表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/9

ピンチ

そういえばいったいなぜ私は蜂鳥さんにユキちゃんを渡すためにここに来なければならなかったのだろう。

依頼者をサバゲー連中から逃がすのになぜ人形が必要だったのか?

まさか本当に人形がないと声が出せないとかそういう精神疾患なのだろうか、だとしたらあまり地声が聞きたいとかつっこまない方がいいのだろうか…。


そんなことをぼーっと考えているとキャンプ地の方がにわかに騒がしくなっている。

しかし蜂鳥さんがいないので会話の内容はわからない。


人物の動きとしてはとりあえず依頼者であるスーパーの息子が商店街会長の娘に馬乗りにされていた。

そんな娘をいつのまに近くに行っていたのか、父親である商店街の会長(さっきまでタコの着ぐるみだった)が羽交い絞めにして止めているが、その止めに入っている会長をスーパーのエプロンつけた壮年の男性が止めている。

だれだこのスーパーの男性…もしかしたらこの人がスーパーの社長だろうか。

蜂鳥さんは馬乗りにされているスーパーの息子の頭付近にしゃがみこんでなにやら話しかけている。

こんな状況で話しかけられるなんてどんな神経してるんだろう。


しばらくすると商店街会長とスーパーの男性が抱き合った。

え、なにどういうこと?なんで急にハグ?意味がわからん。

そして商店街会長の娘はスーパーの息子を馬乗り状態から逆エビ固めに移行。

そして蜂鳥さんは逆エビをかけている商店街会長の娘さんになにやら書類にサインしてもらっている。

ってあれ?もしかして蜂鳥さん喋ってる?なんか普通に談笑してる?

いや、あんな状況の人と談笑してるとか全然普通ではないけれど、とにかくなんか話してる!いまあっち行けば声が聞ける?!

こうしちゃいられないと移動しようとした時、すぐ後ろあたりでなにかの気配を感じて振り向く。


「お、おおう…」


獣、まごうとことなき獣。

硬そうな毛がしっかり見えるし、なんなら息づかいも聞こえる距離に四つん這いの獣。


「いのしし…」


自宅で飼っている犬以外でこんな間近に生き物を見るってあんまりないよなあ、とか現実逃避してみる。

数十センチ先で野生の獣の息づかい。身体が動かなくなるくらい、怖い。


どうする?どうすればいい?


とりあえずゆっくり後ずさりして距離をとろうと試みる。

いままでそれなりに勉強を頑張ってきたが、その反動か運動神経にはあまり自信がない。

いのししの背中の毛が心なしか逆立っている気がする。


よくない、これきっとよくないやつ。


助けを求めようとキャンプ地の方を振り返ると、異変に気が付いたのかすでに蜂鳥さんがこちらに走ってきてくれている。


その時




「さやかちゃん伏せて目を閉じて」


強く叫ばれる。

答えるよりも早く身体が反応し、地面に這いつくばっていた。

その声にはそれくらいの力があったから。


その声。


低すぎず高すぎず、甘すぎず渋すぎず、それでいて乙女の鼓膜を一瞬で虜にする魔性の王子様ボイス…。


「え、いまの 声」


こんな時にそんな事が気になるなんてたいがい乙女だな自分。

なんだか笑ってしまう。



這いつくばって目を閉じているのでなんだかよくわからないが、どうやら蜂鳥さんは私を背中にかばってくれているらしい。

なにかを噴射している音と土を蹴る音、何人かばたばたと近づいてくる声と足音。


うっすら片目だけあけて見ると、ユキちゃんが口から毒霧を出して


『うちの新人に手を出さないでよね!』


と可愛らしい幼女の声で叫んでいた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ