第60話 【僕ハ知ッテイル】
「嘘だろ...」
僕は結界にゆっくりと近づきながらそう呟く。
僕の心の中は絶望に近い不安で満たされていた。
もしこれが外からの侵入を妨害する結界だったら...。
もしかしたら、僕たちの10時間半の移動(ほぼ昼寝)が無駄になってしまうかもしれない...。
と思いながら結界に触れてみる。
「...ん?入れる...。」
僕の腕はすんなり結界の中へと侵入していく。
良かった...僕の考えた最悪の可能性は避けられた...。
と思いながら結界から腕を抜こうとすると、
「あれ?抜けない...。」
抜けない。
全く動く気配がしない。
もしかしてこの結界、一方通行なのか...?
だったら...
「仕方ないですね...もう、思い切って入っちゃいましょう!」
そう言いながら僕が後ろを振り向くと、そこには明らかに嫌そうな顔をした先生2人がいた。
え、なんで?
もう出れないんだから入るしかないでしょ?
「なんでそんな嫌そうな顔してるんですか?」
「いや...だって、結界に一生閉じ込められる可能性だってあるわけじゃん...?」
僕の質問に香角先生が答える。
僕はもうほぼ閉じ込められているんだが...。
あー...なんだかめんどくさくなってきた...
「もういい!入る‼︎」
僕は思い切ってそう言いながら、結界内に全身を入れる。
そんな僕を見て2人は、ため息をつきながら同じく結界内に侵入する。
結界内は外と同じ程度、暗い。
まあ、今は夜だからあんまり変わらないか...。
「結局、結界の効果は閉じ込めるだけ......ん?」
僕はその時、あることに気づく。
見に纏っていたフリゾンボディスーツが溶けている。
僕はふと、気になって適当な魔術を発動しようとする......が、発動できない。
「なるほど...魔力を使おうとするとすぐに吸収する......これがこの結界の効果か。」
幸い、ボディスーツの下には魔力を使わない『フリクロ』の服を着ているので、素っ裸で野宿...と言う最悪のケースは避けられた。
「それで...一方通行の結界内に入って、魔力が使えなくなったけど...次はどうするんだ?」
香角先生が呆れたようにそう言う。
「とりあえず、結界の中心である内陸に向かって歩きましょう...。」
「何か策はあるのか?」
「行動しなければ、策は見つけられませんから...。」
「確かに...そうだな。」
香角先生は納得したように頷く。
策はない...。
でも、絶対に策を見つけてここから出てやる...!
豊野との約束を...無事に帰るという約束を果たすんだ!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ただ、ひたすらに森の中を進んでいく。
森の中に月の光は届かない。
魔力が使えないから光魔術で照らすこともできない。
おかげで視界は真っ暗だ。
まあ、それだけなら良かったのだが...
「暑い...」
僕はそう呟きながら頬を垂れる無数の汗の雫をぬぐう。
暑い!とにかく暑い!
汗が止まらない...。
魔力が使えれば、氷魔術で温度調節できたのに‼︎
僕はそんなことを考えながらただ、ボーッとしながら歩き続ける。
「そういえば、Myパネルの展開ができなくなってるのね...。」
ふと活田先生がそう呟く。
「えっ...うわっ、本当じゃん...」
どうやら香角先生は今更気がついたようだ。
「Myパネルは魔力を発光させることでできるので、魔力の使えないここでは展開できないのでしょうね。」
僕はそう2人に説明する。
魔力についての研究は僕が1番力を入れてきたことだ。
でも、こんな場面でそれが生かされるとは...。
っていうか、Myパネルが展開できないんじゃ、外部との連絡が取れないな...。
もし万が一のことが東京で起こったら...。
いや、魔力が使えないと虚実融合による高速移動で帰還できないから、連絡だけ取れてもあれか...。
やはり、結界は早めに壊さなければ...。
そんなことを考えていると、香角先生が話しかけてくる。
「なあ、常立。」
「はい?...なんですか?」
「もし今、魔物と遭遇したらどうするんだ?」
「その時は......逃げるしかないでしょう。」
「逃げるのか?僕と活田さんは一応武器を持っているんだが...」
「その武器、創造魔術で創ったものですよね?」
「ああ、そうだ。」
「それでは、魔物に傷一つつけられません。今、生きる生物は人間を含み、魔力無しの攻撃が効かないんです。ですから、その武器は死んだ動物の肉を切るくらいしかもう使い道はありません。」
「へ...へぇ...」
なんだか香角先生が落ち込んでいる気がするが、無視しよう。
「せめて、魔道具があれば...。」
「魔道具?」
僕の呟きに活田先生が気づき、そう質問してくる。
「僕ら人間から魔力を一時的に流す普通の武器に対して、魔道具は魔力がその中をループし続けるんです。主な用途としては、元の魔力量が少ない人が自衛用に使う...とかですかね。」
「だったらなんで、あんまり普及していないの?聞いている感じ、結構便利そうだけど...」
「魔道具を作れる職人が少ないんですよ。僕も作ろうとしましたけど、魔力のループ構造のところで断念しました。大量の魔力を単一の魔道具内でループさせるのは至難の業です。それに...」
「それに...?」
「魔道具はそのループ構造のせいで、少し脆くなってしまうんですよ。せいぜい、5回魔物を切る程度が限界でしょう。」
沈黙が走る。
僕はその沈黙を破るように、喋る。
「まあ結局、持ってないんで意味ないんですけ──」
その時、腹部が突然熱くなる。
暑いではない...熱いだ‼︎
僕はすぐに腹部を見る。
すると僕の腹部から、真っ赤に染まった鋭い刃が突き出ていた。
刺された⁉︎
僕はそう考えるのと同時に後ろを見る。
僕の背後には、僕の背中に魔道具のナイフを深々と刺した女がいた。
彼女を僕は知っている。
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