継承者
うーん、毎日投稿できないねぇ…
「ひとまずはおめでとう、シンジくん。これで君はまた1つ新たな武器を手にしたわけだ。この短時間での習得、誇ってもいいと思うよ」
スプリングスターさんは笑顔で俺を称えてくれた。それに俺ももちろん笑顔で答える。
「はいっ!ありがとうございます!」
……
俺たちは山から降り、つかの間の休息を味わっていた。いくら運動量が少ないといったって、身体には必ず負担がくるものだ。俺は身体を再度万全な状態へと帰すため、柔らかな芝生でゴロゴロしていた。
「あ、あのっ!シンジスカイブルーさん!」
どこからか俺を呼ぶ声が聞こえた。俺は周囲を見渡す。右隣にはスプリングスターさん、左隣には名も知らぬ牝馬。もしやと思い、俺は後ろを振り返った。そこにいたのは、若さを感じる小柄な月毛の牡馬だった。そのクリーム色のたてがみは太陽の光を受けて金色に輝き、目からは力強さを感じる。身体は小さいが、何故か光るものを感じる―そんな馬だ。生憎、俺は彼に見覚えがなかったため、
「んーと、君はどちら様かな?」
と返した。そうすると、彼は大きな目を輝かせながら元気な声を発した。
「俺はレジェンドコネクトっていいます!今はまだ1歳で、来年からデビューするんでします!」
なるほど。さしずめここ"日高ホースパーク"で生産されたサラブレッド、といったところか。でも、そんな奴が俺に何の用だ?そう思った俺は彼に尋ねてみた。すると、彼はまた目を輝かせ、俺問に答えた。
「あの、俺シンジスカイブルーさんの大ファンなんですよ!こんな所でお会いできて光栄です!」
「……どっひぇっ!お、俺のファン!?」
こいつは驚いた。人間のファンならまだわかる。けど、馬のファンか……
「え、でも、どうやって俺の情報を入手したんだ?この閉鎖的な空間じゃ、情報を入手するのは難しいだろう?」
俺は思ったことを素直に声に出した。俺やアカガミリュウオーは元人間―だからこそテレビや新聞を通して情報を入手できていたが、コネクトはそうもいかないだろう。俺がそう考え込んでいると、彼から意外な答えが帰ってきた。
「そりゃあもちろん、人間さんに見せてもらうんですよ!会話してね!」
「……はぁ、こいつもか」
もうツッコむのも飽きたよ。どれだけ人間と話せる奴がいるのか。しかも、こいつはスプリングスターさんと同じ、突然変異型だろう。これじゃ、個性の大安売りだよ。
「俺……本当にシンジスカイブルーさんに会えたんだな……。嬉しくて……感動で……頭が……」
彼はいきなり涙を流し始めた。おいおい、俺なんかに会えたぐらいで泣くなよ。最初はそんな事を思っていた。だが、俺の中である事への興味が湧いた。俺はそれを聞いてみることにした。
「なぁ、なんで俺のファンになってくれたんだ?」
俺の言葉に反応して、彼は首を上げる。その瞳は涙に濡れて、より一層輝きを増していた。彼は涙を拭いた。
「え、えっと……」
彼は明らかに話しづらそうにしていた。話したくなかったら、話さなくていい。俺はそう伝えたが、彼は震える喉を抑えて、事情を話してくれた。
「あの、実は俺、ここでいじめられてんですよ。他のみんなは人と話せないみたいで……俺だけが話せちゃうものだから、気味悪がれちゃったんですよね。へへ……」
俺は唖然とした。彼の明るい笑顔には、こんな悲しい過去があったとは。だが、それが俺を俄然ひきつけた。状況は少し違うが、いじめられていた過去は俺と同じだ。だからこそ気になった。彼の過去について、もっと知りたくなった。
「その時は本当に辛かったです。でも、元気の無い俺を見かねた厩務員さんが俺のためにレースを見せてくれたんです。それが、俺の運命の分岐点でした」
「そのレースは東京スポーツ杯2歳ステークス。そのレースに勝った馬は、速かった。どんなライバルも置き去りにして、圧勝したんです。その馬こそ、あなた。シンジスカイブルーでした」
「当時の心境は今でも思い出すことができます。その走りの美しさ。多くの人を引き付ける強さ。そして……"他者から抜け出すかっこよさ"。ソレかが、俺に力を与えました。俺はその日から今日まで、あなたを目標にトレーニングを積んできました。それは今後も変わることはありません」
「シンジスカイブルー、あなたは俺の目標であって、走る理由です。ホープフルステークス、弥生賞、皐月賞、そして日本ダービー……あなたの走りはいつも俺を夢中にさせます。だからこそ、俺はあなたを応援します。いつかは、あなたと共にレースを……」
その言葉は俺の中に深く入り込んだ。彼の健気な姿勢、応援してくれていることへの感謝。そして、"ファンを抱えて走る事の覚悟"。俺の心は、再び燃え始めた。そう、俺の数少ないファンのため、菊花賞を勝つ事へ―
「そうか、教えてくれてありがとな。それと、俺が1つ言えることは……」
「?」
「君が来るまで、俺は勝ち続ける。君の前を常に進み続ける。君が俺に追いついた時―その時は対等な立場で戦おう。"シンジスカイブルー"と、"レジェンドコネクト"として」
「……っっはいっ!」
その覚悟を受け止めて、俺は微笑を浮かべた。
「ほう、いい顔になったね。ひょっとして、なんかあった?」
寝起きなのかあくびをしているスプリングスターさんが俺の方を見る。俺はそれにいつもの顔で答えた。
「ええ、ほんの少しだけ……ね」
あの坂路がある山。いつもは淀んだ緑をしているが、今日だけは太陽の光を受けて、青く光って見えた。
そう、あの青空に呼応するように。
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