第15話 【究極ノ『カイトウ』】
夜道を走り抜ける。
目の前を走る少女の速度は徐々に落ちてきた。
僕はこの辺の道にはあまり詳しくない。
ただ、それは彼女も同じはず。
少女は右に曲がり、小路地に入った。
僕も釣られて小路地に入ろうと、右に曲がる。
何かおかしい...
もしかして...これって...
「罠だっ!」
右に曲がった先には少女が150cmくらいの杖をこちらに向けて、
「フレイム!!」
と唱えていた。
彼女の持つ杖の先から野球のボールくらいの火の玉が現れ、僕の腹を貫いた。
僕は思わずうずくまる。
早く回復しないとマズイ!
僕が回復しようとすると、少女は容赦なく追撃しようとする。
僕は咄嗟の判断でフードを脱ぐ。
そして、
「豊野さん、一旦落ち着いて!僕だよ、僕!常立一重だよ!」
と、訴えかけるように叫ぶ。
僕に杖を向けている少女は、
「えっ!?...常立君!?ごめんっ!変質者だと思って...。」
と言う。
変質者かぁ...。
まあ、赤髪でローブを着て女子高生に近づくヤツはどう見ても変質者そのものだから仕方ない...。
でも直接言われるとやっぱり辛い...。
それも同級生だとよりいっそう辛い...。
「まあ...でも...殺されなかったからよかったよ...」
「本当に...ごめんっ!!」
先ほどまで僕に殺意を向けていた杖を持つ少女...豊野 二千花は申し訳なさそうに僕の腹部を見る。
「あの...その...非常に言いにくいのですが...その傷...大丈夫ですか?」
「ああ...今、回復魔法で治してる途中だから...」
「へぇ......あれ?魔法を使うときに詠唱しないんですか?」
「えっ...普通するの?」
「私が試した限りでは無詠唱での魔法発動はできませんでした。」
「ふーん...」
豊野との会話である一つの可能性が浮かんでくる...。
僕ってもしかして、もしかしなくても...特別?
「あっ...回復終わってる...ってあれ?なんだこれ?」
僕が回復の終わった腹部を見ると、ニキビとは異なる大きな膨らみができていた。
それを見て、豊野が
「これは皮膚の歪みですね。回復魔法の精度が低いとこうなります。やっぱり、無詠唱の方が精度は低いんですね...。」
と言う。
なんで豊野はこんなに魔法に詳しいのだろう...?
「治しておきますね...。」
「ああ、ありがとう...。」
豊野は僕の腹部の歪みの上に杖を近づけると、
「リカバリー」
と唱える。
すると僕の腹部の歪みは消えた。
詠唱って意外と単純なんだな...。
「ありがとう...。さて...これからどうしようかな...。」
「常立君の家ってこの近く?」
「いや、僕の家は横浜駅の近くだからここからだとちょっと遠いかな...。」
「じゃあ、私の家に泊まる?」
は?
思わずそう言いそうになるのを堪える。
豊野は...この純粋無垢な女子高生は同級生の男子を家に入れることがどれほどdangerousなのかを理解してないのか?
「いやぁ...さすがにそれは...できないなぁ...。」
僕は本能に抗って断ろうとする。
「でも...今、電車全線止まってるらしいよ...。」
「え?」
今度は堪えきれずに思わず声に出てしまう。
どうする?
これを断れば今夜は野宿確定だ...。
だがもしこれを受け入れれば高確率で僕の本能がwake upしてしまう。
もし僕の本能がwake upしてしまえば、何も起こらないわけがない!
僕は最善の策を考え続けた。
そして僕が導き出した究極のanswer...
「ぜひ、泊めさせてください!!!」
「いいよー」
男は...いや、人間は本能には抗えない。
これが究極のanswer...。
もし、「面白い!」と感じて頂けたら『いいね』や『⭐︎』などで応援してもらえるとありがたいです‼︎