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この世界の廃神様 第一神実  作者: ZAB
第二章 〜《魔力武闘会》〜
56/82

閑 話 【If he went to another world…】

 白い光に包まれる...。

 これは...またあの赤い装束の男か?

 いや、違う。

 風と...花の香りを感じる。


 「うぅ...眩しっ」


 やがて白い光は消え、僕の目の前にだだっ広い草原が広がる。


 「えぇっと...」


 僕は見覚えのない景色に困惑しつつ、状況を整理する。

 そうして、一つの疑問にたどり着く。


 「ここはどこ?」


 どうやら、僕...常立一重は見知らぬ土地に飛ばされてしまったようだ...。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 「ふ〜ん...なるほどねぇ...」


 僕は近くに都合よくあった木に登り、周囲を見渡す。

 これによって分かったことが1つある。

 ここは日本...いや、地球ですらないな。

 その根拠として、遥か上空では青い太陽が光り輝いている。


 「ってことは、僕は異世界に来ちゃったってこと?まあ、魔力を手に入れる前はこれを望んでたけども......今はなぁ...元の世界でやり残したこともあるし...。」


 僕は状況を理解し、悩む。

 異世界で遊びたい僕と、元の世界でやり残したことやりたい僕が喧嘩をしている。

 よし、決めた!


 「元の世界に帰る方法を探りながら、異世界で遊ぼう!」


 その時、木の下を3人の人間が通る。

 パッと見た感じ、男2人に女1人だ。

 男は青髪(せいはつ)緑髪(りょくはつ)で、どちらも赤色の隊服を身につけている。

 女は向日葵(ひまわり)色の髪で赤色の隊服の上に肩かけマントを身につけている。

 僕が3人の顔を見ようと下を覗くと...青髪の男が


 「...誰かいるな?」


 と言いながら、僕と目を合わせてきた。

 マズイ‼︎

 その時、ちょうど僕の手が滑って地面に突っ込む。


 「いてて...マズイな、これはミスっ......たなぁ...」


 僕がそう言いながら顔を上げると、さっきの3人が僕のことを魔物を見るような目で睨んでくる。

 本当にマズイ‼︎

 このままじゃ殺されちゃう......いや、それはないか。

 ただ、異世界でも変に目立ちたくはないからな...。

 ここは...


 「あはは...良い景色が見たくて木に登ってたら幹が折れちゃって...」


 そう言いながら僕はフリゾンで作った木の幹を出す。

 もちろん、本物の幹ではない。


 「もうちょっと、減量しなきゃだなぁ...あはは...」


 僕がそこまで言うと、男2人がどこからともなく剣を出し、僕の首に近づける。


 「貴様...死にたいのか?」


 青髪の男が言う。

 あー、これマジでマジのヤバいやつ...。

 機嫌を取らなきゃ戦闘始まっちゃうって!

 その時、彼らの後ろから


 「2人とも、やめなさい。彼はひどく困惑しているわ。おそらく、何か事情があるのよ。」


 と言う女の声が聞こえてくる。

 さっきの向日葵色の髪の女性だ。

 彼女の言葉を聞くと、2人はすぐに剣をしまう。


 「ごめんなさい...。いきなりこんなことをされると驚いてしまいますよね...?」


 「いえ...元々、僕が怪しく見えたからこうなったんですし...」


 ここはなるべく下手に出る。

 もう、刃物を向けられたくないんだ‼︎


 「私の名前は...アリス・キンガールよ。そして、この青髪がロス・ガラントル、緑髪がレイ・ガラントルよ。」


 出た‼︎

 異世界特有の「(てん)」‼︎


 「あなたのお名前を伺っても...?」


 アリスが僕の名前を聞いてくる。

 ピンチ!

 ここは日本の名前だと怪しまれる!

 仮の名を作らなければ...。


 「ヒ...ヒトエ・ケルビン...です。」


 「ケ...ケルビン⁉︎...ということは、あなたはケルビン家の...」


 ロスが驚くように敬語で言う。

 他の2人も同様に驚いている。

 この世界でのケルビン家はそんなにすごいのか?

 まあよくわからないけど、この3人との戦闘は避けられたようだ。

 あとは...情報収集だ。


 「ところで、皆さんはここで何をしていたのですか?」


 「あっ...ああ、我々はここから北にある街に向かっていました。そこからさらに北にある空遊都市から不気味な魔力が漏れているので、その調査を...。」


 出た、魔力!

 3人からじんわりと感じていたが、やっぱりこの世界にもあるのね。

 不気味な魔力...元の世界に戻るための鍵になるかもな...。


 「僕もその調査に同行してもよろしいですか?」


 「えっ...はい!もちろんですとも。ケルビン家の方ならばぜひ‼︎」


 レイがそう言う。

 この世界でのケルビン家って、本当にどんな存在なのだろう...?


 「では、決まりですね。あ、あと僕のことはヒトエって呼んでください。敬語もいりませんよ。」


 「わ...分かりま.........分かった、ヒトエ。」


 よし、とりあえずこの3人についていこう。

 まずは、北にある街...だな。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 北の街...セントラントに到着する。

 街に入って気づいたが、この世界の文字は日本語で書かれている。

 そういえば、さっき3人と話した時も日本語だったな...。

 もしかしたら、魔術で日本語に翻訳されているのかも...。

 僕が街の様子をキョロキョロ見ていると、アリスが


 「じゃあ、この街でそれぞれ物資調達をしましょう。集合は1時間後に北門で...。では、解散。」


 と言い、3人とも解散してしまう。

 物資調達か...。

 正直、武器はフリゾンで作れるから必要ないかな。

 それよりも今はただ、ケルビン家が気になる。

 図書館に行けば、何かわかるだろうか...。


 「えぇっとぉ...図書館......図書館は...」


 その時、僕は壁にぶつかる。

 よそ見していて、前が見えていなかったからな...あれ?

 なんかこの壁、変だぞ...。

 僕は視線を壁の上部に移す...とそこには、テッカテカのスキンヘッドが!

 僕が壁だと思ってたのはスキンヘッドのマッチョ男でした‼︎


 「お前...この俺様にぶつかるとは、良い度胸してるな?」


 彼は僕を睨みながらそう言う。

 ああ...これは路地裏イベント始まるな...。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 僕は一切抵抗せず、素直に路地裏まで引っ張られた。

 正直、抵抗しても良かったけど...こっちの世界の街中で目立ちたくはない。

 路地裏にはすでに何人かのチンピラがいた。

 全員スキンヘッドだ...。

 こっちの世界ではスキンヘッドが最先端なのかな?


 「おめーら!今日は活きの良いサンドバッグを連れてきたぜぇ‼︎」


 僕を壁に押しつけながら男が言う。

 その言葉に反応してスキンヘッドのチンピラ共が、僕の周りを囲む。

 まあ、普通に考えればピンチだけど...僕はつまらない顔でチンピラ共を見る。


 「オラァ‼︎」


 と言いながら、1人のチンピラが殴りかかってくる。

 しかし、そのパンチは僕の右手から出たフリゾンによって防がれてしまう。

 まあ、そうなるよね...。

 パンチを防いだフリゾンは形を変えて、チンピラ共の首を絞める。

 やがて、チンピラ共の身体は地を離れる。


 「こっちの世界で殺しはしたくなかったけど...まあ、多少の犠牲は仕方ないか。」


 そう言いながら僕が指を鳴らすと、チンピラ共の身体が炎に包まれる。

 しばらくすると路地裏には僕以外、誰もいなくなっていた。


 「よし...予定通り図書館に行こう。」


 僕は何事もなかったかのように路地裏を出る。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 僕は図書館でケルビン家にまつわる書物を見つけると、すぐに読み始めた。


 「ケルビン家...それは三勇家のうちの一つであり、ケルビン王国の王族でもある...か。残りの三勇家は...キンガール家とガラントル家で、いずれも魔暦1年に魔王を討伐した三勇者の血筋...⁉︎」


 やばい...頭が追いつかない...。

 あの3人は勇者の血を引くものだったってこと?

 そして、僕は設定上は勇者の血を引く王子様ってことか...。

 そりゃ、あれだけ驚かれるわけだ。

 そういえば、ケルビン王国があるならキンガール王国とガラントル王国もあるのかな?

 僕はケルビン家の書物を元の場所に戻すと、今度はキンガール王国にまつわる書物を探し始めた。

 しかし、見つかったのは「幻のキンガール王国」という書物だけだった。

 僕はその書物を手に取り、中身を見てみる。


 「えぇっと...魔暦115年、戦争に敗れてケルビン家のみが政権を獲得...。」


 どこの世界にも、戦争というものはあるのだなぁ...。

 まあでも、「キンガール家とガラントル家全員死刑!」とかにならなかっただけましか...。


 「よし!そろそろ集合場所に向かうか!」


 書物を戻した僕は気持ちを切り替えて、集合場所に向かうことにした。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 僕が北門に着くと、もうすでに3人が揃っていた。


 「ごめん...ちょっと待たせちゃった?」


 「いや、時間通りだ。それよりヒトエ、防具とかしていないが大丈夫なのか?」


 レイに言われて気づく。

 そういえば僕ってどんな服着てたっけ...?

 気になって自分の服装を確認すると、黒いズボンに茶色のぶかぶかな服を着ていた。

 たしかこういう服をポンチョって言うんだっけ...。

 確かに、こういう服装は少し心許(こころもと)ないな...。

 でも、


 「大丈夫だ、問題ない。」


 「そ、そうか...。」


 なんかめっちゃ死亡フラグみたいになったけど...まあ良いか。


 「さて、全員準備できてるわね?これから船で空遊都市まで向かうわよ。」


 北門を抜けると、アリスが僕らに言う。

 それと同時にアリスの後ろに一隻の船が現れる。

 見た感じ4人は余裕で乗れそうな船だ。

 全員が船に乗ると、船が浮いて飛び始める。


 「これもアリスの魔術なのか?」


 「うん、そうよ。これが使えないと、空遊都市には辿り着けないからね...。」


 僕の質問にアリスが答える。

 へえ〜、こっちの魔術は便利だなぁ。

 いや、元の世界でも船を浮かせるくらい、やろうと思えばできるけど......結構大変だからなぁ...。

 しばらく飛び続けると、船は雲を突き抜ける。

 すると、目の前には洋風の城を乗せたラ◯ュタみたいな巨大な島があった。


 「うわぁ...すっげぇ...。」


 僕は恐怖心よりも探究心の方が勝っていた。

 確かに城は巨大だし、周囲を漂う不気味な魔力は「近づくな」と言っているようにも感じる。

 でも、あれだけ大きな城を浮かせ続けられる魔術も気になる...!

 そんなことを考えているうちに、船が島に着く。


 「おい...アリス...。」


 「どうしたの...ロス?」


 「まさか、今からこの城に入る...なんて言わないよな?」


 「いや、入るけど?」


 ロスの質問にアリスが即答する。

 確かに、この不気味な城に入るのは少し勇気がいる。

 にもかかわらず、アリスは物怖(ものお)じせず、城の入り口へと向かって行く。

 彼女に「怖い」という感情はないようだ...。

 僕でも少しは恐怖心を抱くけどなぁ...。

 僕らは仕方なく、彼女を追いかけた。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 城内と外を仕切る大きな扉の前に着く。

 この扉の先は未知の領域だ。

 何が起こるかわからない。

 ここは慎重に開けないと...。

 アリスは扉を10秒間見つめたあと、


 「押し戸ね」


 と言いながら、扉を勢い良く蹴る。


 「だああぁぁ‼︎」


 僕が止めようとした頃にはもうすでに扉が全開していた。

 アリスってこんなに乱暴だったの⁉︎

 もっと慎重に行こうよ‼︎

 扉の向こうにはこちらを見ている骸骨が大勢いた。

 これは一旦引いた方が...


 「いくぞ‼︎」


 「「うおおおぉぉぉ!!!!」」


 アリスの掛け声で3人とも敵に突っ込んでいく。

 ロスとレイ、あんたらさっきビビってなかったか?

 なんであの大勢の骸骨に突っ込んでいけるんだよ!

 3人はそれぞれ剣で骸骨と戦う。

 骸骨は意外に(もろ)く、攻撃すれば簡単に崩れた。

 いや、違う...骸骨が脆いのではなく、あの剣が強いのか...。

 3人の用いる剣は骸骨などのアンデッドに強い聖剣だ。

 その証拠として、骸骨の切られた部位がわずかに光っている。

 普通の剣で戦っていたら歯が立たなかっただろう。


 「これは...僕なしでも勝てそうだな...。」


 僕はそう言いながら、壁に寄りかかる。

 よく見てみるとこの城、ハリボテだな...。

 外から見ると立派な城ですが、中はただの空洞で内装は無いそうです。

 でも、戦いやすいから良いんだけどね...。

 僕はそんなことを考えながらレイに視線を移す。

 さっきから気になっていたが、彼の動きは少し危なっかしい。

 ロスとアリスはそこそこ動けているんだけど...。

 そんなことを考えながら、レイを見ていると...


 「ライジクス‼︎」


 と言いながら彼が剣を一体の骸骨に刺す。

 すると、骸骨の動きが止まり、やがて崩れる。

 あれは...間違いない、感電(エレクトロキュート)だ。

 こっちの世界ではそうやって詠唱するんだ...。


 「僕もできるのかな......ライジクス。」


 一体の骸骨を右手の指で差しながら、そう唱える。

 すると、指から出た光が目標の骸骨に当たる。

 あー、やっぱりできるんだー。

 と思ったその時、周りにいた骸骨全員がいきなり崩れる。

 えっ...何が起こった...⁉︎

 襲撃か?

 僕は少し、身構える。

 しかし、3人はなぜか僕の方を見てくる。


 「え、僕...?」


 僕がそう言った時、僕の視界の上の方に何かが現れる。

 全身真っ黒の細い人型の何かは、地面を指差している。

 待て...指先が光って...


 「上だ‼︎」


 僕は奴の行動を理解する前にそう叫ぶ。

 しかし、3人がそれに反応する前に奴の魔術が発動してしまう。


 「カイレイズ」


 その詠唱と同時に、奴の指先から大量の溶岩が噴射される。

 溶岩は一瞬で3人を飲み込んでしまう。


 「クソッ...噴火(イラプション)か...。」


 僕は冷静に状況を整理する。

 まずは、3人の遺体の回収からだ...。

 僕はフリゾンで溶岩の中から3人の遺体を引っ張り出し、自分の所へ引き寄せる。

 当然、3人とも死んでいる。

 僕は自身と3人をフリゾンのドームで囲む。

 次は、蘇生だ。


 「蘇生(リ・バース)...」


 僕がそう唱えると、3人の身体が元に戻る。

 そして、3人にフリゾンボディスーツを(まと)わせる。

 これで、いざという時にも守れるはずだ。

 よし...次は、奴か。

 僕はフリゾンボディスーツとフリゾンローブを身に纏い、フリゾンのドームをしまう。

 その時、アリスが目を覚まして


 「待って‼︎行っちゃダメ...ヒトエ。あれは魔神よ...!私たちでは勝てない...。」


 と言い、僕を止める。

 乱暴なところはあるけど、やっぱり優しいな...アリスは。


 「ありがとう、アリス。でも...大丈夫だ。」


 僕は優しくそう言うと、奴に向かって歩いていく。


 「フッ...小僧よ...我に勝てると思っているのか?」


 「う〜ん...その前に、一つ質問をしても良いかい?」


 「なんだ?」


 「君...本当に魔神なの?」


 「ああ、そうだ。我は...この世界の魔神だ。我の前では、どんな人間も...」


 「口が多いぞ...魔神風情(ふぜい)が...。」


 「何...?我は魔神だぞ...‼︎この世界で最強の存在だ!人間とは比べ物にならないほどの力を...」


 「お前ごときがこの世界の最強...か。良いだろう...真の最強とは何か、()()()()()。」



 ――――――――――



 空遊都市に建つ城の中で、私...アリス・キンガールは、彼に......ヒトエ・ケルビンに見入(みい)っていた。

 あれは...何だ?

 あの...ヒトエから溢れ出る異次元の魔力は...。

 まさか...彼は魔神を殺せてしまうのか...?

 人である彼が、神を...。

 魔神もヒトエの異次元の魔力に気圧(けお)されている。

 ヒトエは何もせず、ただ突っ立っているだけだ。

 それを狙うように魔神が攻撃を仕掛ける。


 「カイレイズ‼︎」


 「ヒトエ...危ない!」


 私は思わずそう叫んでしまう。

 しかし、


 「無駄だ!」


 ヒトエに向かって噴射された大量の溶岩は、彼の周囲で消えてしまう。

 そして魔神の攻撃が止むと、ヒトエの姿が消える。


 「何⁉︎貴様...どこへ行った‼︎」


 魔神が辺りを見回しながら問う。

 すると、あらゆる方向からヒトエの声が聞こえてくる。


 「フハハハハハ...どうした、魔神!お前はこの世界の最強ではなかったのか?」


 彼はそう言い終わると、魔神の目の前に姿を現す。

 魔神はすかさず黒雲の剣を作り出し、ヒトエに切りかかる......が、


 「無駄だと言っているだろう...!」


 ヒトエに触れる前に剣自体が消える。

 今度は、ヒトエが漆黒の剣を作り出す。


 「な...何者だ.........貴様は一体何者なんだああぁぁぁぁ」


 「我が名は常立(トコダチ)一重(ヒトエ)...‼︎この世界の...いや、異世界の廃神(ハイジン)になる男だ!」


 魔神の質問にヒトエがそう答える。


 「トコダチヒトエ......?ハイ...ジン......?」


 私は思わずそう呟く。

 ヒトエは、左手で掴んでいる剣を高く掲げ、


 『神術(カミワザ)万滅斬(バンメツザン)


 と言いながら、剣を振り下ろす。

 すると突然、城が弾けるように粉々になる。

 それと同時に、私の周りを凄まじい勢いで風が駆け抜ける。

 城の周囲に漂っていた不気味な魔力も、それと共に吹き飛ばされる。

 私は魔神に視線を戻す...が、もうそこに魔神はいなかった。

 そこにいたのは、瞳が紅く光ったヒトエだけだった...。



 ――――――――――



 地面に着地する。

 それと同時に、僕の背後で謎のゲートが開く。

 そして、その奥から懐かしい魔力を感じる。

 これはもしかして......元の世界へのゲートでは⁉︎

 僕は迷わずそのゲートに入ろうとする。

 とその時、


 「ヒトエ!」


 と後ろの方からアリスの声がする。

 僕が後ろを振り向くと、彼女が駆け寄ってきていた。


 「アリスか......ロスとレイは大丈夫なのか?」


 「ええ、どちらも無事よ。それもこれも、全部ヒトエのおかげよ......ありがとう。」


 「それは良かった。」


 「...ねえ、ヒトエ......あなたは一体、何者なの?」


 彼女の問いに僕は戸惑う。

 正直、僕のことはあまり話したくない...。

 異世界であまり爪痕を残したくないのだ...。

 でも、アリスは真剣に僕を見つめる。

 その姿が、豊野と重なる...。

 まさか.........いや、偶然か...。


 「僕は異世界からやってきた人間だ。君たちに同行したのは、元の世界に戻る手段を探すため。そして今、やっと元の世界へのゲートを見つけられたんだ。」


 僕はゲートの方を見る。


 「そっか...ヒトエは異世界から来たんだね.........あ、あのさ...」


 「ん...どうした?」


 僕はまた彼女に視線を戻す。


 「最後に...もう一度だけ、ヒトエの本当の名前を教えてくれる?」


 僕は混乱する。

 今まで、こんなに真面目に名前を聞かれたことなかったからなぁ...。

 きっと、アリスにとって僕の本当の名前はとても大切なものなのだろう。


 「僕の名前は常立一重......異世界の廃神になる者だ...。」


 「トコダチヒトエ......うん、覚えた。」


 彼女はそう言いながら微笑む。

 僕はゲートに入る。


 「じゃあね、アリス・キンガール。」


 「うん...じゃあね、トコダチヒトエ!」


 僕が手を振ると、彼女も手を振り返してくれる。

 僕はついにゲートの奥へと進む。

 すると、僕の周りを白い光が包み込み...



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 目が覚める。

 僕は今、ベッドの上にいる。

 そうか...夢だったのか...。

 僕はベッドから立ち上がり、Myパネルで時刻を確認する。

 現在時刻は正午。

 でも、もし僕が異世界に行ったことが全部夢で、全部嘘だったとしても...


 「良い夢だったな...。」


 僕は背伸びをして、そう言う。

 良い夢を見れた。

 それだけで僕は十分だ。

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