つながった
『駅に行っても居ないから探しにきちゃったわ!』
人形が手をぱたぱたさせながらそう喋る。
『見つけたと思ったらタコさんと一緒に銃で狙われてるんですもの!ユキちゃんびっくり!あ、あなたを撃とうとしてた迷彩服の人が叫んでたのは私が服の中に大きめのカメムシを突っ込んだからよ♪』
木にとまってたのよアハハと楽しそうに笑う幼女の声。
…幼女の声
いや、よく聞くと実際の幼女よりもハキハキしてるし、どちらかというとアニメで出てくる幼女の声なのだが。
この声は…つまり腹話術…?
「あの…ハミングバード相談事務所の蜂鳥さん…ですよね?」
『こっちの腹話術師さんは蜂鳥さんよ!私はお人形のユキちゃん!よろしくね村西さやかちゃん!さっちゃんって呼んでいい?』
さっきから人間…蜂鳥さんの口は少しも動いていない。そして無表情。
めっちゃ腹話術うまい…!いや、そんなこと言ってる場合じゃない、「ヤバイ人だ…絶対これヤバイ人だ…」
『さっちゃん!考えてる事が声に出ちゃってるわ!』
「腹話術うますぎるしお人形に名前つけちゃってるし無表情だし、もうどこからつっこめばいいかわからない…」
『肛門はやめてね!』
「いやそういう意味ではなく…」
本体が喋ってると頭ではわかっているが、つい人形…ユキちゃんを見て喋ってしまう。
いかんいかんと本体を見てたずねてみる。
「めちゃくちゃお上手ですけど本職の腹話術師さんなんですか?」
『ちがうわ♪』
顔の前にずずいとユキちゃんを割り込ませてきたので負けじと横から本体を覗き込む。
「その声って地声ですか?私がバイト応募の電話した時対応してくれました?」
一番聞きたい事だ。
森の中だろうがすぐ横でサバゲーしてようがそんな事どうでもいいくらい重要な事だ。
「喋ってみてもらえませんか?」
遠くで「ぎゃあああやられたああ」とか「右だ右!ちがうそっちは左!右はお箸持つ方!!」とかワヤワヤ言ってる声がする。
蜂鳥さんは無言のままだ。
左手のユキちゃんだけはせわしなく動いて…いや動かしている。
再度聞こうとした時、足元に何かが投げつけられた。
途端、蜂鳥さんにまたもや腕をつかまれ『さっちゃん走って!』と幼女に叫ばれ、なんだかわからないまま一緒に走り出す。
数秒後、私達がいた場所でばしゅうううっと音がしたかと思うと蛍光ピンクの液体が吹き上がった。
「なっな、ななに?!」
『手榴弾じゃないかしら?』
「私達部外者なのに!!」
『きっと乱戦になってるのねー♪』
数十メートル離れた小薮に身を潜めバクバクとする心臓を落ち着けながら、ふと思い出しさっき買ったポカリを飲む。
蜂鳥さんもボディバッグからミネラルウォーターを出して飲んでいた。
足元のたんぽぽが場違いにかわいい。少し現実逃避する。
「ところでこんな場所でどういった内容のお仕事なんですか?」
『ああ、そうそう。この奥の別荘から人間を2人連れ出すお手伝いなんだけどね、もしかしたらちょっと危険な感じだからさっちゃん覚悟しておいてね♪』
「え、私荷物だけ置いたら帰るって話で…」
『一人で帰れる?』
ユキちゃんがコテンと首をかしげている。
蜂鳥さんも無表情だがコテンと首をかしげている。
遠くでガサガサガサとかダダダダダっとか「待ち伏せとは卑怯なりいいい」と「フハハハどこへ行こうというのかね?」などという声がしている。
一応くるりと周囲を見回してみるが、森だ。駅からずいぶん離れてしまったらしい。
「すみません帰れません」
『じゃあ詳しい仕事内容は歩きながら話すわね☆』
蜂鳥さんの先導で先を進む。
道といった道は無いが、一応踏み固められた獣道のような場所を通っているのでそこまで辛いというわけでもないが制服でスカートだと歩きにくさはいなめない。だが私の歩幅に合わせて歩いてくれているらしく無理なくついていける。
『依頼主は婚約中のカップルなんだけど、親に反対されていて駆け落ちを目論んでいるらしいの。』
「はあ」
なんかそういうのを最近聞いた気がする。
『男性の家が所有しているあまり使われていない別荘に隠れていたんだけど、なぜか別荘のまわりで親の経営しているスーパーと女性が育った商店街の…』
「サバゲーをおっぱじめて困惑してるんですね」
みなまで言わせず口を挟む。
まじかーここで繋がっちゃったかー面倒だー。
面倒だけどしかたないと私は先ほど商店街の面々から聞いた話を蜂鳥さんと共有する。
『まあ!なんだか色々こじれてるわね☆』
「そして全然話は変わりますが…いまさらで申し訳ないんですが、私もしかしたらバイト先の仕事内容を誤って応募してしまった可能性があるんですけど…」
『さっちゃん、大人は汚いのよ★「相談事務所」なんてぼかした感じの会社はブラックに決まってるじゃなーい!』
「帰りたい」
書類整理や簡単な文章入力かと思ったのになんでこんなことになった。
『まあとにかく、ウチとしては周囲に見つからないように二人を都心の駅まで送って行けば仕事は終了よ!たとえ周囲でサバゲーやってたとしても!』
えいえいおー!とユキちゃんが腕を振り上げる。
蜂鳥さんは相変わらず無表情だ。
地声を聞かせてもらえるのはまだ先のようだ…。