表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
葦毛の雄王〜転生の優駿達〜  作者: 大城 時雨
クライマックス 勝利の鼓動
74/79

73.有馬記念

「大切なのは平常心ですよ! 焦らず、慌てず、いつものように行きましょう!」


林の威勢のいい掛け声に俺は心で頷く。有馬記念は2500m。日本ダービーとほぼ同じだ。だからリードも……5馬身位でいいだろう。


歓声を受けながら、俺は少し飛ばして後ろに大きくリードを取ろうとした。が、いつもなら聞こえなくなる足音が、いつまでたっても止まない。俺は後ろを少し振り返る。そこには、鬼神のごとき表情で俺の1馬身後ろを進む、ナイトオルフェンズがいた。


「君に勝つにはこれしかないと思ってね!」


ナイトはそう笑顔で言った。おもしれぇ。そっちがその気なら止めねぇよ。


「さっそく面白い展開になっています! いつも通りシンジスカイブルーは先頭! ですが、その後ろナイトオルフェンズがピッタリとマークしています! 注目のレイワカエサルは現在8番手。最後方3番人気コガネスターロード!」


ポジションはあらかた想定通り。後は『全身全霊(ビヨンド・ザ・ホライズン)』をどこで使うかだな。そんな事を考えながら、俺は緑で舗装された勝利の道を突き進む。


「うぉぉぉぉ! シンジぃぃぃ!」


地響きのような声援が俺の心を揺らす。そうか、もうスタンド前か。この歓声は、いつ聞いても気分がいいもんだ。


「頼むぅぅぅ! あの皇帝を! レイワカエサルを倒す雄王になってくれぇぇぇ!」


色とりどりの様々な声が響いては消えていく。だが、その多くは俺を鼓舞するものだった。オッズだけで見ると、俺はスーパーアウェイだ。それなのに、中山は俺の味方で溢れている。みんな、俺の勝ちを信じて駆けつけてくれたんだ。ありがたい。


俺は少しペースを落とし、冷静に地面を蹴った。


その後もレースは澱みなく進行し、俺は向正面中盤に入った。仕掛けてくるなら、このタイミングからだな。とてつもないロングスパートになるが……あいつのスタミナなら不可能ではない。


「おおっ! かなり早い段階でペースを上げましたコガネスターロード! 最後方から先頭目指してぐんぐんと進んでいきます! 菊花賞の再来を、ここ有馬の舞台でも見せる事ができるのか!」


「ロングスパートかけてきましたね、コガネスターロード!」


林がそう唸った。俺の位置から最後方まで、およそ15馬身の差がある。だが、それだけ離れていても、あいつの重い足音は響いていた。


「さぁ、ちょうど先頭シンジスカイブルーが第3コーナーを抜けようかという所! 既にコガネは3番手フリードギアを捉えました! シンジとの差は約7馬身!」


力強い音がどんどんと近づいてくる。実際はかなりの余裕があるのだろうが……それでも油断出来ない。なぜなら俺の相手は……レイワカエサルだからな。


そんな事を思いながら、俺は走り続ける。気づけば、もうすぐ最終コーナーだ。俺は息を入れ直し、昔から愛用してきた『あの技』の準備をする。それに……全身全霊(ビヨンド・ザ・ホライズン)を使わなければ、2号とのシンクロは長時間することが出来る。カエサルが来るまではこれで凌ごう。


「さぁシンジスカイブルー最終コーナーに差し掛かる! いつものあの技が見れるのだろうか!」


「いくぞ2号! 林! 『インコーナー加速』だ!」


「「おう!」」


俺は身体を内に傾ける。そして、自分の持てる全ての力を使って、精一杯脚を回した。


「来い! 2号!」


俺のスピードが最高潮に達した時、2号が隣に来たような感覚を手にした。シンクロが起こったのだ! コガネが扱う100%には敵わないが……時間稼ぎにはなる!


「シンジスカイブルー勝負をつけに来た! だがコガネスターロードはすぐ2馬身後ろに来ているぞ!……今、ナイトオルフェンズを抜かしました!」


「くそ……僕だってシンジくんに勝ちたいのに……!」


「悪いな……でも、俺にも負けられない理由がある!」


後ろで、ドスの効いたコガネの声が聴こえた。まだ最後の直線に達していないのに、もうこんな所か……さすが、コガネだな。


「俺は負けねぇぞ! お前にも! カエサルにも!」


俺は気合い全開で走り続ける。だが、コガネの足音は徐々に迫ってきていた。


「そろそろ……『あの技』を使うべきか!」


俺は心の中で、『全身全霊(ビヨンド・ザ・ホライズン)』を使用するという選択肢が出てきた、その時だった。俺たち2頭の足音に、おかしな音が割り込んできた。まさか……この音は……


「遂に……遂にだ! 今までずっと眠っていた獅子が今、目を覚ました! レイワカエサルです! 皇帝の獅子が、我々がシンジやコガネに集中している間に、ぐんぐんと伸びてきました!」


「やぁ、ごきげんよう♪」


その音の主は、レイワカエサルだった。おかしい……さっきまで後方にいたはずなのに! コガネを抜かしてここまで来るなんて!


「我々は決して、彼を忘れていたわけではありません! だが、これが彼のスタイル! バレない内に忍び寄り、一気に頂点を奪ってしまう! ハゲタカのような戦法! 最強すぎる!」


「やっぱり君たち……遅いねぇ」


カエサルはムカつくような声で言った。


「方やロングスパートを掛けたところで一瞬で俺に抜かれるダメ馬? 方や本気のシンクロを2秒しか出せない半人前? それで俺に勝つとか、笑わせんなよ」


くっそ。シンクロが解けないよう必死に無視してたら……調子乗りやがって……


「やってみなきゃ……わかんねぇだろ」


「またそれ? もう飽きたよ。もういい、飽きた。じゃ、このまま終わらせるね」


レイワカエサルはそう言うと、おもむろに前を向き直した。


次の瞬間、弾丸が風を切り裂いたかのような、凄まじい突風が肌に触れた。レイワカエサルだ。あいつの走りが生み出した風だ。そうだ、あいつは全然、本気なんて出してなかったんだ。もしかしたらこれも……本気じゃないのか?


「速い! 速すぎる! コガネスターロードの前に位置していたシンジスカイブルーさえもすり抜け、1位に躍り出たぞレイワカエサル! 2頭の若武者も打つ手なしかー!」


レイワカエサルはスピードを落とさず、ぐんぐんと進んでいく。カエサルが最終直線の入口に辿り着いた頃には、もう1馬身の差が着いていた。これ以上……好きには……させらんねぇな。


「やるしか……ねぇよな」


俺は覚悟を固める。ここだ、2秒しかない『俺の本気』を使うべきところは。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ