第5話 【喪失】
僕は、阿比留への殺意を堪えながら、
「アンタは、自分が犯した罪をわかってるのか?」
と静かに聞く。
阿比留は、
「罪?僕らの取った行動は僕らの身を守るためにしたことだろう?僕らに非はないはずだ。」
と言う。
「校舎に勝手に侵入し、マッチで校舎を火事にし、友人を火に巻込み意識不明にした。それでも自分に非はないと言えるのかよ!」
僕の感情はもう抑えられないほど燃えている。
僕は、間髪を入れずに
「オレとアンタのせいで2人の意識は戻らなくなった。オレとアンタは犯罪者で2人はその被害者になっちまったんだ!」
と言い放つ。
阿比留は黙り込む。
「なんとか言ってみろよ!!」
と僕は脅迫するように叫ぶ。
部屋の中は恐ろしいほど静かだ。
しばらくして、阿比留は
「それでも...たとえ一重が僕を犯罪者呼ばわりしても...僕は...自分の罪を償おうとは思わない...」
と静かに、でもはっきりと告げる。
僕は、弱々しい声で
「なん...で...」
と言う。
「僕が罪を償ったところで2人は救われない...いや、誰も救うことができないからだ。それに、2人も僕らが罪を償うなんてことを望んでないと思う...。」
と阿比留が言う。
「アンタ...正気か?」
僕は倒れそうになりながら阿比留に問う。
「正気だ。僕は秘密を明かしてまで罪を償うくらいなら、悪人にだってなってやる。あの日からそのつもりだった。」
続けて、
「さようなら...常立 一重君。きっと今のままの君と会うことはもうないだろう。」
と阿比留は僕を突き放すように言い捨て、部屋を出て行く。
僕は数十分間、何もできなかった...。
気づけば外はもう真っ暗だ。
僕は支度を終わらせ、ドアを開ける。
そして後ろを振り向き、
「2人とも...ごめん。オレは...結局何もできなかったよ...。」
と言い、
「さようなら」
という言葉と共に病室を去る。
受付にカードキーを返し、外へ出る。
外は無音の世界が広がっていた。
月と電灯の光だけが虚しく照らしている夜道を、僕は喪失感を抱えながら歩く。
まるで、9年前の2月16日の帰り道のように...。
もし、「面白い!」と感じて頂けたら『いいね』や『⭐︎』などで応援してもらえるとありがたいです‼︎