76.青空の果てに
「な、な、なんと!!! 終わったかのように思われていたシンジスカイブルーが、今、再加速したぁぁぁ!!! 再加速は奇しくも、レイワカエサルやシンジの父『シンジストライプ』と因縁深い『日本ダービー』以来! この馬は、何か持っている!」
みんなの熱い想いや言葉が胸の中で鼓動する。さっきの『全身全霊』も凄かった。が、今回は俺と2号の2人だけじゃなく、何万人の想いが重なっている。その力は果てしないものだ。
俺は何も考えず、熱波に押し進められるように進んでいく。その速度は、歴史上どんな競走馬よりも速いと確信できるほどだ。
「残り150mでカエサルとの差は1馬身! 間に合え! 間に合えー!」
「くそぉぉぉ! なんでまた上がってきてるんだよぉぉぉ! ニート風情が! おかしいだろ!」
ふん、お前もニートだったじゃねぇか。俺と変わらねぇな。
でも今の俺は、あの時から変わっている。みんなを、乗せてるからな。だから俺は、お前に、勝つ!
「上がる上がる上がる! 頼むシンジー! 勝ってくれ! 実況としてこれは良くないのかもしれません!でも、シンジを応援せざるを得ない! カエサルはすぐそこ! 」
残り、俺に残された時間は僅か。俺はさらにギアをあげる。疲労? そんなのねぇよ。
「なんで横にいんだよぉぉぉぉ!」
残り100m。並んだ。隣のカエサルは青ざめた表情で怒号を飛ばす。無様だ。
「いけー! シンジ!」
「シンジ!」
「シンジさん!」
「俺の屍を越えてゆけ! レイワカエサルに勝って、恨みを晴らしてくれ! シンジスカイブルー!」
「「「「「「シンジー!!!!」」」」」」
たくさんの、本当にたくさんの人の声がこの戦場に鳴り響く。俺はそれを聞き、覚悟を決めた。
これで、決める。
俺は全てを切り裂く1歩を出した。
「シンジスカイブルー抜け出した! シンジスカイブルー抜け出した! 来ました来ましたまってましたぁ! 雄王が皇帝を打倒する瞬間、遂に来ました! あの日、日本ダービーから誰も成し遂げられなかった『皇帝の眼前』に辿り着きました! 行け!このまま駆け抜けろ!」
「ちくしょぉぉぉ! 待てぇぇぇ!」
情けねぇ。何が最強だよ。精神が全く成長してねぇ。これじゃ、1番最初のパケットと一緒じゃねぇかよ。
「そ、そうだ! 引き分けだ! お前がここで緩めてくれて、勝ちを譲ってくれたら、あのジジイを助けてやる! お前もだ! だからせめて、俺に勝たせてくれ!」
カエサルはプライドを捨てた命乞いをした。なに? おっちゃんをジジイだと? なめんな
「それ以上この勝負を侮辱するな!」
「!?」
俺の強い言葉がカエサルを撃ち抜く。
「俺たちは、みんなの想いを背負って走っている! 俺がここで負けるのは、みんなの想いを無下にするのと同じ! だから、俺は勝つ! 意地でも、お前から勝ちを奪い取る!」
「く、く、くそがぁあぁぁ!」
粗大ゴミを置き去りにして、俺は栄光のゴールへと向かう。
「シンジ! シンジ! 完全に抜け出した! さあ、勝負を決めてくれ! そのゴールを、雷のような脚で貫けぇぇ!」
「だぁぁぁぁぁぁ!!!」
信念に燃えた心を爆発させながら、俺は勝利の青空へと向かう――
今、俺は優駿のゴールテープを切った。
「シンジスカイブルーさしきったぁぁぁぁ!!! シンジスカイブルーが、かちましたぁぁぁぁ!」
勝った、勝った。俺は、勝った! みんなの想いを乗せて、勝った!
俺は背負っていた重りを下ろし、少しづつ減速する。速度を落としても、熱い心は冷めなかった。最後に、この熱を膨大なエネルギーに変えて、解き放つ事にしよう。
俺は大きく深呼吸して、群青の空へ放った。
「しゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
その声は、どこまでも遠くに届くほど大きかった。その熱は電波し――
「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
会場全体が、大迫力の炎となって、天を焦がした。
「私たちは……こんな素晴らしいドラマを見てよかったのでしょうか……! 刺されて、差し替えして、もう一度刺されて、さらに差し替えす! 大迫力、大熱戦の大レースでした! もちろんカエサルもトップクラスの走りでした! だがそれを葦毛の雄王が、根性で乗り切った……!今はただ、このキセキを讃えましょう……!」
「シンジさぁぁぁぁん!」
林が俺の顔をバンバン叩きながら泣き叫んだ。へへ、鬱陶しいぞ。でも、お前の気持ちも分かる。お前だって、心配だったんだもんな。
戦場は未だ冷めやまぬ。そこに、勝利の旗を立てるように、俺は宙へと頭を掲げた。
ご閲覧ありがとうございました!
もし宜しければブクマ評価よろしくお願いします!




