第61話 【見捨テテ】
僕は先生たちが動くよりも先に、背後の女を突き放す。
彼女はいとも簡単に倒れてしまう。
先生たちはすぐに彼女を拘束しようとするが、
「2人とも、ちょっと待ってください」
と僕が言うと、すぐに止まる。
僕の腹部からはまだ、魔道具のナイフが突き出ている。
僕は背中からそのナイフを引き抜く。
患部からの出血はほとんどない。
しかし、痛いものは痛い...。
「クソッ...回復魔術の使えないこのタイミングで.........ん?」
僕は近くの木の陰に隠れている何者かに気づく。
「そこに隠れているのは誰だ?」
「2人とも、逃げて‼︎」
僕の問いかけの直後、僕の目の前で倒れているロングヘアを下ろした女...石川花がそう叫ぶ。
しかし、その叫びも虚しく木の陰から2人の女が出てくる。
ポニーテールヘアの髙橋愛莉...そして、ショートヘアの田中恵理だ。
石川花も含め3人とも、魔力武闘会トーナメントに進出した選手だ。
「君ら、ここで何をしているの?」
僕は平然を装いながらそう問う。
3人がトーナメント進出者じゃなければ、問答無用で拘束していた。
ただ、今目の前にいる3人は特別だ。
「ん?君たちって確か、トーナメントに出てた...」
「ち、ちがうんです!こちらは全然、殺すつもりなど...」
香角先生が3人の正体に今更気づく......と同時に、なぜか髙橋が焦って否定する。
「殺すつもりは...って、魔道具使っておいてよくそんなことが言えるね...。」
「それは...。」
僕の言葉で彼女は黙り込んでしまう。
「まあ、いいや。石川、」
「えっ...⁉︎なんで私の名を知ってるの...?」
「そりゃあ、トーナメント出場者だから...。今や有名人だよ。」
「そ、そうか...」
「それで、僕らと協力しないか?」
「協力、ね...。具体的にはどうするの?」
「結界の破壊...それが最優先事項だ。そのために...それを使う。」
僕は魔道具を指差しながらそう言う。
「この魔道具を使うの?」
「ああ。結界を破壊するには、結界かその作成者を攻撃して魔術を邪魔すればいい。そして、現段階の最強の攻撃手段はその魔道具だ。」
「なるほど...つまり、この魔道具で結界か作成者のどちらかを攻撃すればいいんだな?」
「そゆこと。この広い島の中から作成者を探すのは大変だから、とりあえず結界の端に向かおう。」
そう言って、僕が歩き出そうとした時、
「おい待て、もう移動するのか?」
と彼女が聞いてくる。
「休みたいのか?」
「できればそうしたいね...。」
と言うことで、僕らはたまたま見つけた湖の近くで野宿をすることになったのだ...。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
目が覚める。
僕は地面で寝ていたようだ。
僕の隣では香角先生がいびきをかきながら寝ている。
そして、活田先生と髙橋と田中は近くの木に寄りかかりながら寝ている。
石川はどこへ行ったのだろう...?
僕は彼女を探すために少し散歩をする。
5分ほど歩いて、僕は彼女を見つける。
森の中でただ、突っ立っているだけの彼女を...。
「何をしているんだい?石川。」
「...⁉︎」
僕が話しかけると、すぐに彼女がこちらを確認する。
彼女は僕の顔を見ると、安心したようにため息をつく。
「あなた、人の鍛錬の邪魔をしたという自覚はある?」
「ごめん...。でも、あれって鍛錬してたの?」
「魔力量の少ない私にとって敵の察知は魔力なしで行うしかない...だから、こうやって毎日鍛えているのよ。」
そうだったのか...。
てっきり、立ったまま寝ていたのかと...。
「なあ、石川...」
「花、でいいわ。他の2人も下の呼び方の方が短いでしょ?」
「えぇっと...じゃあ、花。」
「何...?」
「君は2人とどう言う関係なんだい?あと、どうやってここまでたどり着いた?」
「あの2人は私の元同級生よ。特に仲が良かったわけではないけれど...。」
彼女は昔のことを思い出すように話す。
そうか...彼女らの接点は学校...か。
「それで、どうやってここにたどり着いたのかだけど、まず、私たちの当初の目的はここの白い柱の調査よ。」
やっぱりそうか...。
いや、今それ以外の理由でここを訪れる奴はいないか...。
「私たちはあの柱出現の翌日、東京の城下町をすぐに出て、まずは徒歩で九州に向かったわ...。」
「徒歩⁉︎」
僕はその意外な移動手段に思わず驚く。
でも、今の魔力に対する技術と知識なら、それが限界か...。
「そんなに驚くことかしら...?」
「確かに...。っていうか、花たちはどうやって海を渡ったんだ?」
僕はそんなことを聞いてみる。
案外、僕が知らない方法で海を渡ってたり...
「それが...私たちが九州に着いた頃、海が凍っていたのよ。」
「あっ...」
僕はあることを思い出す。
花さん、その氷...僕が作りました。
そういえば、消してなかったな...。
日中に全部溶けてくれるといいが...。
じゃあ、花たちが沖縄に着いたのは僕らの後ってことか。
ようやく状況の整理が済む。
その時、周囲がじわじわと明るくなる。
日の出だ。
「もう朝か...」
僕は湖の近くに戻ろうとする。
とその時、
「ねえ、ちょっと待って。」
と花の呼ぶ声がする。
僕は嫌々、彼女を見る。
「何?まだ言い残したことでもあったの?」
「いや...そう言うわけじゃなくて、その......」
彼女にしては珍しく、歯切れが悪い。
「もし...何かが私の身に起こったら、見捨てていいから......こんな魔力量の少ない奴なんか...」
彼女は隠すように小声でそう言う。
しかし、その言葉は僕にハッキリと聞こえた。
そして、その言葉は僕にとって...。
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