40.復活の星
ひっさしぶりの投稿です!
リハビリも兼ねての投稿ですが、ご容赦ください!
「ふう、やっとか。やっと、帰ってきたんだな。ながい、ながい1日だった」
俺は馬運車を降りて外の空気を吸う。うん、これだ。この感じ。自然に溢れる大地、生暖かい風、生きる力……ここには、光が溢れている。
「シンジ、おめでとう。やっぱり、お前はすげえよ」
俺の後に降りてきたパケットがそう言った。俺はその方向を見て、彼の顔を見つめた。春の風が俺たちの間を過ぎる。数拍の沈黙の後、話が再開された。
「あの逆境の中から抜け出してさ、俺たちをいつの間にかおいて行っちまった。生まれてこの方、お前に勝てたことは1回もねぇ。それだけじゃねぇ。お前の唯一無二のライバル、アカガミリュウオーまでねじ伏せちまった。お前は、最高の競走馬だよ。“優駿”っつう言葉は、お前のために在るのかもな。今日は、本当におめでとう!」
パケットの熱い言葉で、俺の中に再び熱い気持ちが湧き上がっていた。次のレース―菊花賞に向けて、心が今にも駆け出しそうだった。だが、その前によっていかなきゃいけない場所がある。まずは、そこに行こう。
「「「今回はぁぁぁ!誠にぃぃぃ!申し訳ございませんでしたぁぁぁぁぁぁ!」」」
馬房へと歩みを進めようとしていた時、あの3頭が俺の前に頭を下げに来た。正直、こいつらの顔さえ見たくなかったが、こんな状況なかなかない。少し、遊んでみようかな。お灸もすえながら。
「あのさ、君たち一体全体何がしたいの?俺たちのレース邪魔して、結局負けて。君たちも元人間で、言葉がわかるんでしょ?なら、君たちがなんて言われてるか知ってるよね?“負け犬の集まり”だよ?で、君たち何しに来たの?」
俺の威圧的な表情・言動に、奴らがだじろぐ。ふん、妨害しようとした罰だ。そこから少しした後、その中の1頭、アースガルドが話し始めた。
「いえ、このような薄汚い真似をしてしまい、大変申し訳ないなと……」
「甘いんだよぉ!考えが!」
俺の叫び声に辺りが騒然とする。パケットは達観したままだった。話を遮らせる間もなく、俺が再び話を始める。
「日本ダービー。これが俺たち競走馬にとってどれだけ大きな意味を持つか、お前たちにわかるのか!?もちろん、シンジストライプの記録もそうだよ!アカガミリュウオーとの勝負もそうだよ!だけどな!それよりも大きな意味を持つレース、それこそが日本ダービーという舞台なんだよ!それを汚すとは何事か、恥を知れ!」
「ひ!そ、それならば何をすれば許していただけますか……?」
「その考えこそ甘い!お前の謝罪には心がこもっていない!そんな口先八丁の謝罪なんて目障りなだけだ!しかも、お前らの罪はどんなことをやっても許されるべき行為ではない!一生、ああ一生だよ!俺たちの伝説的なレースが語り継がれる中で、お前たちの汚名は広がっていくんだ!それを背負って!一生罵倒されて!レースしろ!」
……は。少し我を忘れて怒りすぎてしまっていた。すでに奴らは魂が抜けたような顔をして、脚を地面についていた。周りの雑音が大きくなる。俺はそれに対抗するように、口を開いた。
「……1つだけ許される可能性があると言うなら……」
「「「え……」」」
「それはお前らが死ぬほど努力して、多くの人の目が集まるレースに勝って汚名返上することだけだ。それだけが、お前たちに残された唯一の希望だ。だから……」
「精一杯努力しろ!自分たちの武器を有効活用しろ!不正なんかに使っていい武器ではない!正しい使い方で!正しい勝利を掴み取ってみろ!努力の力を、お前たちを貶すものに見せてやれ!才能とか、血統とか関係ねぇ。お前たちが頑張れば!人はそれに必ず気付いてくれる!」
「思うに、努力とは橋のようなものだ。特定の人が作り、仲間と協力しながら地道に積み上げ、多くの人を希望とともに運ぶ基盤となる。その基盤を作ること―それが今、お前たちがやるべきことだ。……じゃあな。お前たちが変わることを、俺は信じてるからな……」
それだけ言って、俺はこの場を立ち去った。その時にはもう既に雑音は無く、彼らの目を涙がつたる音が微かに聞こえるのみだった。
「……シンジくん、やっぱり、君はシンジくんだ」
ナイトの馬房に近づいたら、開口一番そんなことを言われた。だが、その声に迷いや悲しみはない。明るく、カラッとした声だった。
「僕はね、君と出会えて本当に良かったと思ってるんだ。もし君がいなかったら、僕はここにいない。もし君がいなかったら、僕は再び走れなかった。君がいたからこそ、僕の心に火が灯った。君は、僕のライバルであり、友達であり、走る理由だよ」
彼の目に涙がじわぁっと溢れる。嬉しいね、こんちくしょう。こんなこと言われて、嬉しくない男はいるかよ。
「シンジくん!」
そんな感慨にふけっていると、ハッキリとしと声でナイトが俺を呼んだ。俺は慌てナイトを見る。
「僕は、札幌記念にでるよ。その後は京都大賞典にでて、最後にアルゼンチン共和国杯だ。それをもし全て勝てたら……君と有馬で戦おうと思う」
「大丈夫か?かなりのハードスケジュールだが……」
俺のそんな声に、彼は満天の笑みで返した。強くなったな。
「うん!こんぐらい勝たなきゃ、有馬なんて出れっこないさ。僕はあえて君と違うレースに出る!そして、最後には君とあの夢舞台で戦うんだ!」
その決意に声に、俺も笑顔をつくって答える。つかの間、俺達の中に笑いが起こった。
「さて、そろそろ寝ようか。君は菊花賞、僕は札幌記念に向けて明日から再始動だ!」
ナイトはそう言って、俺の背中を頭で押した。まるでこの挑戦を応援しながら支える親のように。
「君は僕と違ってファンのみんなが必要としている。そう、期待されているんだ。だから、その期待に答えなきゃ。」
「でも、お前は……」
「僕は大丈夫!こっから、失った信頼を取り戻すための挑戦をし始めるんだ。再び注目されて、有馬に出て、優勝するためにね!だからさ……ほら!早く帰りな!"葦毛の雄王"!」
俺は渋々自分の馬房に帰った。空には、色とりどりの星が光を放っていた。それは自分で光を放っているのか、他の星から光を受けて光っているのかわからない。だが、そんな景色を見ながら、思ったことがある。
「これこそ、希望というものだよなぁ」
と。
「あ、流れ星……」
星々の間を、青い光を放ちながら過ぎ去っていく流れ星……俺は今日の事を思い出し、ただぼーっと美しい世界を眺めていた。そんな時、ふとあの単語が頭に浮かんできた。
「"葦毛の雄王"か……」
今回もご閲覧ありがとうございました。
この作品が面白いと感じたら、評価ブックマークよろしくおねがいします。




