
彼女の限界を僕はまだ知らないからだ。
そもそも、聖人である彼女に限界があるのかすら怪しい...。
よって、僕が次にすべきことは...
「一撃で仕留める...これしかない‼︎」
僕は試験管5本分の魔力を一気に飲み干し、条件発動魔術を再び整える。
これで、魔力のストックは試験管4本分...。
ここで決めなければ、敗北も同然。
その時は神術を使うしかない...。
「ふぅ...」
僕は深呼吸をして右掌を彼女に向けて広げる。
すると、僕の右掌のすぐ前に六つの球が現れる。
火球...氷球...雷球...風球...光球...闇球...。
それらの球はそれぞれ独立している。
だが、僕はこれらを空中で混ぜ合わせる。
属性には相反するものがある。
火と氷...雷と風...光と闇......これらの属性の組み合わせは相反しており、これらを混ぜ合わせることはその特性を潰すことにつながる。
だから、普通は六つの属性を全て混ぜようなんて考えたりしない。
でも残念、僕は普通じゃないんだ...聖人に武器と神術を縛って戦うほどにね...。
僕は考えた...属性の特性を生かしたまま、混ぜる方法を...。
答えは単純だった...。
相反する属性が混ざらないように混ぜる...これが答えだ。
火には雷・風・光・闇を、雷には火・氷・光・闇を混ぜるって感じでね...。
このように混ぜ、さらにそれを維持し続けられるようにするにはとてつもなく緻密な制御が必要だ。
例えるなら、数百桁の掛け算を筆算のみでミスなく行うほど難しい。
常人では、こんなことできない。
でも、僕が魔力の分野においてできなかったことなどない。
僕は魔力をよく理解しており、魔力を自分の思うままに使ってきた。
「ふぅ...僕なら.........やれる。」
僕は右手に全意識を集中させる。
味覚...嗅覚...聴覚......これらをシャットアウトし、視覚と魔力制御に全てを注ぐ...。
目が乾く...でも、瞬きなどしていられない。
涎が垂れる...でも、飲み込んでなどいられない。
今はただ、目の前のこいつに...
「......できた!」
僕の右掌の前には、テニスボールくらいの大きさの一つの球が出来上がっていた。
色は信じられないほど黒い。
黒すぎて、まるでそこに何もないかと思うほどだ。
強いて名付けるなら、ドイツ語の黒からとって黒魔球...といったところだろうか。
性能としては、神術程度の衝撃を小範囲で与えられる...くらいだと予想している。
僕は黒魔球を右掌の前で維持しながら、地面へと下降する。
地面に着地した僕は聖人をまっすぐに見つめる。
彼女は僕の右掌を見ると、一瞬驚いた顔を見せるが、その後すぐに微笑む。
彼女から攻撃してくることはない。
つまり、全ては黒魔球次第...ってことか。
「よし.........行こう」
次の瞬間、僕は彼女の懐に入る。
僕の右掌の黒魔球は、彼女の腹を凹ませるほど強く押し込まれている。
そしてまた次の瞬間には、僕の右腕と彼女の腹部が消し飛んでいた。
勝った‼︎
そしてさらにそう思った次の瞬間、僕の触覚以外の感覚が消え失せていた。
視覚・聴覚・嗅覚......全て使えない...。
反撃されたのか⁉︎
腹部を消し飛ばしたのに⁉︎
そう考えながら僕は後ろに後ずさる。
当然、自分と彼女が今どこにいるかさっぱりわからない。
早く......まずは回復魔術を...
「リカバ...ごぶぇふぅ⁉︎」
僕が回復魔術を使おうとするのと同時に、僕の腹を触手のようなものが貫き、僕は思わず血を吐いてしまう。
触手で...腹を.........貫かれた⁉︎
僕の脳みそは情報の処理だけでいっぱいいっぱいだ。
だめだ...勝てそうにない......。
もう、神術を使うしか...。
触手で貫かれたら...もう...。
いや待て...触手......貫く......
「フハハハハハ...!そうだ......それができたな...‼︎」
僕は満面の笑みを浮かべながらそう叫ぶ。
僕は、目だけを回復して目の前にいる彼女を見つめる。
彼女の金色の髪の一部がまとまって、僕の腹を貫いている。
僕が触手だと思っていたのは、彼女の髪だったわけだ。
僕は状況を簡単に確認し終わると、穴があきながらも残っている左腕を真上に掲げ、それを少しだけ握る。
すると、僕の腹を貫いていた彼女の髪が引っ込む。
直後、彼女は何かに苦しめららているように呻き声を上げ出す。
僕はそんな彼女を見て、
「やはりそうか......お前は、我が魔力の奴隷だッ──‼︎」
と言いながら左手を一気に閉じる。
すると、彼女の身体中から無数の漆黒のトゲが突き出る。
それと共に、彼女の血が宙を舞う。
満月に照らされたそれは美しい紅に光り輝く。
僕がギリギリで思いついた作戦...それは、魔力武闘会で僕の分身にも使わせたものだ。
相手の体内に僕の魔力を流し、それをフリゾンにして操ることで攻撃をする...。
今回、彼女は...花は僕の魔力を与えたことで聖人になった...つまり、彼女の体にはずっと僕の魔力が流れていたということだ。
きっと、彼女の体内から僕の魔力がなくなれば元の人間に戻るというシステムだろう。
彼女は例の謎の技をもう使わない。
いや、使えないのか...。
彼女の髪の金色は段々と黒色に戻ってゆく...。
その後、彼女は少しフラフラとすると、いきなり後ろに倒れそうになる。
僕はそれをギリギリで支える。
彼女の腹部にはまだ、大きな穴がぽっかりとあいている。
全身にも小さな穴がいくつか...。
これは回復してやらないとな...。
とりあえず僕は彼女をお姫様抱っこで、折れずに残っている木の下まで運ぶ。
僕が地面に彼女を寝かせようとした瞬間、
「う...うぅ......ひと...え...?いた......い...よ。」
と彼女が目をうっすらと開けて寝言のように呟く。
それと同時に、彼女の頬に涙が流れる。
彼女の瞳は黒色に戻っている。
僕は彼女の頬を伝う涙を優しく拭いながら
「花、お前は頑張りすぎた...。少し、休むがいい...。」
と話しかける。
彼女はそれを聞くと、口元だけ微笑みながら瞳を閉じる。
僕は僕自身と彼女の傷を回復で癒す。
満月の光は僕らを、優しく包み込むように照らしている...。
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