第49話 【緊迫シタ雰囲気】
魔力武闘会トーナメント5日目。
ついにこの時が来た。
常立君と本気で戦う時が。
初めから、容赦などする気はない。
私は...私のできることをやるだけ...。
そう、何も怖がることは...怖がることは......
「うわぁムリだぁ...。怖いよぅ〜。痛いのやだよぅ〜。」
私...豊野二千花は控え室で一人、怯えている。
子供かよと思われるかもしれないが、これは仕方のないことなのだ。
昨日の香角先生と常立君の試合で、香角先生が常立君の攻撃の痛みに悶え苦しんでいたのだから...。
正直、体内から突き出るフリゾンは見ているだけでも痛そうだった。
もうすぐ10時...試合開始まであと3分だ。
「はぁ...。帰りたい...。」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
試合の時間になり、私は南側の入り口からゆっくりと入場する。
常立君はまだ見えない。
私は所定の位置につく...が、まだ彼はやってこない。
焦らすなぁ...私としては嫌なことはさっさと終わらせたいんだけど...。
私は気を紛らわすために空を見る。
今日の空は雲ひとつない快晴だ。
「ふぅ......まだ?」
もう体感だと5分は経った気がするんだけど...。
その時、闘技場の上空から声が聞こえてくる。
「本来の試合開始時間から3分が経過しました。よって今試合を、常立一重の棄権とみなし、豊野二千花の不戦勝とする。」
この声は、トーナメント主催者の徳川家常だ。
「したがって、魔力武闘会トーナメントの優勝者は...豊野二千花だ。」
「えっ...マジ⁉︎」
その瞬間、会場が歓声に包まれる。
ただ、私は喜べなかった。
常立君の行方が本当にわからなくなったからだ。
彼は...一体、どこへ行ってしまったのだろう...。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
翌日、正午。
大型円形闘技場の地下の少し広めの部屋に私は入る。
部屋の中央には豪華な食事の乗った細長い机と2脚の椅子があった。
机の向こう側の椅子には徳川家常が座っている。
彼は私を見ると、席から立ち上がり
「はじめまして。あなたが、豊野二千花様ですね?どうぞ、席にお座りください。」
と言う。
私は、
「では、失礼します。」
と言いながら席に座る。
私はあまりこう言う状況に慣れてないから緊張する...。
彼はまた座り直して、話し始める。
「豊野様、まずは優勝、おめでとうございます。決勝は不戦勝という形になってしまいましたが、それでもあなたの実力は今大会のチャンピオンにふさわしいと私は思います。」
「あ...ありがとうございます...。」
「さて、本日の本題は表彰式、及び閉会式の流れの確認ですが...その前に、常立一重...彼について少し話をしたいのです...。」
「彼についてですか?」
「ええ、あなたは彼のことをよく知っていると河谷灯也から聞きましてね...。」
あいつ...余計なことを言いやがって...。
私は怒りを堪える。
まずは、落ち着こう...。
今は怒るべき時ではない。
「あれ...そういえば、今日は河谷さんはいらっしゃらないのですね...。何か用事ですか?」
「えっ...ああ、彼はトーナメントが終わってすぐに常立一重を探しに行ったよ...。やっぱり、彼もああ見えて気にしていたのかもしれないね...。」
「へえ...。」
あいつ、「彼を信じろ」と言った割には、自分も信じてなかったのかよ...。
っていうかなんか徳川、焦ってない?
「さ...さぁ、常立一重について何か知っていることがあれば...」
「彼は廃神...すなわち最強を目指すだけの平凡な少年...。私が知っているのはそれだけです。」
「そ...そうですか...。ありがとうございます。それをあなたの口から聞けただけでも私は十分です。」
彼は私の言葉に圧倒されたのか、話を切り上げてしまう。
私は一回落ち着いて、ワイングラスに入っているドリンクを飲む。
今日は長くなりそうだ...。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
正午から始まった徳川家常との打ち合わせは2時間も続いた。
それからさらに4時間後、私は今、闘技場の控え室にいる。
これから表彰式、及び閉会式だ。
白いドレスを見に纏った私は、ゆっくりと入場していく。
空は夕焼けで橙色に染まっている。
私の正面には階段付きの台のようなものがある。
台の上には徳川家常が周りをキョロキョロしながら立っている。
やっぱり彼は怪しい...でも、2人きりの空間で何もされなかったのだから信用しても大丈夫だろう...。
私はゆっくり階段を上がる。
目の前には徳川家常がいる。
彼が
「虚実融合」
と唱えると、彼の横にゲートのようなものが現れる。
彼はそこに手を突っ込み、メダルを取り出す。
私を含め、多くの人々がこれに驚き、闘技場が騒然とする。
誰も、この魔法を知らないのだ。
私は動揺を隠しながら、打ち合わせ通りに動く。
彼に一歩だけ近づき、彼にメダルをかけてもらう...。
その時、私の耳元で聞き覚えのある声が
「動かないで」
と、小声で囁く。
それと同時に、背後で爆発音がする。
私は、すぐに後ろを振り返る。
そこには壁のように展開されたフリゾンがあった。
私は徳川家常のいる方をまた振り返る。
すると、彼の体がとけて...いや、これはフリゾンだ。
そして、そのフリゾンがなくなるとそこには...
「常立君...」
赤髪高身長の男...そう、私が1週間探し続けた常立一重がいたのだ。
彼はフリゾンのローブを身に纏いながら、
「待たせちゃってごめんね...」
と言い、フリゾンの壁に近づく。
彼がフリゾンの壁をしまうと、向こう側に2人の男がいた。
一方は体格の良い黒髪男、もう一方はヒョロヒョロの金髪男。
「待ちくたびれちゃったよ...ホトトギス。」
「それは、俺たちも同じだ...廃神。」
常立君の言葉に黒髪男が返す。
2人とも互いに睨み合っている。
やばい...私だけ話に追いつけてない...。
その時、鼻をほじって虚空を見つめている金髪男が私の目に留まる。
私...戦うならバカっぽいアイツとがいいな...。
こんな緊迫した雰囲気の中でそう思ってしまった...。
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