第62話 【答エ合ワセ】
彼の...常立一重の目は今この瞬間に、初めて本当の私を見た。
彼のその目からは、怒りを感じられた。
ああ、また怒られる...。
何を怠けたことを言っているんだ...と。
何か役に立ってからそう言え...と。
全部、私が悪い。
私が、役立たずだから...
「好きにしろ」
「えっ...⁉︎」
私は彼の言葉を信じられなかった。
彼の、適当で...でも、決して否定はしない...その言葉が...。
「い...今、なんて...?」
「だから、君の好きにしろって言ったんだよ。君が見捨てられたいんなら...ね。」
「...。」
「君、1人で抱え込んじゃうタイプでしょ。懐かしいな...。」
彼は何かを思い出すように微笑む。
そして続ける。
「苦しかったら、『助けて』って言ってもいいんだよ?別に絶対にそうしろとは言わないけど...。それに、」
「それに...?」
「生きて苦しむか...死んで苦しむか...。君はきっと、死んでも苦しみを味わうだろう。」
「なんでそんなことが...」
「君は昔の僕によく似ている...。だから、君のことがよく解るんだよ...。」
彼の瞳の黒がとんでもなく暗く見える...。
まさか...彼が味わった苦しみは......。
「まあ、結局最後に決めるのは君だ。僕にそれを決める権利はないからね...。」
彼はそう言いながら私に背を向け、続けて
「ただこれ以上、君が僕と同じ道を歩まないことを祈るよ...。」
と言いながら、立ち去っていく。
最後に決めるのは.........私。
周囲はすっかり、明るくなっていた。
――――――――――
森の中を歩きながら僕は反省会をする。
少し、そっけなさすぎただろうか...。
それとも、詰め寄りすぎただろうか...。
そんな後悔ばかりが、ただ積もっていく。
「まあ...いいか!」
僕はそう呟く。
考えすぎても仕方がない。
あの言葉に対する返答として、完全な正解はない。
でも、それを少しでも正解に近づけることはできる。
「全てはここから......ってわけだ。」
僕はそう呟きながら、先生たちのいるところへ向かう。
それにしても、やはり暑い...。
早く結界を壊さないとな...。
元の場所に戻ると、愛莉と恵理が出発の準備をしていた。
特に荷物のない先生2人は、木陰でくつろいでいる。
香角先生は僕を見ると、
「おお、無事でよかった...。一体どこ行ってたんだ?」
と軽く言ってくる。
「森の中を散歩していたら、花が鍛錬をしているところを見かけたんです。」
「なるほど...花って言うと、豊野と戦った相手か。」
「そうですね...。結果的に彼女たちとも仲間になれたので、魔力武闘会は開催して正解だったようですね...。」
「本当に人生、何があるかわからないな...。」
香角先生が決め台詞っぽく呟く。
その時、花が戻ってくる。
見た感じ、彼女はもうすでに準備を済ましていたらしい。
愛莉と恵理も準備完了だ。
「では、出発しよう...。」
ここから約5時間......長くなりそうだ...。
こうして僕ら6人は結界の端に向かうことになった...
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
なんだ...?
何が起こったんだ...?
僕らは6人で結界の端へ向かっていたはずだ...。
気づけば、2人...愛莉と恵理がいなくなっていた。
いや、違う。
彼女らは吹き飛ばされたんだ...。
今頃、どこかしらの木に当たっているだろう...。
そして、2人を吹き飛ばしたのは...
「君かい?」
「何のことだ...?」
僕は目の前に立っている人を睨みながら、そう問う。
いや、こいつは人ではない...。
全身が栄養を失ったように黒ずんでおり、過度に痩せ細ったその身体...。
「君、魔人だな...。」
「なっ...⁉︎魔人⁉︎」
香角先生が驚く。
活田先生と花も動揺している。
やはり、僕以外の3人はついてこれていないようだ...。
そんなことを考えていると、魔人が左手を前に出して
「お見事だ、人間。」
とだけ言う。
すると、奴の左手から細長い何かが飛び出る。
僕はそれを魔力なしでなんとか避けきる。
しかし、香角先生と活田先生はそれに当たってしまう。
次の瞬間、2人は細長い何かと共に、クネクネと上昇して飛んでいく。
なるほど、あの細長いのは龍だったのか...。
「2人は、その龍の相手をしてください!」
僕はできる限り遠くまで響くようにそう叫ぶ。
返事は聞こえなかったが...まあ、大丈夫だろう。
それより...
「君の方が面倒くさそうだね...。」
「怪我をしておきながら、よくそんなことが言えるな...人間。」
「ああ...この腹部の?これは致命傷にはならないから大丈夫。それよりさ...」
「なんだ?」
「魔人についての知識...答え合わせさせてくれない?」
僕は興味津々で魔人にたずねる。
後ろにいる花から、「何をしているの?」と言う視線を感じる...。
「フッ......何を言い出すかと思えば...。いいだろう。どうせ最後だ、教えてやる。」
「ありがとう。じゃあ、まずは...魔人は魔力の暴走で生まれる...この解釈は間違っていないね?」
「ああ。」
「だったら、動物の魔力暴走で生まれる魔物、そして人間の魔力暴走で生まれる魔人は似た存在ってことか。」
僕は顎に手を当てながら独り言を呟く。
花は動かない...いや、動けないの方が正しいかな?
「...これで十分か?」
「うーん...そうだなぁ...。じゃあ、あともう一つだけ...」
僕は魔人をまっすぐ見つめ、ゆっくりと呟く。
「君の最強の術を僕にぶつけてくれ」
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