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夜に咲く花

作者: 月丸虎徹




夜に咲く  一面の花は  嫉妬する    



            綿菓子両手に  笑うかげを












「なんですか?これは」


ある少年が先生の書斎の上に置いてあった一枚の紙を見た。


「ん?それは………君は、これをどんな風に詠むかい?」


先生は何かを言いかけたが、途中でやめて問いかけてきた。


「えーっと、………」


僕は思案していると、先生は何か可笑しかったのか笑いだした。僕は恥ずかしくなって、顔を赤らめうつむいた。


「いや、なに責めているわけではないよ。分からなくて当たり前なんだよ」


先生は立ち上がって珈琲を入れて、「いるかい?」と言うが、僕は首を横に振った。


先生はまた、椅子にどっかりと座ると、また質問してきた。


「君は在原業平の歌を知っているかい」

「はい、ちはやふる、ですよね?」


先生はニッコリと笑いながら「本当はちはやぶるだけどねぇ」と言いながら珈琲を一口飲んだ。


「あの『ちはやぶる 神代も聞かず 竜田川 からくれなゐに 水くくるとは』ってどんな意味か分かるかい?」

「えっと、神の時代にも聞いたことがない。竜田川が紅色に水を絞り染めているとは、が現代語訳だから、、意味は………」


うんうん、と先生は目を閉じながら頷く。そして「和歌というのはね」と言い始めた。


「状況想像が必要になってくるんだよ。あとは、知識もかな。竜田川って知ってるかい?」

「…………」


また、僕は顔を赤くしてうつむいた。


先生は「まあ、知らないよねぇ」と半ば分かっていたかのように説明した。


「竜田川っていうのはね、奈良県に実際にある川なんだ。そこは紅葉がとても有名でね……」

「………っ!!だから紅なんですか!?」


僕の突然の大声に先生はびっくりしたように目を大きくした。


「……そうだよ。竜田川一面を赤い紅葉で埋め尽くされる。そんな情景を詠んだ歌なんだ。まあ、実際は屏風に書かれてたんだけどね」

「屏風?」


「そう、屏風。"ちはやぶる"は屏風歌と呼ばれる種類でね、在原業平が屏風に書かれている竜田川を見て、二条の后に向けて歌ったのさ」


僕は感心して頷いた。


しかし、先生は何故か面白くなさそうな顔をして自分の椅子を回転させて一周回った。



「君は、いや、なんでもない」


先生はなにかを言いかけて、またやめた。流石の僕もムッとしてまう。


先生は今度は半周回って、僕に背を向ける。


先生は立ち上がって、窓を開けた。


夜のせいか真夏なのに少し涼しい風が部屋を吹き抜ける。それがなんとも言えず心地よくて、表情筋が緩くなったのが自分でも分かる。


「そろそろかな」


先生はおもむろに呟いた。


なんだろうと考えていると暗い空が色鮮やかに輝いた。


そして遅れること数秒、ドーンという音が耳で響いて反芻していく。


「………花火?」

「そうだよ。さあ、近くで見てごらん」


僕は先生の手招きのままに窓に近づいて、空を見上げた。


暗い空の中では自らが主役だと言わんばかりに個々が主張しあって、みんな輝いていた。







とても美しくて






儚い







一晩の花





僕はチラッと風に揺れている和歌が書かれている紙を見た。


その時、先生は微笑んだ気がした。



 

いかかがでしたか?"ちはやぶる"はご存知の方もおられると思いますが、実は熱い恋愛の歌です。結婚してしまう二条の后に向けて、それでも在原業平自身のあなたに向けての心を竜田川と紅葉で表現しているのです。

今回作った和歌の


夜に咲く 一面の花は 嫉妬する 綿菓子両手に 笑うかげを


は和歌の知識のない私が考えた歌です。プロの方には少々稚拙に感じられるかも知れませんが、私自身の思い、というよりは青春、あるいはそれ以外を表現させていただきました。この和歌をはじめ、この文学そのものが見てくださった方々のほんの少しの支えとなれましたら幸いです。御拝読、ありがとう御座いました。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 儚く消えてしまう花火だから、夜が来ればまた姿を見せることのできる「影」を羨んだのかなと思いました。和歌が好きなので、読んでいて楽しかったです。
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