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6/9

キャラが濃い

しばらく進むとこぢんまりとした2階建ての建物が見えてきた。

親兄弟から結婚を反対され駆け落ちを決意した若者が一時身を寄せるには丁度よさそうな大きさだ。

だが…


「これは…連れ出すのは難しそうですね」


『でっしょーマヂかよーって状況でっしょー!(爆笑)』


駆け落ちカップルが隠れているという別荘の周りにはサバゲーのみなさんがテントを張ったりキャンピングカーを広げたりしている。

おそらくデパート側の陣営がここを拠点にしているのだろう。


『今朝気がついたらこの状況だったらしいの★あわてて別荘の外にある物置に隠れてウチの事務所に救出依頼してきたのよ』


ユキちゃんが幼女らしくきゃっきゃっと笑っている。

いまさらだがこの声も後ろの蜂鳥さんが喋ってるのだと思うと頭が混乱する。

おそるおそる本体を見ると無表情で見つめ返されてしまった。


「ええと、ってことは朝から飲まず食わずなんですかね?荷物とかは大丈夫なんでしょうか」


『荷物はもともと最小限しか持ってきてないそうで、すべて潜伏している物置にあるそうよ!でも食料はないらしくて、あまり時間がかけられないのよー☆』


あとトイレめっちゃ我慢してるらしいわ!と結構やばいことをさらっと言う。


「ちなみにその物置ってどこなんですか?」


『あのキャンピングカーの横でバーベキューしてるでしょ?その後ろのやつよ』


別荘の左手側やや奥まった場所に、引き戸型で大人が立って入れるくらいの一畳弱サイズ物置がある。


「入り口がめっちゃ見える場所ですね」


『そうなのよー私有地じゃなかったらみんなの気をそらしている間に車を横付けしてとかも考えたんだけどね』


別荘やデパートの面々から少し離れた草むらにしゃがみこんで私達は動くに動けずにいる。

と、なにかガサガサと背後で音がした気がした。

蜂鳥さんもあたりを見回している。


『なんかいる』


「さっきの商店街メンバーみたいですね、無駄にでかいサインポール担いでる人がいますし」


『床屋さんもいるのね。てかどうしてあんな自分の職業前面に押し出すのかしら…でもあの人達がきた方向じゃない方でなんか気配がしたんだけど』


「蜂鳥さん!物置の方で動きがあります!」


商店街メンバーの動向も気になるが、依頼者達が潜伏しているという物置の扉が突然ガラっと開いた。外側から開けられたのではなく、内側から。


少し遠いのでいまいち出てきた人間の表情が見えない。

と、目の前に双眼鏡が出された。


横を見ると蜂鳥さんが無言で渡してきている。


「ありがとうございます」


双眼鏡を使ってみると、どうやら出てきたのは若い女性だ。おそらく彼女が商店街会長の娘さんなのだろう。この距離からでは声が聞こえないが、20代前半くらいの華奢で可愛らしい顔立ちの女性。

しきりになにか叫んでいる。


「なにか喋っているようですが…」


そういって双眼鏡を渡すと代わって蜂鳥さんが覗き込む。


「”もうマヂ限界!ありえない!!肉食わせろ!”」


「へ?!」


唐突に知らない女性の声で蜂鳥さんが喋りはじめた。


「”こちとら朝から飲まず食わずだっつうの!それを横で酒飲むわ肉食うわ拷問かっつうの!!”」


「”こっこはるちゃああん!だめだよー隠れてなきゃだめだよお”」


次はなんか気弱そうな男性の声。


「もしかして蜂鳥さん読唇術できるんですか」


『声帯模写もできるんですー★』


ユキちゃんが楽しそうに答える。

駆け落ち中カップルの声は電話で依頼されたときに聞いただけだろうに。しかしなんて器用な人なんだ、今度有名声優の声マネとかしてもらいたい。

蜂鳥さんが実況してくれるおかげで前方の混乱の様子をだいたい把握できる。


「”ケンジくん!あんた「僕にまかせて!二人の隠れ家にちょうどいいところがあるんだ」ってここに連れてきたくせに!”」


「”だっだって…まさかパパ達がここでこんなことするなんてわからなかったんだもん”」


「”だから私は北海道に逃げようって言ったのに!追われるものはすべからく北に逃げるべきだったのよ!”」


「”そっそんなぁ…だって僕寒いの嫌だようう”」


双眼鏡を覗いた蜂鳥さんが無表情でたんたんと2人の声をあててくれている。


「なんか…この2人クセが強すぎじゃないですか?」


『人のこと言えないけど私もそう思うわ♪』


どうやら物置に潜伏していた2人は我慢できずに出てきてしまったらしい。これは仕事内容が大幅変更になりそうな予感だ。


「スーパーの面々の反応はどんな感じですか?」


『とりあえず狼狽してるわね。あ こはるちゃんがめっちゃ肉食ってる』


「この場合って契約続行なんですかね?こんなんになっちゃったらこっそり逃げ出すとか無理じゃないですかね?」


『そうよねーどうしたもんかしらー』

「あ、サインポールが移動してます」


さすがに混乱を見て取ったのか、商店街の面々がぞろぞろとスーパーのキャンプ地に近寄って行った。


『カオスな予感しかしないわ!』


「同感です」


『でも依頼者に今後の確認をしに行かなきゃいけないわー嫌だわー』


蜂鳥さんはとても嫌そうに立ち上がると、私に空のアタッシュケースを渡してこの場で待っているよう身振りで伝えた。


「あ 蜂鳥さんユキちゃん見えてますけど」


成人男性が仕事の話をしに行くのに女の子の人形を腕にはめているのはなかなかシュールなので一応声をかけると、蜂鳥さんが左手をユキちゃんごとパーカーのポケットにつっこんだ。


『いけないいけない隠れなきゃあぁ』


ユキちゃんはパーカーのポケットにしまわれながら喋っている。芸の細かいことに布越しのくぐもった声だ。


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