第4話 【秘密】
2月16日。
僕は天上線に乗り、珍しく電子新聞を読む。
新聞を開くと見出しには、
〔あの悲惨な事件から9年...横浜市立小学校全焼事件〕
と書かれていた。
9年前...僕がちょうど7歳...小学生の時だ。
9年前の2月16日20時。
とある横浜市立小学校にて火災が発生したと消防に連絡が入った。
消防がついた頃には、火はすでに校舎全体を覆っていた。
その頃校舎から逃げ出した2人の少年は、まだ中に人がいると口述。
消防士たちによる決死の消化活動が行われたが、火が完全に鎮火したのは翌日の8時。
その後、校舎内から2人の男女の子供を発見。
直ちに病院へ搬送されたが、意識不明の重体。
9年経った今もなお、2人の意識は回復していない。
事件の数日後、警察による現場調査が行われたが、校舎は既に全焼していたため調査は打ち切り、真相は闇の中へと葬り去られた。
僕は天ヶ原駅を過ぎ、その次の駅で降りる。
そして、この辺では一番大きい大学病院へ向かう。
受付に着くと、
「506号室のお見舞いに来ました。」
と言いながら、証明書を見せる。
受付からカードキーをもらい、エレベーターで5階へ向かう。
506号室の前まで行き、カードキーで中へ入る。
2つのベッドの前まで行く。
ベッドで寝ているのは、五藤 富地と五藤 乃々華である。
2人とも僕の友人だった。
9年前の今日、例の事件が起こるまでは。
あの日、意識を失った2人は9年間ずっと意識不明だ。
医者によると回復の兆しはもうないそうだ。
意識を失い喋ることもできない友人に僕ができるのは、こうやって定期的に見舞いに来ることぐらいだ。
たとえ2人が認識してくれなくても寄り添う。
それが僕のできる唯一のことだ。
何時間経っただろうか...。
窓の外を見ると、日が沈みかけてる。
「そろそろ帰るか...」
と思い、帰る支度をしていると...
ガラガラ
と勢いよくドアが開けられた。
ドアの前には1人の男が立っていた。
「おまえは...」
僕は、男を睨みながら言う。
「ん?...なんだ。誰かと思えば一重じゃないか...。」
ドアの前の男...宇摩 阿比留は冷静な声でそう言った。
阿比留は続けて、
「一重が来ていたなら、俺はもういいか...。」
と言い、部屋を出て行こうとする。
僕は咄嗟に、
「待てよ」
と強い口調で言う。
阿比留は頭だけ僕の方を向き、
「なんだ?」
と言う。
僕は、
「アンタは、2人を見て何も思わないのか?」
と問う。
阿比留は体をこちらに向けて、
「何も...って何?」
と聞き返す。
「あの日、オレとアンタは2人を置いて逃げた。そしてそのことをずっと黙っている。...それについて何も思わないのかって聞いてるんだよ!」
...そう。
9年前の2月16日、例の小学校にいたのは富地と乃々華と阿比留,そして僕の4人だった。
僕たち4人は面白半分で夜の小学校へと侵入した。
しかし、学校内で唯一鍵のかかっていなかった理科室にて、気分を上げるために僕がマッチで火を起こした後、誤ってマッチを落としてしまい、様々な物質に引火。
火は瞬く間に広がり、校舎全体を包み込んだ。
僕と阿比留は、富地と乃々華を置いてなんとか校舎外へと逃げられた。
だが、校舎の外でいくら待っても富地と乃々華は出て来なかった。
僕と阿比留は、自ら火を起こしたことと2人を置き去りにしたことを秘密にした。
「僕はなんとも思わない。起こってしまったことはもう仕方がないだろ?」
と阿比留が冷たく言い放つ。
その瞬間、僕の中の何かが壊れた。
もう...どうにでもなってしまえ。
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