第3話 【神】
帰りのSHRが終わると僕はすぐに講堂へ向かった。
この講堂は本来、学年規模の授業を行うときのみ使うはずだ。
しかし今は、体育会室が改修工事中のため僕の所属する演劇部は講堂で練習せざるを得ないのだ。
講堂につくと、豊野と2人の男女の先輩がいた。
僕が3人に近づくと、男の先輩...宇地原 三令が、
「あっ。常立君、お疲れ様!」
と言ってきた。
それに続けるように、今度は女の先輩...須田 智三が、
「ごめんね。今日は部活やらない予定だったんだけど、香角先生が明日出張でいないらしいから...。」
と言う。
僕は、
「先輩が気にすることではないですよ。僕、ちょうど今日暇でしたし。」
と憂鬱を悟られないよう優しい声で伝える。
もちろん、暇だったというのは嘘だ。
伊岐たちから今日の分の宿題を頼まれているから暇ではない。
だが、先輩達の頼みを断るのは流石に気が引ける。
宇地原先輩はこの演劇部の部長、須田先輩は副部長である。
2人とも僕の一個上で、僕には優しくしてくれる。
「今日は、終盤の動きの確認と注文しなきゃいけない用具の確認をする!」
と部長が言う。
僕たちが今練習しているのは、来年度の4月に行われる大会で演じるものだ。
内容を簡単に要約すると
〔主人公がこの世界に嫌気がさして自ら命を絶ち、異世界に転生。異世界で王族と仲良くなり、数多の魔物を束ねる王...魔王に転生で得た力を使って立ち向かう!〕
と言うものだ。
まあ、もっと簡単に言えば
〔厨二心満載の異世界転生物語!〕
だ。
物語の原案は宇地原先輩だ。
高二でこの内容の物語を1ミリも恥ずかしがらずに部員に淡々と伝えた部長に僕は変な憧れを抱いてしまった。
この部活の顧問...香角 刻四先生も異世界転生系が好きと言うのもあり、この案はすんなり通ってしまった。
ん?待てよ...。
僕の中である一つの疑問が浮上する。
僕は、
「そういえば、香角先生は?」
と聞く。
すると豊野は、
「さぁ?そういえばどこにいるんだろう?ちょっと部長に聞いてくるね。」
と言い、部長の方へ聞きに行く。
部長は豊野と話したあとハッとし、急いで講堂から走って出て行く。
「なんだか嫌な予感がするな...」
と呟きながら、僕はスマホを取り出し、ゲームを起動する。
僕も実は部長と香角先生と同じように異世界転生系が大好きだ。
僕が今遊んでいるゲームも異世界転生の物語を基に作られたオープンワールドゲームだ。
こんなこと誰にも言えないが、自分は廃人並みにこのゲームをやりこんでいると思っている。
ゲーム内のトーナメントではいつも1位をとり、レベル,戦闘力共にカンストしていて、今はただミッションをこなしながら次のアプデを待つだけである。
「はぁ、今日もミッションやるか...」
といつも通りミッションをしようとしたその時、
「大変だあああぁぁぁーーー!」
と部長が大声で講堂に戻ってきた。
部長は続けて、
「香角先生が学校中どこを探してもいなかった...」
と気が抜けたように言う。
「やっぱりそうか...」と僕は心の中で呟く。
香角先生は性格がヲタクよりだから、早く家に帰る習性がある。
定時になると何食わぬ顔で学校を去って行く彼を、人々は『定時の神』と読んでいる。
須田先輩が、
「どうします、部長?活田先生もいないですし...今日は流石に部活はできないのでは?」
と聞くと、部長は
「...そ、そうだな...。本当はやりたかったが...顧問も副顧問もいないのなら...流石にできない...よな...。」
と今にも泣き崩れそうな声で答えた。
見てるとこっちまで悲しくなってくる。
こうして演劇部の練習は中止となった。
帰り、天ヶ原駅までの道でトボトボと悲しそうに歩く宇地原先輩を見かけた。
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