病ンデル童話選【人魚姫】
グロ・サイコ・殺人・厨二病要素満載ですのでご注意。
「人間の世界は最低だ。海の底の生活こそ、何よりも楽しく素晴らしい」
って、お父様は言うけれど――本当に、そうかしら?
私はそう思わないの。
「人間は私達のおともだちの魚を食べる、とても残酷な生き物なのよ」
って、お姉様達は憤慨するけれど――本当に、そうかしら?
私はそうは思わないわ。
だって、私は見たの。
たくさんの花火の上がった月の綺麗な夜。
盛大にお祝いする大きな船の上で、振舞われるご馳走とそれを食べる人間の王子様。
彼はとても美味しそうに、焼かれた魚を頬張っていた。
その姿に・・・私の胸は生まれて初めて高鳴ったわ。
そして、私は王子様の幸せそうな表情に全てを悟ったのよ。
食べる事は生きとし生けるものにとって、とっても幸せな行為。
食事は幸福に繋がる行為。
それは食べるものにも食べられるものにも、等しく平等に。
ああやって、私達海の生き物は人間に食べられる。
でもそれは決して悲しい事ではないの。
私達は、人間に食べられることによって、彼らに幸せを与える事が出来るのよ!
ねえ、それってとても素晴らしい事だと思わない?
だから私は食べられたい。それに――。
お皿の上で、苦悶の表情を浮かべたままこんがり焼けた魚。
とても美味しそうな「食材」になった「お友達」。
私の中で湧き上がる、嫉妬の感情。
ああ、あなたはなんて羨ましいの!
王子様、どうか私も食べて。
煮るなり、焼くなり、生でもどうぞ。
あなたの食べたいように召し上がれ。
私はあなたに美味しく食べて欲しいの。
水の世界で大切に育てられ、海の秩序に飽き飽きした私が、あなたの舌とお腹を満足させてあげる。
そして私はあなたに食べられて、あなたに幸福を与えるの!
ああ、なんて素敵なの!
想像するだけで心が満たされていくわ!
与えたいという気持ち、与えられたいという気持ち。
・・・これが恋というもの、愛という感情なのね。
でも、王子様に私を食べてもらうには・・・どうすれば良いのかしら?
そうね。まずは、王子様のいる陸に行かないと!
でもこのヒレでは陸に行けないわ。
歩き回るのに必要な・・・なんて言うんだっけ? ・・・あ、足!
2本の足が必要ね!
足があれば、飛び跳ねる事が出来るし、ダンスだって出来る。
そして歩くの・・・なんて言うんだったっけ? そう、道を!
足を手に入れるために向かった先は更に深くて暗い海の底。
私はそこに暮らす魔女と契約を交わす。
契約の内容は3日間のあいだ、私は魔法によって人間の足をもらえるというもの。
そしてその期間に、王子様に私は食べられなくてはならない。
契約を違反をした場合・・・つまり私は彼に食べて貰えなかったら、私は罰として海の泡になる。
魔女の言葉に私は思わず叫んだ。
海の泡になる? それって・・・。
――最高じゃない!
海の泡という事は、つまり海の一部になるという事。
そうすれば私は水になり、やがては王子様の渇きをいやす。
海の一部になって、私はこの身で王子に幸せを与えることが出来るのね。
契約を違反しても、私の願いを叶えてくれるなんて・・・。
ああ、あなたはなんて慈悲深く優しい魔女なんでしょう!
「この海の底以上に素敵な世界は無い。これ以上何を望むんだ」
って、海の生き物達は歌うけど――私は絶対、そうは思わない。
少なくとも、私はね。
待って、王子様。
今、あなたに会いに行くわ。
私以外を愛しても構わない。
私に愛なんてくれなくても構わない。
だけど、ひとつだけお願いよ。
私をあなたに与えさせて。
私の想いを、命を、全てを・・・。
髪の毛一本、骨ひとかけら、うろこ1枚。
残さず、全部、美味しく・・・私をまるごと食べて。
そして私はあなたの血となり肉となり、あなたの中で永遠の命を得るの。
ああ、なんて素敵な世界。
これ以上何も望まないわ。
この世界こそが・・・ロマンチックで素敵な私とあなたのエバーアフターなのだから!