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葦毛の雄王〜転生の優駿達〜  作者: 大城 時雨
はじまりのかぜ
5/79

5.決戦 スーパーパケット

「け、ケジメをつけるって、何をするんだ慎二」


おっちゃんは明らかに動揺している。そりゃいきなりこんなこと言われたら、困惑も動揺もするわ。俺はおっちゃんに答えた。


「なに、これも調教の一環ですよ。(あわ)せ馬です。併せ馬で奴にケジメをつけさせます」


「ほう、併せ馬か。そういえばうちは騎手が少ない(ホントの騎手がいない)からやってなかったな。入厩前なら、いいかもしれない。だが、そのケジメをつけさせたい相手って?」


ナイトが心配そうに見ている。そうだな、みんなは俺が人と話せるの知らないもんな。ま、見てろよ。俺はナイトに話しかけた。


「俺が今からパケットに見せてやるよ。これまで努力してきた者の力ってモンをなァ!」


他の馬がざわつき始めた。それと対照的にナイトは無言でうなづいた。それを確認して、俺はおっちゃんに言った。


「パケット、スーパーパケットだよ。あいつがここでいちばん速いんでしょ?だからあいつは調子にのってる。もう消えたけど、あいつには初対面で蹄の跡をつけられたからな。あいつの為にも、俺の得意分野を知るためにも、やっとく必要がある」


「そうか、なるほど、パケットか。いいだろう。やろうじゃないか。あいつにも、慎二にもプラスになるはずだからな。あいつがほんとに調子に乗ってるなら、買っていただいた馬主さんに失礼だからな」


よっしゃ、そう来なくっちゃ。まただ、またこの感覚だ。あの胸が熱くなる、あの楽しい感覚がまた来た。俺が人間の時には感じれなかったこのワクワク。俺はやはり、ここにこれて幸せだッ!















「ではこれより併せ馬を行う。芝1600、ゲートは簡易的なものを使う。パケットの騎手は澤井、慎二の騎手は俺が行う」


おっちゃん騎手できたんだ……厩務員は知ってたけど。ん、おっちゃんが俺を呼んでいる。作戦伝達かな?


「なぁ慎二、お前はどう走りたい?」


おっちゃんの含みのある声は、北風が吹くレーストラックでもよく聞こえた。


「とにかく逃げる! 逃げまくって逃げまくって、地の果てまで走る! そして、あいつを完膚なきまでに叩きのめす!」


おっちゃんは、優しい笑顔を作った。人の考えを否定せず、馬鹿にする訳でもなく、尊重を持っている。それは正しく、父の顔だった。


「ああ、俺もそれがいいと思う。お前は馬体が大きくないからな。とにかく大逃げだな!」


俺は首を縦に振り、ゲートに入った。そこで、パケットが話しかけてきた。


「は! 誰かと思えばあの逃げた馬じゃねえまか。お前なんか相手にならないぜ。シンジが父なんてな! キングに勝てると思うなよ?」


とても挑発的な声だ。ムカつく。話し方が気に入らないのはどっちだよ。


「どうだかな。お前が逃げる俺に追いつけず、泣く姿が目に浮かぶぜ」


「今のうちに言っとけよ」


捨て台詞を聞いたあと、俺はゲートを向いた。おっちゃんが背中を撫でる。


「ゲートが開いたら思いっきり走れ。それこそ誰も追いつけないようにな」


耳元で、誰にも聞こえない距離でそう言った。任せろ、誰も近づけないさ。


「今だッ!」


ゲートが勢いよく開いた。その風を受けた時、俺は駆け出していた。


「パケットのペースなんて気にするな。お前は何も考えずに走れ!」


「了解!」


俺は逃げて逃げて逃げまくった。スタミナは気にしていなかった。パケットが見えなくなるところまで走った。


だが、半分を過ぎたくらいで身体に疲労が襲った。流石にペースが無茶だったか。だが、こんなところで負けてられるほど、俺は甘くない。俺はペースを保つ事に徹した。


「パケット、仕掛けろ!」


残り400m地点でパケットが仕掛けてきた。そこまで10何馬身あった差が、どんどん縮まっていく。


俺にも意地がある。必死に粘って、何とか並ばれないように走った。北風が身体に刺さる。疲労の色が隠せない。力が出ない。こんなんじゃ、ダメだ!


「よぉ、やっぱりお前の逃げは大したことないな」


気づいたら、隣にパケットがいた。まずい展開だが、ここで奴を調子づけさせたら最悪だ。


「そうか?けど、お前ももう体力がないだろ?お前、練習真面目にやってないだろ」


「何を根拠に?ただの負け犬の遠吠えかよ」


本当にこいつはウザったい。その調子にのった顔みてると、イライラしてくるぜ。


「お前自分の腹見てみろよ。たるんでるぜ。それはどう見てもサボってる証拠じゃねぇか!」


奴の顔が一気に曇る。気にしてたんだな、お腹。


「なんだよ! お前は現に俺に負けてるんだ! 血統が違うんだよ!」


本当に腐りきった根性してるよ、お前は。血統か、そうかそうか。


「血統ね、そんなんに頼ってるからダメなんじゃねぇの?」


「!?」


「腹だったりよ、血統だったりよ、そんな細かいことばっかり気にしてるから、俺に足元を掬われる。だからお前は勝てないんだよ」


「そんな事負け犬の……ハッ!」


パケットは唖然とした。それは、残り200mで、慎二が前に出ていたからである。それも、3馬身離れている。体力のないパケットには、絶対に届かない。どうして伸びたのか?どうして俺は伸びないのか?それは、今までの調教による鍛え方の違いだった。それに気づいたのはもう最終直線に差し掛かった頃。パケットは、自分の行動に苛立ちを覚えた。何故あそこでやらなかったのか。数々の思いがその太りきった馬体を駆けた。しかし、彼は動けなかった。どれだけムチを使っても、もう追いつけない。


「ちくしょォォォォ! 逃げるなァァァァ!」


奴の怒号が響く。いい気味だぜ。そして俺は、この牧場に叩きつけるように叫んだ。


「逃げるなと言われて止まるやつがいるかよ! これはなぁ、てめぇが馬鹿にしてた努力の成果だよ! スタミナも、根性も、末脚も、スピードも、全部俺の努力が勝っただけだ!これこそが、俺の、いや、俺たちの!」


「努力の勝利だ!」


俺はゴール板を駆け抜けた。

ご閲覧頂きありがとうございます。

誤字等ありましたら、コメントにてよろしくお願いします。

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