60.覚悟合わさり力となる
実はこの三連休、もう1話用意してたんだよね〜。
ま、力入れようとして投稿出来なかったけど。
その分面白くなってるはずだから、読んでみて!
「ふふ、やっぱり君は――1号はさすがだね。ほら、さっきみたいに叫びなよ。今度は、歓喜の叫びだけど」
「おう!」
2号は笑顔で語りかけた。俺の目の前に、2号がいる。それも、現実世界で。俺は本当に嬉しかった。そして、2号に乗せられるように、俺は歓喜の雄叫びをあげた。
「よっしゃぁぁぁぁ!」
「シンジさん!もしかして……もう1人のシンジさんに会えたんですか!?」
その雄叫びを聞いた林は、驚きと喜びの交じった顔で俺の元に駆け寄ってきた。俺はそれに、とびきりの笑みで返した。
「ほら!ここにいるじゃないか!」
俺は目の前の2号を指さす。林はその方向に目を向けた。
「……?何もいませんけど」
俺は耳を疑った。俺の目の前には、本当に2号がいるんだ。俺は1度目を離し、再度2号を見た。やはりそこには2号がいた。むむむ、これはどういうことだ?
「もしかしたら、1号以外には声も姿も分からないのかもしれないねぇ」
2号が穏やかな口調で言った。なるほど、その可能性もあったな。もしそれが本当なら、林に見えないのもしょうがない。俺は林に聞いてみることにした。
「なぁ林、さっき、もう1人の俺が喋っていたんだが……なにか聞き取れなかったか?」
「いいえ?さっきからシンジさんの声しか聞こえてませんけど」
林はとぼけるような様子もなく、ただただ自然にそう言った。これは、ビンゴかもしれない。そう思った俺は、今起こっていることと、2号について話した。
「なるほど……つまり、2号さんはシンジさんの中にのみ存在すると言うことですね?」
「まぁそういうことだな」
そういう事ですか、そう言いたげに、林は首を横に傾けた。まぁ、信じられなくてもしょうがない。照明のしようがないからな。
「おーいシンジー!どうしたんだー!」
騒ぎを聞きつけた調教師が、見事なクロールをしながら近づいてきた。鍛えられた肉体も相まって、さながら1種のライフセーバーのようだった。
「遂に、遂にもう1人の俺、「2号」に現実世界で会うことが出来たんだぜ!」
それを聞いた瞬間、調教師は今までの固い顔を崩し、パッと笑顔になった。ここ最近、調教師はやけに顔が怖かったからな。いつもの表情に戻ってよかったぜ。
「で、その「2号ちゃん」はどこにいるんだ?俺、見えないんだけど」
やっぱり、調教師も林と同じなのね……しゃあない。もう1回説明すっか!
「ほーん、なるほどな!そりゃおもろい!」
意外なことに、調教師はすんなりと俺の言葉を受け入れた。多分、俺と関わっている内に、摩訶不思議なことに慣れちまったんだろうな。まぁ、そっちの方が好都合だけど。
「じゃあ、滝行成功記念と、菊花賞勝利を祈って――」
「宴だー!」
「「やったー!」」
俺達は一目散に川から上がった。うったげ♪うったげ♪何が食べれるのかなー!せっかくだから、林家のコックが作ったスペシャル料理とか!?どっかに食いに行くっていう選択肢もあるよな!あー、早く食いてぇぜ!
「お待たせ!ほら、見ろ!」
調教師が大きな音を立てて何かを置いた。俺はそれを覗き込むようにして見た。
「これは……イワナか?」
そこにあったのは、丸々太った川魚だった。少なく見積っても、10匹はいるぞ。
「そうだ!イワナに、ヤマメに、アユ!ぜーんぶ、お前らが滝行している間に釣っといたんだぜ!もちろん、漁業権も購入済みだ!」
俺は再び魚たちをまじまじと見た。まだ採れて日が浅いからか、みずみずしく、目は透き通っていた。うん、これは美味い!そう確信できるほど、美味そうな見た目をしていた。思わず、ヨダレが垂れてきそうだ。
「なぁ1号。これってそんなに美味しいの?」
今まで俺の隣で黙っていた2号が質問した。そうか、魚なんて、見たことないよな。?俺の記憶にあるのも全部調理済みのほぼ調理済みのやつだし。そもそも、川魚はあんまり食べなかったからな。
「ああ、うめぇぞ!超絶うめぇ!これを食いながら酒を飲んだら……最高だな!」
俺の高揚に、2号はニコッと笑う。さながら、親の成功を喜ぶ子供のようだった。こういう純粋な所が、可愛かったりするんだよなぁ。
「でもさ、今の1号は馬なわけじゃん」
「うん」
「肉なんて、食べれるの?」
……あ。
「食べれねぇじゃあねぇかぁよぉぉぉ!」
俺の気持ちは一気に沈んだ。ちっきしょー、食いたかったのにー!
「シンジ、調子はどうだ?」
手に魚の塩焼きを持ちながら、調教師が話しかけてきた。けっ、美味そうなモン食いやがって!
「別に。普段と変わらねぇよ」
俺がそう言うと、調教師は苦笑いしながら魚を食べ始めた。市販の人参でもいいから、買ってきてくれれば良かったのに……俺は少し拗ねていた。
「まぁいいや。……さて、シンジ。1つ、俺の話を聞いてくれるか?お前と俺の、サシでしか話せない話だ。林が実家に行ったから、チャンスだと思ってな。」
調教師は落ち着いた声でそう言った。いきなり声のトーンを落とすものだから、俺はちょっと驚いた。だが、あの明るい調教師をこんな状態にするなんて、きっと何か大きな理由があるに違いない。そう思った俺は、黙って話を聞くことにした。
「……そうか、ありがとう。俺が話したいのは、まこっちゃんのことについてだ」
調教師は穏やかな口調のまま語り始めた。
「お前の活躍。そして、ナイトやパケットの活躍で、今や晴空牧場は、世間から注目される牧場となった。だけど、収入自体はあまり増えてないんだ。お前らが頭角を表してきたのはせいぜい半年から8ヶ月前だろ?その時期には、もうセレクトセールは終わっちまってる。庭先で儲けるって手もあるが……あまり売れてないようだ。そもそも、繁殖牝馬の量が少ないからな……」
「そしてなにより、借金が重たすぎる。これだけシンジが勝ちまくっても、完済することは未だに出来ていない。普通なら、何とかして期限を引き伸ばし、シンジの賞金が十分得れるまで待つことが出来る。でも、今回は借金を作ってしまった相手が悪すぎた。その相手は「エクリプスグループ」だ」
「エクリプスグループ……」
俺はその名をよく覚えている。エクリプスグループは、日本最大級のクラブ馬主だ。日本の有力馬を数多く所持し、この日本競馬のドンと言っても過言では無い。でも、なんでそこに借金を?そして、何が問題なんだ?
「エクリプスグループは、零細牧場を救済するっていう名目で、色んな所に多額の資金を貸してんだ。一見いい感じの慈善事業に見えるだろ?でも、違うんだ。こいつらの真の目的は、イメージアップでもなく、自己満足でもなく、「零細牧場の支配」なんだ」
支配……俺は戦慄した。確かに、今の競馬界はエクリプスグループが権力を握っている。だが、そんな野望を持っているなんて、全く気づかなかったからだ。きっと、ほとんどの人が知らないだろう。知っているのは、極わずかの知識人だけ。そう、零細牧場と関わるような。
「いくら膨大な資金を与えたところで、力の少ない零細牧場が発展するなんてことは、無いに等しい。そこをあいつらは狙ったんだ。無理に返済期限を決めさせて、払えないようならその牧場を差し押さえる。そして、その牧場を無理やり自分のものにする。これがやつらの狙いであり、まこっちゃんが引っかかっちまったことだ」
「そんなことが……」
おっちゃんは、俺の前ではあんなに明るく振舞っていたけど、本当はこんな苦しい状況にいたんだ。そんな素振り一切見せないものだから、分からなかった。
それに、俺をどこかしらの研究機関に売っちまえば、少なくともその借金は返せたはずだ。それなのに、それなのに……おっちゃんは俺を売ろうとしなかった。自分の牧場を奪われることを覚悟して、一か八か、俺に夢を託してくれたんだ。そう思うと、俺は胸が異常に苦しくなった。
「まこっちゃんは、馬鹿だけど……すっげぇ馬鹿だけど……めちゃくちゃ良い奴なんだ!そんな愚直で真面目な男の牧場が、金持ちのエゴに使われてしまうなんて、あってはならない!まこっちゃんは、ただ純粋に「馬が大好き」っていう理由だけで、厳しい環境の中で活動していたんだ!そんな馬好きの男の夢を奪って……何が楽しいんだよ!」
調教師は地面に向かって泣き叫んだ。地には涙が落ち、叫びは木々を揺らす。その様子は、魂の叫びそのものだった。本当に友のことを思っていないと出ない言葉の数々。俺は、それをただ黙って見ていた。2号も同じだった。
「だからさ、シンジ。お前には、絶対菊花賞に勝ってほしいんだ。支払い期限は、ちょうど菊花賞の一日後。金額は、菊花賞1着の賞金で事足りる。シンジ、お前はいつも、「まこっちゃんを助ける」って言ってくれてたよな。……頼む、勝ってくれ。勝って、まこっちゃんを救ってくれ。俺達に、最後の夢を見せてくれぇぇぇ!」
調教師は懇願するように跪いた。こんな調教師、見たこと無かった。そう、こんな調教師は。
俺の心は、燃えていた。さっきまでの胸の苦しみは、心の炎へと変わっていた。絶対に勝ちたい。その思いしか存在しなかった。俺は2号の方を向く。
「大丈夫、ボクも同じ気持ちだ。ボクも、勝利しか見えていない。ボクたちの心は1つだ」
そう言って、2号はくしゃっと笑った。そうか、よかった。この場には、勝ちたいと思うやつしかいない。そう確信した俺は、ぽんと調教師の肩を叩いた。
「任せろ、調教師。俺は絶対に勝つよ。俺がこうやって走れているのは、おっちゃんのおかげだからな。恩人を救わなきゃ、雄王の名が廃れるってもんよ!」
「本当か……!ありがとう……ありがとう……!」
調教師は顔を上げ、縋り付くように何度も何度もお礼を言った。
「おいおい、泣くなって。それに、俺を誰だと思ってんだ?」
「え?」
「俺は」 「ボクは」
「「時代を切り開く雄王、シンジスカイブルーだ!」」
俺たちは声高らかに宣言した。調教師の曇った顔が、みるみる晴れていく。雲を切り裂き、顔を出す太陽のように、その顔は光輝いていた。
「……そうだな!お前は「シンジスカイブルー」だもんな!お前が負けるなんて、あるはずがない!俺が馬鹿だった!すまんな!」
調教師は笑顔でそう言った。俺たちは無性に嬉しくなった。今まで立ち上がらせてもらっていた存在の人を、自分の言葉で助けることが出来たからだ。この喜びは、何事にも変え難い。
「よっしゃ!気を取り直して宴の続きだ!」
俺は嬉しいような嬉しくないような、微妙な顔をした。だって、食うもんがないからなぁ……
「おーい、シンジさーん!お待たせしましたー!最高級人参、貰ってきましたよー!」
「お、まじか!」
後ろから人の声がした。振り向くと、そこには両手に袋詰めにされた人参を抱えた林がいた。やった!これで俺も飯が食える!
「じゃあ、仕切り直しといきますか!」
俺達4人は焚き火を囲みながら笑いあった。その声は、信じられないほど青い、雄大な空まで届いていた。
やっと書けた…
ちょい疲れちまいましたよ。やっぱ長文書くのは慣れんねぇ…
この労力に免じて、評価ブックマークしてくれたら嬉しい!気力に繋がるんだなぁ〜




