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葦毛の雄王〜転生の優駿達〜  作者: 大城 時雨
はじまりのかぜ
9/79

9.誓い

用語です


皐月賞

3歳馬しか出走できないクラシックレースにおける最初のGI。

「最も速い馬が勝つ」と言われており、他のレースである「菊花賞」や「日本ダービー」よりもスピードが重視される傾向にある。

ターフに着いた俺たちは、早速走れる準備を整え、騎手の林を鞍上に乗せた。


「どうですか、重くないですか?」


騎手は俺に優しく問いかける。


「ああ、問題ないさ。それより早く走りたいな」


「それは失礼しました。ではどうぞ」


俺は勢いよく走り出した。初めて本物の騎手を乗せて感じたのが、圧倒的な走りやすさだった。


姿勢や騎乗方法はもちろんのこと、手綱(たづな)の握り方や指示の出し方まで全てが完璧だった。特に感心したのは、コーナリングの上手さだ。


普通、競走馬及び人間がコーナーを曲がる時、減速するのがセオリーだ。減速しなければ、勢いを落とせず、中途半端なコーナリングとなり、大回りをする羽目になる。だが、林の辞書には、減速をするという文字はなかった。


林は、コーナーを曲がるその前に、加速しながら外を回る。その後、一気に内を駆け抜ける。これをすることによって、「減速」の逆、「加速」というアドバンテージを取ることができる。これが林を「天才騎手」と呼ばせる理由か、と感心した。


「ここで1800。皐月賞(さつきしょう)なら最終直線です。ここで後続を切りますよ!」


「了解だ!」


俺は最後の力を振り絞り、スパートをかけた。風を切って、前の馬をごぼう抜きしていく。普段、先頭では味わえない、素晴らしい体験だった。


(やはりこの馬、只者ではないですね。僕の作戦を、数秒で理解するだけでなく、それを実行するだけのスタミナもある。三冠をとるんじゃあないか?)


「よっしゃぁ!」


初めて2000mをレース形式で走り抜けた。疲労も少し感じるが、前回の1600よりも全然体が軽かった。俺は改めて騎手に感謝をした。


「いえいえ、こちからこそ貴重な経験をさせて頂きました。ありがとうございます」


「おいおい、めちゃくちゃ速ぇじゃねえか!これなら俺なんか居なくとも大丈夫そうだな」


レースが終わった俺の周りに、おじさん2人が駆けてきた。2人とも表現が難しい程の満面の笑みだ。俺は嬉しい気持ちを抑え、2人に言った。


「ま、問題ないさ。これなら日々の調教も簡単に乗り越えられるからな。それに俺は、レースに勝たなきゃいけない理由がある」


「ん?それはなんだ?」


調教師が上げた口角を戻し聞いてきた。


「俺が走る理由はな、おっちゃんを楽にする事なんだ。俺が手に入れた賞金は、殆どがおっちゃんの手元に行くだろ。その賞金で、俺の可能性を信じてくれたおっちゃんに、その目は間違いないって、伝えたいんだ。そして、おっちゃんの借金を……」


そこまで言ったところで、おっちゃんは俺を静止させた。


「さてと、暗い話はお終いだ。俺はそろそろ帰るから、あとは任せたぞ。俺はお前の腕にかけたんだからな。剛ちゃん」


調教師は何かを察し、無言で頷いた。


「じゃ、俺はこれで失礼するからよ。じゃあな」


そういうとおっちゃんは俺たちに背を向けたまま、戦場を去った。その頬に涙が垂れていたのを、俺は見逃さなかった。その涙が嬉し涙なのか、悲し涙なのか、悔し涙なのか。それは分からなかった。


だけど、その涙が俺の気持ちをより強いものにしたことに違いはなかった。心の中で、今はもう見えないおっちゃんに、こう叫んだ。


「俺は絶対負けないからな! 頂点を取るまで!」

今回もご閲覧ありがとうございました。

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