無人駅と商店街の人々
それ以上の質問をさせてもらえず、私は高校の制服にアタッシュケースという結構不審な姿で駅のホームに立っている。
幸い、職務質問はされずに目的地に着いた。
都内から電車で一時間ちょっとなのに無人駅とか。
やたらと草のにおいがする。都会の喧騒を忘れられるわあとか軽く現実逃避をおこしかける。
こんなところにまで線路をひくなんて私鉄もやるな。
聞いた事もないギョワギョワという鳥の鳴き声がする。絶対肉食だと思う。
ホームから降りると、それでも駅前の自販機がきちんと稼動している日本の素晴らしさを改めて実感してしまう。
ポカリを一本買って、あたりを見回す。
人影なし。
ここで待っていれば蜂鳥弟氏が来るはずなのだが。
というかこんなところでどんな仕事をしているのだろう。まさか本当に三日間ゲリラ戦を繰り広げているのではあるまいな。一応携帯が圏内であることを確認する。
そんなことをつらつらと考えながら歩いていると前方の草むらがガサガサ動き、何かが飛び出してきた。とっさに身構えアタッシュケースで頭をカバーする。
やばいイノシシとか?!野犬とかも居そう!
うさぎとか猫とかかわいい系希望!!
しかし予想ははずれ、草むらからでてきたのは迷彩服を着た3人の人間だった。そして3人は私が頭に抱えたアタッシュケースを確認するやいなや、無言で私を担ぎ上げ森にひきかえしていった。
「お前スーパーアオンの武器補給係りだろ?!」
いま私は森の中に連れ込まれ迷彩服の集団(たぶん15.6人いる)に取り囲まれてわけのわからないことを言われている。
「一から十までまったくわけがわからない」
なんだってこんな森の中で唐突に迷彩集団に拉致されてしかもスーパーアオンって?!武器補給って?!まじでゲリラ戦に参加しなくちゃいけないのか私は。
「騙そうたって無駄だ!そのケースはなんだ!」
一番近くにいる迷彩服の男性、たぶん40代張りのある声。「八百屋おてんと」と書かれたはちまきをしている。
「これはバイト先で職場の人に届けるようにいわれたものです」
「おまえはバイトで武器補給係りをしているのか!」
「え…私のバイトって武器補給係りだったんですか?」
そういえばアタッシュケースの中身は知らない。
武器だといわれたら否定はできない。
「スーパーアオンのバイトの子なの?」
「八百屋おてんと」のはちまきの隣にいた50代くらいの迷彩服の女性が少し気遣わしげに話しかけてくる。見た目より声が若々しい。
そして魚の帽子をかぶっている。
二度見してしまった。
魚…あれだ『さか○くん』のハコフグ帽子に似てるけど、女性のはたぶん鯛だ。
その横にいるおじいさんは手に結婚情報誌の『ゼク○イ』を携えてる。たしかにあの雑誌は盾にもなるし武器にもなりそうだ。
バラや百合を抱えている30代くらいの男女・フランスパンを背負っている男性とトングをカチカチしている若い女の子などなど…。
なんとなくわかった。
「もしかしてスーパーと商店街で戦争してるんですか?」
「なんでわかった?!やっぱり敵?!]