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葦毛の雄王〜転生の優駿達〜  作者: 大城 時雨
クライマックス 勝利の鼓動
70/79

69.全身全霊

後数話で終わります

「え……?」


俺は驚嘆の声をあげた。なんで、なんでただの競走馬がそんな事出来るんだ。


「俺も詳しい事は分からないが……知ってる事だけでも情報共有しないとな」


コガネはゆっくりと話し始めた。


「あの日、『もう1人の俺』と精神を統合した日……俺の頭の中に、何者かが話しかけてきたんだ。それが、レイワカエサルだった」


「頭の中……」


俺はある事を思い出す。そうだ、初めて2号に会った時に語っていた「頭の中で声が響いた」ってやつ、これと同じじゃねぇか? つまり、あの時に2号に話しかけていた奴ってのは、レイワカエサルだったのか!


「あいつは俺に祝福を送った。おめでとう、お前は力を手に入れた、と。そして更にあいつは……」


「「お前が転生した原因は、俺にある」と言った」


「な、なんだと……? 一体、何のために……?」


「俺にも分からない……でも、俺の人生を自分の都合で奪い、無理やり馬に転生させた。こればっかりは許されない……俺には、家族がいたのに……!」


コガネは氷水も沸き立つような、憤怒の視線で地面を踏みつける。そうだ、俺以外の転生者……リュウオーやアースガルド達にも家族や友人、大切な人がたくさんいたはずだ。俺はまだ軽傷だったものの……愛する人を残していく気持ちは、悔やみ切れないものがある。


「頼む、シンジ。俺に、協力してくれ。あいつに一泡吹かせなきゃ、やってらんねぇよ」


コガネは訴えかけるように話した。言われなくても、そうするさ。


「もちろんだよ」


「シンジ……!」


俺らは共に見つめ合い、巨悪への想いを固めた。


――


「おー、どうだったー!」


コガネの調教師と話をしていた、うちの調教師が帰ってきた。俺はコガネに聞いた話をそのまま伝えた。


「……そうか。そんな事が。なら、絶対に負けちゃいけねぇな。……勝てよ」


「もちろんだ」


調教師は頷き、車へ向かって歩み出した。


「そういや、アカガミリュウオーの所は行かなくてよかったのか? お前もあいつも大切なレースで負けた身だし、励ましてやれるんじゃないかなと思ったが……」


調教師は俺に歩きながら話しかける。


「ああ。多分、俺があいつを励ます上で一番必要なのは『レイワカエサルに勝つこと』だと思う。俺はあいつを目標に、ずっとずっと走ってきた。今度は、俺があいつの目標になる番だ。俺は、あいつから何かを聞いたわけでもねぇ。でも、分かるんだ……ライバル……だからな」


俺は少し感傷的になってこう言った。俺も、行きたいな、とは思ったし、行ってやるのもいいと思った。だけど、心のどこかで「あいつを信じてしまった」んだ。あいつは、俺の言葉なんて要らない。あいつはレースだけに生きる男、と。


「なるほどな……了解。じゃ、さっさと帰るか! また明日から調教があるからな!」


調教師は元気にそう言った。沈む夕日に照らされたその顔は、眩しく輝いて見えた。


「おうよ!」


――


「……2号、いるか?」


厩舎に着き少し経ったころ、俺は2号に話しかけた。


「どうした? 1号」


2号はあっけらかんとした顔で出てきた。どうやら、メンタルは回復しているらしい。俺と2号は心で繋がっているからな。俺のメンタル回復に合わせて、少し元気になったのだろう。


「今日の話の事なんだが……」


俺がそう言うと、2号は少し怪訝な表情をした。やはりレースは少しトラウマになっているか。しょうがない。まだまだ経験が浅いからな。


「正直、あの負けは俺のせいでもある。冷静さを欠いて、結果としてあんな負け方になってしまった。それと、俺も少し……心のどこかでお前を信じきっていられなかった……」


「ボクも……同じだ。 いくら1号が強いからと言って、やはりどこかよそよそしい態度で接していたのかもしれない」


2号は暗い声でそう言った。


「そこでだ! ここでいっちょ、俺らを『ベストフレンドを超えた存在』にするために、『本音大会』を行おうと思う!」


「は?」


2号はいかにもバカそうな顔で言った。そうそう、その顔! その顔にさせてやりたかったのよ!


「まず俺のターン! お前、食い意地張りすぎ! 俺には俺のペースがあるんだから、頭ん中でごちゃごちゃ言うな!」


俺は普段言えないような悪口を言った。「心の合成」なんて難易度の高い事をやるには、いきなりじゃダメなんだ! まずは緊張を解して……


「……ふーん、なるほど。分かったよ。次はボクのターンだ!1号のトレーニング、危なっかしいんだよ! ボクの身体でもあるんだから、もっと安全にやって欲しいね!」


2号は笑いながら不満をぶつけた。よし、乗ってきたな。


「なにをー! それだったらお前も……」




こんな流れが1時間弱続いた。互いに互いの不満を言い合って、笑いながら反抗する。上っ面だけの友達ではなく『真の友達』になるのなら、不満ぐらい言い合えないとね。周囲のみんなにはうるさかったかもしれないが、許して欲しい。勝つためだ。


「ふー、言い切ったー! じゃ、最後に俺から1ついいか?」


「ん? どうぞー」


2号は軽くそう言った。そろそろ、本題に入ってもいい頃だろう。


「俺に、『2号が走る本当の理由』を教えてくれ」


「ボクが走る、本当の……理由?」


2号はキョトンとして言った。


「ああ、そうだ。前にお前は言ったよな。俺と一緒に走りたい、って。でも、それはお前の本心では無いと思う。人のために尽くせる男ってのは、聖人かなんかだろう。つまり、お前にも『本当にしたいこと』があるはずなんだ。それを……教えてくれ」


俺は2号の目を真っ直ぐ見つめて訴えた。2号は何かを言いたげな表情だが、上手く切り出せないみたいだ。


「俺は、何も思わん。ただ、お前を受け入れるだけだ」


俺は2号を安心させるために、優しい言葉をかける。それに反応したのか、顔が少しだけ綻んだように見えた。


「ボクは……ボクは……本当は、ボクが走って、ボク自身が勝って称賛が欲しい! 1号じゃなくて、ボクが勝ちたい! 1号のアシストじゃなくて、『ボク自身』が勝ちたいんだ!」


2号は叩きつけるように叫ぶ。


「いいぞ! その言葉が聞きたかった!もっと!もっと!」


俺は2号を焚きつける。


「今のボクはまるで、1号の強化アイテム……! いや、ボクは本当はそんなんじゃない! ボクは、1頭の競走馬なんだ!ボクだって、勝ちたいんだ!」


「いいぞいいぞ!」


俺も同じだ。おっちゃんのため。リュウオーのため。コガネのため。想いをくれたみんなのため。いろんな『ため』があるが、1番は『自分が勝って、喜びたいため』だ。それが心の本質にある。そう、俺たち勝負師は『勝ちたい』んだ。


「ボクは、勝つ!」


「もっと!」


「勝ちたいんだ!」


「はいもっと!」


「称賛が欲しい!」


「そうだ! さぁ2号! 自分の想いや悩み、全部ぶちまけて! 勝ちたいと言うんだ!」


俺たちは目を合わせ頷く。そして、息を合わせ……思いっきり叫んだ。


「「俺たちは、かちたいんだぁぁぁぁ!」」


俺たちがそう叫んだ瞬間、頭の中に閃光が走った。前の中途半端なシンクロなんか比じゃないほどの、もっと大きな閃光が!


「お、お、おおおおお!」


俺が声をあげるのも無理は無い。2号の考えが、想いが、全てが。俺の「中」にあるんだから。


「あ!」


だが、それはそう長くは続かなかった。気づけば、いつの間にか2号が心の中から出ていってしまっていたのだ。


「ほんの2秒……10秒にも満たない時間だったが……これは……」


俺は2号を見つめる。


「うん……コガネが言ってた『魂の合成』が出来たんだよ!」


「う、う、」


「「うぉっしゃぁぁぁぁぁ!」」


俺たちは感極まって、大きな雄叫びをあげた。


「こんな夜分遅くに、一体どうしたんです!? シンジさん!」


あまりに俺の声が大きかったのか、偶然厩舎の近くを通りかかった林がすっ飛んできた。


「いや……遂にな……成功したんだよ……! 本気の本気。俺の最強形態……『全身全霊(ビヨンド・ザ・ホライズン)』が!」


「それは本当ですか!!!!???」


林は俺たちと同じように喜び、発狂し始めた。喜び具合ではお前の方がやばいぞ。しゃあないな、いい馬に乗ることを生き甲斐としてる奴だから。


「俺、ちょっとシンジさんが心配になって見に来たんですよ! でも……心配は不要だったようだ!」


「おう、もちろんだ! 生まれ変わった俺たちの走り、レイワカエサルに見せてやろうぜ!」


「ええ! 絶対に取りますよ!有馬記念!」


その後も、俺たちと林は喜びを爆発させまくった。まぁ、『全身全霊(ビヨンド・ザ・ホライズン)』2秒しか出せないんだけどね。

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