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出会い頭の2人

作者: 栗崎新

 上から肩を叩いた。ベンチに腰を下ろしているその女性は一瞬驚いた顔を見せたが、僕が手帳を渡すとそれを読み始めた。手帳には僕が聴覚に障害があること、また友達のマンションまでの道を教えてほしい旨が書いてある。

 僕は生まれた時から音が拾えない。駅前なのに電車の音は聞こえないし、選挙カーで声を張り上げている政治家の演説も耳に入ることはない。僕にとって、筆談と手話は生命線だ。

 女性は見たところ20代の半ばといったところだ。鼻がすっきりとしており化粧は、ナチュラルメイクというのだろうか、それほど濃くはない。後ろで黒髪をまとめていて、芯の強さを感じさせる。白のキャミソールからは胸の谷間が、ねずみ色のミニスカートからは綺麗な太ももが惜しげもなく露出していた。いかにも男の視線を集める格好だ。

 女性が顔を上げ、手帳を手渡してきた。僕は次の言葉を書こうと手帳にペンを伸ばしたが、それより先に彼女から腕を軽く叩かれた。女性のほうを見ると、慣れた手つきで言葉を紡ぎ出していた。 ( このマンション知ってます )

 ( 手話わかるんですか? ) と僕も手と顔を動かす。

 ( カウンセラーをしていまして、その職業柄 )

 女性は道案内を申し出た。僕はその親切さに思わず ( いいんですか ) と確認した。

 ( これもカウンセラーの仕事のうちだと思うので ) 彼女が微笑む。




                *****




 ここです、と彼女は夕焼けに染まるマンションを指差した。十数階建ての高層マンションだ。 ( 立派なところですね )

 ( 今日初めて来ましたが、こんなにすごいところだとは思いませんでした ) 僕は言い、続けて、よかったら夕食どうですか、と彼女を誘ってみた。

 ( いいんですか? )

 ( 僕の友達も歓迎してくれると思います。料理がうまい男です。夕食は僕が保証しますよ )

 女性は、じゃあお言葉に甘えて、と僕と一緒にマンションに入った。夕日が沈んでいく。





                *****




 ドアを開けると友達の男が出迎えた。ラグビー選手のような、その友達の体格はいつ見ても迫力があった。お互いの挨拶も程々に女性のことを紹介し、部屋に入る。こちらです、と彼女を手招きし、リビングのドアを開けた。




                *****




 僕は素早く部屋の隅に寄った。彼女がその部屋の異様な雰囲気を察知する前に、後ろからついて来た僕の友達が彼女をフローリングに押し倒し、羽交い絞めにする。

 部屋で待ち伏せていた2人の男が、よくやった、と言ったのかはわからないが、親指を上げた。その2人が女に寄り、耳元に顔を近づける。残念でした、とか騒いでも意味無いよ、とかそういう類のことを言っているのだろう。僕は、( その体なら、彼らもうまく料理してくれるでしょう ) と彼女の前で腰を屈めて手で囁いた。女は観念したのか抵抗することもなく、歪んだ表情のままだった。

 彼女を仰向けにし、服を脱がせようとする。友達が準備運動とばかりに両手をいやらしく動かした。その両手がゆっくりと、キャミソールの紐を女の肩から外し胸があらわになろうとした時、床に振動が走った。




               *****




 僕が状況を飲み込めず、友達がそれぞれの方向に走るのを見ているのも束の間、後ろから両腕を掴まれ倒された。顔面が床につき、身動きが取れなくなる。何とか横を向くと、部屋に制服を着た男達が大勢流れ込んでくるのが目に入った。そんな中、女がキャミソールの紐を肩に戻しながら僕の視界に入り込んでくる。完全に紐を戻すと、彼女がポーチから手帳を取り出し僕に見せた。ろくに見ずともそれが警察手帳であることはすぐにわかった。ポーチに戻すと、彼女が微笑みながら手を動かす。

 ( これは仕事のうちだと思うので )

ありがとうございました。

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