58.始まる!夏の特訓第二弾!
うぃぃーす!どうもー時雨でーす!
この活動が部活でバレました!でも気にしない!
彼女と撮った動画とかバレてるやつもいるし!俺はノーダメージ!
「んん……」
外の光で目を覚ました。どうやら、あのまま眠ってしまっていたらしい。俺は身体を起こし、立ち上がった。時計は6時を指していた。
「おはようシンジ。よく寝れたか?」
前を向くと、そこには調教師と林がいち早く準備をして待っていた。俺は頷き、急いで準備をしに向かった。
「さてと、今日から本格的に「滝行」を行っていく訳だが……初めは俺の元で調教を行うぞ!」
コースに着いて開口一番、調教師は言った。俺たちは黙って頷いた。
「シンジ、お前はこれから3000mという長丁場を戦い抜く訳だが、長距離レースにおいて、最も大切な事はなんだ?」
「そりゃスタミナだろう。いくら強いエンジンを積んだスポーツカーでも、ガソリンがなきゃ走れねぇ。後は足腰の強さかな。菊花賞や天皇賞・春か行われる京都競馬場には「淀の坂」と呼ばれる特徴的な坂がある。ここを2回登りきるためには、力強さは欠かせないだろうよ。」
「その通りだな」
調教師は笑顔で言った。へへ、何年競馬やってたと思ってんだ。
「シンジのスピードやキレは、世代最強と言っても差し支えない。だが、3000m、そして京都競馬場という未知の舞台でその能力が発揮できるか……そこが少し心配なんだよな。だから、スタミナと足腰、この2つを強化したい。で、それらを強化するのにうってつけなのが……」
「坂路ですね」
林の言葉に、調教師は笑顔を浮かべた。なるほどね。坂路調教をやらせたかったから、1日ずっと滝行するってのは避けたかったのか。理解したぜ。
「じゃ、早速行きましょうか!滝行の時間を長くするためにも、ちゃっちゃと終わらせっぞ!」
そう言って、調教師は坂路コースへ走り出した。俺たちはそれを追うように走り出す。全く、調教師は騒がしいやつだ。でも、そこがいいんだけどな。
――
「……よし、これで坂路はおしまいだ!よく頑張ったな!」
「へへ……ちょこぉーと疲れたが、こんぐらいへっちゃらだぜ!」
超絶大特訓を乗り越えた俺の身体は、自分で思うよりも鍛えられていた。今までの俺ならば、坂路で体力の60%くらいは持っていかれていたはず。それが今では、多少の疲れはあるものの、まだまだ涼しい顔ができてしまう。体力という面では、間違いなく上がっていた。
「じゃあ早速、滝行に行きましょうよ!」
林はワクワクしたような顔で言った。まるで、自分の成果を親に見せたい子供のようだった。やっぱり林も、まだまだ19歳なんだなぁ。
「おう!……と言いたいところだが……。俺、その滝がある道わかんねぇぞ。わかるやつ、お前しかいねぇんじゃねぇか?」
調教師よ、その通りだ。林家の私有地にある滝なんて、俺らは知らんぞ。俺も調教師に同調すると、林はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「ああ、それなら心配ありません。既に使いの者を読んでありますので」
林が指をパチンと鳴らした途端、どこからともなくスーツを着た男二人が現れた。林は二人を労い、そのままどこかへと立ち去らせた。
「彼らは俺の家の使用人。車を運転してもらうために呼びました。馬運車は既に用意してあります。さ、早く行きましょう」
「「お、おう」」
俺たちは唖然とし、力のない返事しか出来なかった。どんだけ金持ちなんだよ!林!
――
「着きましたよ」
林に促され、俺は車から降りた。眠気が残る目に、光が入り込む。目をぱちくりさせながら、俺は辺りを見渡した。
そこは大自然だった。木々は生い茂り、草花は咲き誇る。四方八方から鳥のさえずりが聞こえ、川のせせらぎとのコントラストを生み出している。普段ならありふれている、コンクリートで舗装された道が、逆に不自然だった。
「林。ここ、いい所だな……」
俺の言葉に、林は微笑み返す。
「ここは、俺のお気に入りの場所なんです。辛いことがあったり落ち込んでる時に、よく使用人の方に連れてきてもらってまして。心が安らぐんですよ。ここにいると」
「なるほどなぁ」
「さ!さっさと滝行しますよ!今日は初回なんで短めに1時間で!もちろん休憩も挟みますけどね!」
「い、1時間……」
ネットのサイトでは最長でも5分って書かれてたのに……休憩挟めば、行けるのか……?
――
「ぐわわわわわ!」
「シンジさん、意識を集中させるんです!そうすれば、痛くも痒くもありませんよ!」
林は俺をそう叱った。完璧に舐めてたぜ、滝行を。いろんな作法があることも知らなかったし、滝行がこんなに辛いとも思ってなかった。完全に、リサーチ不足だ!
「おいシンジ!甘えたこと言ってんじゃねぇ!滝に打たれるだけが滝行じゃねぇんだ!さっさと俺直伝の念仏を読みやがれ!」
調教師も俺を叱る。ちっくしょー!自分だけ滝つぼで優雅に泳ぎやがって!でも、これも修行だからな。俺はそう割り切って、調教師直伝の念仏が書かれた紙を見た。
「えーと、なになに?「菊はー絶対勝ちたいなー 勝ってーうめぇもん食うだー みんなー幸せなりたいなー」だって?」
「いやこれ……調教師の願いじゃねぇか!念仏じゃねぇじゃん!」
俺はあまりのくだらなさに大きな声を出してしまった。いやいや、こんなの読んだら誰だってツッコミたくなるよ。だが、この行動を取ったのは間違いだった。特製念仏を馬鹿にされたと感じた調教師が、綺麗なクロールをしながら近づいてきたからだ。
「こぉぉぉぉらぁぁぁシンジぃぃぃ!誰の念仏がゴミだってぇぇぇ!?」
「いやいや、そんな事……」
「おぃぃぃ!だぁれが念仏を止めていいって言ったァ!?」
「って!」
調教師は手に持っていた木の棒で俺を叩いた。木刀代わりか。全く、調教師は本当に怒ると手が付けられない……
この修行、超絶大特訓よりきついかも……
ちなみに、エッセイも投稿してるんだぜ!
そっちの方が売れてるんだぜ!(ランキング2位)
悲しいなぁ…




