第51話 【楽滅者ノ『オクタ』】
南小型闘技場に入る。
闘技場の中央にはオクタがこっちを向いて立っている。
「来たか...廃神。ずいぶん早かったな。」
「協力者が来てくれたからな。それより君、どっかで会ったことある?なんだか、既視感が...」
「水嶋 斗一...それが俺のもう一つの名だ。」
僕は思い出す。
水嶋斗一...僕が中1の頃、僕らの学年の体育を担当した教師だ。
時代遅れのスパルタ教育で生徒からも他の教師からもあまり好かれていなかった。
「教師がこんなことして大丈夫なのか?まあ、君は元からこういうことするやつだったか...。」
「フッ......こういうこと...か。なあ、常立一重...お前に一つ、俺の武勇伝を教えてやろう。」
「武勇伝?」
「ああ、そうだ。あれは3年前のある日...その日、俺はある2人の夫婦を襲った。まずは、足首を刃物で切り、歩けなくした。次に、2人を路地裏に連れ込んで脚...腕...腹...と、致命傷にならないように刃物で刺した。」
「待て...お前...何を言って......」
「激痛に苦しむ2人の姿を堪能した後は、心臓に刃物をブッ刺して終わりだ。いやぁ...あれは本当に楽な仕事だった...2人とも一切抵抗せず、苦しむだけだったもんな。」
「...れよ──」
「本当にあの夫婦はバカだった。ああ、そうだ...確か、あの夫婦の苗字は...」
「黙れよ───‼︎」
「常立...だったな...。」
「黙れっつってんだろ‼︎」
僕は数多のフリゾンの弾を奴に向かって高速で発射する。
だが、それらは全て奴の目の前で消える。
いや、消えているというよりこれは...
「吸収...それが俺の得意とする魔術だ。どうだ?これでもう分かっただろう...お前の神術は俺には通用しない。剣が届かないからな。」
「いや、そんなことはない。神以下の存在であるお前は、神術に対してなす術はない。」
「なんだと?」
奴は不機嫌そうに聞き返す。
「じゃあ、お前は神術で俺を殺すことができるのか?」
「ああ、できるさ。」
僕は奴への怒りを堪えながら、淡々と言葉を述べる。
「でも、僕は...我はそんなことはしない。お前への怒りは殺すだけじゃ収まんないからな。お前には『死』すらも、生ぬるい。」
闘技場の地面から不気味な黒い煙が上がってくる。
その煙は霧となって僕らの周りを漂う。
僕は奴を、実体を持たず吸収されない鎖で拘束する。
すると、奴のいる下の地面が開き、あちらの世界が見える。
「概念魔術...地獄。この中で対象者は即死するほどの痛みを与えられ続ける。しかし、その者は決して死ぬことができない。すなわち、永遠の苦しみを味わうことになる...。」
「こ...これは......嘘だ...これは禁忌とされてきた魔術だぞ!」
そう言っている間に、奴の体は徐々にあちらの世界へと引っ張られていく。
「お...お前...こんな事をすれば、お前も俺と同じ悪人だぞ...!こんな事をする奴を世間が許すはずが...」
「勘違いしているようだから言ってやろう...。」
「は...はぇ...?」
「我が目指すのは廃神...ただそれだけだ。善人でも、ましてや悪人でもない。最強であればそれで良い。」
僕は、オクタを見下すように睨む。
デカに似た気味の悪いオクタの瞳は恐怖で焦点があっていない。
「常しえの苦しみを味わうが良い...」
オクタはつながった鎖と共にあちらの世界へと入り、そしてまもなく穴が閉じる。
僕は南小型闘技場で1人、呟く。
「次...行こう」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
大型円形闘技場に入る。
心なしか、バイン・マダニーが増えている気がする...。
僕は富地と乃々華の2人を探す。
「えっと...2人は......あ、いた...ってピンチじゃん。」
僕はマダニーたちに囲まれて明らかにピンチな2人を見つける。
僕はフリゾンブーメランを作り、それをマダニーの集団に向かって投げる。
ブーメランは2人を囲んでいたマダニーたちの胴体部分を真っ二つにして戻ってくる。
「これで...」
その時、マダニーたちの真っ二つになった胴体がそれぞれ修復されていく。
僕は慌てて2人をフリゾンのロープでこちらに引き寄せる。
まずは状況の確認。
「2人とも、大丈夫か?...っていうか何があった?」
「見たまんまだ。あのマダニーっていう魔物の胴体を攻撃したら2体に分裂した。」
僕の質問に富地が答える。
やっぱりか...。
やけに胴体が柔らかいと思ったが、切られる事を前提とした構造になっているのね。
んで、多分弱点は豆粒くらいの大きさの頭部だろう。
当然、それを狙って攻撃するのは難しい......なら...
「使うか...」
「えっ...使うって...何を?」
「とりあえず2人はフィールドの外に出といて。」
「いや、だから何を...」
「いくぞ乃々華...。」
「えぇ...」
乃々華は富地に引っ張られるようにフィールド外に出ていく。
よし...これで環境は整った。
あとは実行するだけだ。
僕は体外に魔力をそのまま放出する。
「見せてやる」
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