第64話 【聖ト魔ノ宴】
彼は...一重は指をパチンッと鳴らし、魔人の四肢を謎の黒い物体の鎖で封じる。
一瞬だった...。
私では絶対に勝てない相手を、一瞬で...。
「やはり、お前は結界で吸収した魔力を自身の体に受け入れていたのだな...。」
「くっ...貴様......何をした...?」
「簡単な話だ。お前が受け入れられる魔力には当然、限界がある。それを超える魔力を放出したまでだ。丸一日分の魔力を...だ。」
まさか...彼はずっと準備していたのか...?
私たちと出会った時も...湖で寝ている時も...私の鍛錬を見た時も...ここまで歩いてきた時も...ずっと。
「さて...そろそろ終わらせるか...。」
「お、おい待て。少し待ってくれ!魔人についてもう少し教えてや...」
「黙れ。我は魔人がくだらない存在だとわかっただけで十分だ。だが、ここで我が手を下すのはあまりにもつまらないな...。」
そう言いながら、一重はこちらを見てくる。
そして、彼は軽くにやけると、こちらに歩いてくる。
私は彼の雰囲気に押されて、尻餅をついてしまう。
彼は私の目の前に来ると、その場で屈み、私と目を合わせる。
彼の瞳は黒い。
でも、その黒からは誇りのようなものを感じられた。
「貴様、我を置いて一体何を...」
「黙れ」
「...。」
一重の言葉で魔人は黙り込んでしまう。
一重は改めて私の目を見て、右手を私と彼の間で広げる。
すると、彼の右掌の上に何かが現れる。
その何かは形を整えて、球体になる。
やがて、その球体は一滴の雫となる。
彼は、その雫のついた人差し指を私の口に近づけ、こう言う。
「力が欲しいか?」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
今から3年前、私はある人に救われた。
ゲーム内での話だ。
でも、そのある人は私を大きく動かした。
その頃、ゲーム内では五種の越格を狙う者が増えていた。
私もそのうちの1人で、五種の越格の一つである『魔界天王』を狙っていた。
当時、もうすでに5人のプレイヤーが特別な条件を満たして五種の越格を手に入れていた。
その時点で、五種の越格を手に入れる方法は一つ...すでに手に入れたプレイヤーから奪う...それだけとなった。
私の狙っていた『魔界天王』の越格は始め、最も多くのプレイヤーを狩ったPKに与えられた。
つまり、私が『魔界天王』の越格を手に入れるには、ゲーム内最強のPKに勝利しなければならなかった...ということだ。
私はろくに準備もしないまま、最強PKに挑みに行った。
より強いプレイヤーが越格を奪うのを防ぐためだ。
私は最強PKの前に立った。
彼は私をつまらなそうに見つめながら、インベントリから剣を一本取り出して左手でそれを持った。
そして、いきなりこちらに向かって走り出した...が、私はそれをなんとか目で捉えて彼の攻撃を防いだ。
ギリギリだった...だが、私にとっては最強PKの攻撃を防げたことのが重要だった。
勝てる......そう少しでも思った。
私の繰り出す攻撃は彼に簡単にいなされてしまう。
対して私は、奇跡的に彼の攻撃を全て避けていた。
そしてそんな戦いの中、私はついに彼に攻撃を当てた......と同時に、私の体力ゲージはほぼ空っぽになった。
体が動かせない...。
束縛...毒...スキル封印...弱体化......
気づけば私には数え切れないほどのデバフがかけられていた。
私の目の前には、二本の剣を両手に持っている最強PKがいた。
双剣士...二本の剣を使い、奇想天外な動きで敵を翻弄し、戦う職業。
当時、ゲーム内ではその操作難易度の高さからわざわざ選ぶプレイヤーは少なかった。
だが、彼はその少ないうちの1人だったのだ。
私と戦っている時、彼は全力の10%...いや、1%も出していなかった。
彼は、二本目の剣とスキル使用を縛って私と互角に戦っていたのだ。
格が違う...。
まさに、越格。
私が挑んでいいような相手ではなかった。
最強PKは私の目の前まで来て、右手に持った剣を大きく振り上げた。
私は、キルされるのを覚悟した。
しかし、その時
「弱い者いじめは良くないよ...魔界天王さん。」
と言う声と共に高い金属音が鳴った。
私とPKの間にもう1人のプレイヤーがいた。
PKは、
「廃神......君か。」
と言いながら、武器をしまう。
廃神...これも五種の越格の一つだ。
私の目の前に...五種の越格が二つも...⁉︎
私の、プレイヤーを操作する体は恐怖で震えていた。
「廃神...君と戦うのは、不本意だ。僕はここで失礼するよ。」
「あれ...そう?じゃあ、またねー。」
その場を逃げるように去って行く魔界天王を廃神は、手を振りながら見つめた。
「さてと...災難だったね、君。彼に絡まれるなんて...。」
「違う...。私が戦いを挑んだの。」
私は必死に否定した。
同情されるのが嫌だったからだ。
「ほう...。つまり、君はわざわざ彼と戦ってキルされそうになった...と。」
彼は私を面白そうに見つめながら右手を前に出し、そして...
「力が欲しいか?」
そう言ったのだ。
その後、私は廃神によって鍛え上げられた。
私は強くなった。
だが、私はある時、そのゲームを辞めた。
現実で2人の友人ができたのだ。
髙橋愛莉と田中恵理...彼女らに出会ってから、私はそのゲームを遊ばなくなった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
私は全てを思い出す...。
PKから私を救ってくれた者を...。
私を鍛え上げ、強くしてくれた者を...。
私を...変えてくれた者を...。
その名は、//廃神-Hitoe//...。
本来、三種しか作られなかったはずの越格を、その桁違いの強さで五種に増やしたプレイヤー...。
//廃神-Hitoe//と、常立一重の言葉が重なる...。
「力が欲しいか?」...か。
私は鎖で四肢を封じられた魔人を見ながら、愛莉と恵理を思い浮かべる。
私の中で、何かが込み上げる...。
2人を殺したこの魔人を、私は...
「殺したい」
私は口を開き、一重の人差し指をそこに収める...。
――――――――――
花が僕の人差し指を咥える...。
彼女は一滴に濃縮された僕の膨大な魔力を舐め、それを飲み込む。
次の瞬間、彼女が金色に光りだす。
彼女の黒い瞳も、黒いロングヘアも、金色に光り輝く。
そして彼女は突然、僕の人差し指を噛みちぎる。
「うわっ⁉︎お行儀悪いな...。」
僕はそう言いながら上に上昇して避難し、落ち着いて人差し指を治す。
人差し指を直し終わった僕は再び、彼女を見る。
金色のロングヘアは、何かの力を受けるようにフワフワと上下している。
「金色で何かの力......聖なる力...とかか?だとすると、彼女は聖人と呼ぶべきか...」
僕は顎に手を当てながら考察した内容をブツブツと呟く。
すると、
「おい!助けてくれ‼︎このままじゃ、殺されてしまう!」
と言う魔人の声が聞こえてくる。
「なんだよもぅ...僕の考察を邪魔しないで......あ、そうだ‼︎せっかくだし、実験しようか。ちょうどいいくらいの実験動物もいるし!」
「実験動物って...うおゎ⁉︎」
僕が指を鳴らすと、魔人を拘束していた鎖が解け、聖人と魔人だけを囲むような結界ができる。
「実験動物くん、君が勝てたら君を助けてあげるよ。だから、本気で戦ってみてね!」
僕は結界内の魔人に向かってそう言う。
魔人はそれを聞くと、すぐに聖人に魔術で攻撃を仕掛ける。
そして、魔人の魔術が聖人に当たろうとした瞬間、視界がボヤける。
次の瞬間、とてつもない痛みが身体中を貫く。
僕の右目には、穴だらけで動かなくなった魔人と簡単に崩れる結界が映っている。
僕の左目には、何も映らない。
どうやら、左目を潰されたようだ。
それ以外にも、体全体に穴の空いた箇所...か。
僕はすぐにそれらの傷を回復する。
僕はどうやら、彼女を...聖人を舐め過ぎていたようだ。
僕は地面へと下降しながら、条件発動魔術を2つ使う。
回復と蘇生...条件はそれぞれ、僕の負傷と死亡だ。
消費魔力量があまりにも多いが、それは以前のようにゼリー状の魔力を使ってどうにかしよう。
幸い、試験管10本分の魔力は用意してある。
僕は彼女を見つめる。
「聖と魔の宴...か。それも悪くないな...。」
僕はそう呟きながら、笑みをこぼす。
「さあ、戦おう...聖人‼︎我に...お前の本気を見せてみよ!」
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