【狂い昔話】ませガキ×お嬢様系家庭教師
むかしむかしあるところに、それはそれはませたガキがおりました。両親と3人で暮らしている彼は勉強が苦手で、学校ではのび犬というあだ名までつけられるほどでした。
「この調子で再来年中学生になれるのかしら⋯⋯」
ませガキの女親が心配そうに言っています。そう、この国では勉強の出来ないガキは中学生になることが出来ません。年に1度のテストで全教科100点満点を取らないとずっと小学生のままなのです。
昨年のテストから社会の問題を1つ紹介します。これは配点2点の問題です。
問題:現在大統領が存在する国の大統領の名を全て答えよ
簡単じゃん、と思われた方が多いかと思いますが、このませガキには少し難しいようなのです。これまでこの国では中学受験に落ちた子はいません。なので、ませガキが落ちてしまったら国内初の例となってしまうのです。そこで女親はあることを思い付きました。
「仕方ない、家庭教師をつけるか。後で男親に相談しないとね」
その日の夜、女親は仕事から帰ってきた男親に家庭教師の話をしました。男親もそんなに稼いでいるわけではないので、もしかしたら反対されるかもしれません。
「おいらもそう思ってたところなんだ。女親とは本当に気が合うなぁ。さすがおいらが惚れた女だぜい!」
こうしてませガキは家庭教師と勉強をすることになりました。家庭教師が女子大生だと聞いたませガキは少しドキドキしているようです。
さて、今日は家庭教師が来る日です。ませガキは例によってドキドキもじもじしています。早速インターホンがなりました。
「はい」
女親も男親も仕事に行っているので、ませガキは用心してインターホン越しに返事をしました。
「こんにちは、家庭教師の青天上院 生紫と申します」
目が大きく、サラサラな黒髪の、綺麗な女性がこちらに向かって話しています。ませガキはインターホンの画面をパシャリと撮影すると、家庭教師を中に通しました。
「どうぞお座り下さい。今お茶をいれますので」
綺麗なお姉さんを前にしたませガキはとても緊張しています。
「どうもありがとうございます。では、いただきます」
家庭教師は湯呑みをひと睨みしました。すると、中に入っていたお茶が消えたではありませんか。
「ひ、ひぇえ!」
それを見たませガキが驚いています。
「大人はみんなこうですよ」
家庭教師の言葉にませガキはホッとし、胸を撫で下ろしました。
「きゃあっ! 何するんですか!」
胸を撫でられた家庭教師が驚いています。
「子どもはみんなこうですよ」
ませガキの周りのガキもこうなのです。
「そんなわけないでしょ! まったく、おませなおガキですこと!」
「おガキ⋯⋯!」
おガキと言われたのが嬉しかったませガキは、市役所に行って改名することにしました。
「10分だけ待っててください、ちょっと用事で出てきます!」
そう言ってませガキは市役所に向かいました。市役所はだいたい徒歩で10分ほどのところに位置しているので、明らかな計算ミスです。
「『ませガキ』を『おガキ』に改名ですね。承りました」
改名の手続きを終わらせたおガキは、生紫先生の待つ自宅に急いで帰りました。家に着くと、おガキはすぐに勉強部屋に行きました。
「おめェの10分は40分なのか! 変態クソガキが!」
先生はメチャメチャにキレています。先ほど胸を触られたことも怒っているようです。
「変態クソガキ⋯⋯!」
おガキの頭に改名の2文字が浮かびました。こういう性癖なんです。許してやってください。市役所の方も、今まで65回も手続きさせられて大変だと思いますが、許してやってください。
「目ん玉と耳の穴、どっちがいい?」
「えっ」
おガキには質問の意味が分かりません。
「どっちがいいか聞いてんだろうが!」
先生はこの上ないほど怒っています。大きな2つの目玉は顔から飛び出し、鼻から尋常ではない量の鼻毛が生えてきました。怒っている証拠です。
「答えねェってことは両方でいいんだな? おりゃあ!」
おガキの上に馬乗りになった先生は胸ポケットからボールペンを取り出しました。
「目から行くかぁ!」
先生はボールペンを持った右腕を大きく振りかぶりました。
「そこまでよ!」
部屋の入り口の方から声がしました。
「ビン子ちゃん⋯⋯!」
おガキが泣きそうな顔で言っています。隣に住む幼なじみの女の子、知久 ビンビン子ちゃんが助けに来てくれたのです。おガキの涙は嬉し涙だったことでしょう。
「なんじゃおめェは!」
馬乗り状態の先生が怒鳴っています。
「それはこっちのセリフよ!」
ビン子ちゃんは持っていた一升瓶で先生の頭を殴りました。いつも瓶を持っていて、いつも人を殴っているからビン子ちゃんというあだ名がついたそうです。
「よし、まず目玉!」
先生はおガキの右目にボールペンを刺しました。もう1本取り出し、左目にも刺しました。
「次は耳!」
先生は左右のポケットからボールペンを同時に2本取り出し、おガキの両耳にぶっ刺しました。
「あ〜落ち着くぅ」
おガキは気持ちよさそうにしています。今にも眠ってしまいそうな顔です。
「瓶探してこよっと」
そう言ってビン子ちゃんは帰っていきました。割れた瓶の始末は誰がするのでしょうか。
「おガキくん、まだ1ミリも勉強してないから、そろそろやろっか」
目玉も鼻毛も引っ込んだ先生が言いました。
「はい!」
ボールペンでつぼを刺激してもらって元気になったおガキは今日1番の大きな声で返事をしました。そろそろ両親が帰って来る時間です。ちょうどいい頃に、バレない頃に勉強をやり始めましたね。
「この国歌をヒンディー語にして歌えって言うのが⋯⋯って先生、聞いてます?」
おガキは先生がいるはずの左後ろを向いて言いました。先生がいません。下を見ると、先生が倒れています。先生は死んでしまいました。集中していたおガキは先生の倒れた音に気が付かなかったようです。
「おい! すごい音したけど大丈夫か! って痛ってぇ! なんじゃこりゃあ!」
心配した男親が駆けつけ、部屋に入ってきました。男親は瓶の破片を踏んだようで大慌てです。
「お前がやったのか!」
男親がおガキに聞きました。
「チャイマスヨ!」
おガキは否定しました。じきに女親も到着し、家族が揃いました。男親と女親はなにやら相談をしています。
「このままこいつを警察に突き出せば、中学受験落ち第一号にならずに済むんじゃないか?」
「そうね、そうすれば私たちも第一号の親だってバカにされる心配もないものね」
両親はおガキを警察に突き出し、自分たちの体裁を守りましたとさ、めでたしめでたし。
この『狂い昔話』シリーズには他にも面白い昔話がございます。ぜひそちらもご覧下さい。